【ネット社会アーキテクチャー研究会】
第1回「ネット社会アーキテクチャー研究会」開催

会場の様子
会場の様子
 6月28日(水)、日経デジタルコアは、産業レベルでのネットワーク活用をより一層有効に進めていくための課題と解決策を探ることを目的とした「ネット社会アーキテクチャー研究会」を発足した。
 第1回目のテーマは「ネットワークの中立性とコスト負担」。研究会主査であるインテック・ネットコアの荒野高志氏よる研究会発足の主旨についての説明の後、昨年秋に総務省が設置した「IP化の進展に対応した競争ルールの在り方に関する懇談会」での議論と論点について、デジタルコアメンバーでもある総務省の谷脇康彦総合通信基盤局料金サービス課長が解説した。続いてマイクロソフトの田中芳夫氏、USENの石川和男氏にもそれぞれの立場からスピーチをいただき、最後に参加者を含めたディスカッションを行った。

荒野氏の挨拶から

荒野高志氏
荒野高志氏
 コンピューターネットワークとして始まった情報通信は、携帯電話やインターネットの普及にともない、あらゆる産業と融合するインフラに成長しようとしている。しかしながら、産業分野によって通信インフラの利活用レベルはさまざまであり、それを支える通信インフラの在り方は未だ十分に議論されていない。そこで、この研究会では、今後の通信のあるべき姿を徹底的に議論していきたいと考えている。
 第1回目のテーマは「ネットワークの中立性」。今後はNGN(Next Generation Network)やIPv6なども含め、あらゆる産業とネットが融合していく社会へ向け、解決すべき課題を取り上げて議論していきたい。

谷脇氏の講演から

谷脇康彦氏
谷脇康彦氏
 通信網がPSTN網(公衆交換電話網)からIP網へと急速に転換する中で、通信を取り巻く環境は大きく変化してきた。そして本格的なブロードバンド時代を迎えた今、物理網や通信サービス、プラットフォーム、コンテンツ・アプリケーションといったサービスの各レイヤーがモジュール化され、そのモジュールを1社あるいは複数社が組み合わせて提供するという垂直統合型のビジネスモデルが拡大するだろう。このような状況を受け、総務省では「IP化の進展に対応した競争ルールの在り方に関する懇談会」を昨年10月に発足した。米国連邦議会でも、ネットワークの中立性について法制化する動きが進んでおり、この議論は、国内外を問わず活発になっている。
 IP網の公平利用のためには、利用者の観点から次のような原則がある。「利用者がIP網を柔軟に利用して、コンテンツ・アプリケーションレイヤーに自由にアクセスできること」「利用者が技術基準に適合した端末をIP網に自由に接続し、端末間の通信を柔軟に行えること」「利用者が通信レイヤーおよびプラットフォームレイヤーを適正な対価で公平に利用できること」の3つだ。その原則をふまえて考えると、ネットワークの中立性とは「利用の公平性」「コスト負担の公平性」という2つに整理することができる。
 利用の公平性の観点からは、ネットワーク側とエンド側の双方が、いかにして通信制御などの機能を選択可能な形で持ち得るかが論点となる。これを解決するためには、各レイヤー間のインターフェースのオープン化が必要だ。アプリケーション利用の同等性の確保、プラットフォーム機能のオープン性の確保、端末のオープンな接続の確保が重要となる。
 コスト負担の公平性の観点からは、急増するトラフィックに対応する設備増強コストを誰が負担するかが最大の課題だ。リッチコンテンツの配信にかかわる追加料金徴収の妥当性、技術革新にともなうコスト吸収の可能性、事業者間コスト清算の妥当性、帯域別料金の妥当性、といったところが議論の対象となるだろう。

田中氏の講演から

田中芳夫氏
田中芳夫氏
 マイクロソフトは、総務省の「IP化の進展に対応した競争ルールの在り方に関する追加意見募集」の呼びかけに応じ、今年5月に意見書を提出した。そこでは、通信事業者の垂直統合を認めるべき、と言及している。
 かつてIBMは、オープンアーキテクチャーで成功し、水平統合型のビジネスモデルを築いた。マイクロソフトも同様に水平統合を推進してきた。一方でアップルは、ハードウエアであるiPod、ソフトウエアであるiTunes、そしてコンテンツ配信サービスであるiTunes Music Storeを連携させた垂直統合型ビジネスモデルを確立させている。
 通信サービスにおける垂直統合型のモデルでは、一定のルール、原則に基づいて、ネットワークの中立性を確保することが必須といえる。それによってインターネット上にあるコンテンツ、サービス、アプリケーションを選択する権利が消費者のものとなるからだ。
 だが一方で、インターネットは自由な環境のもとでイノベーションが繰り返され、発展してきたという歴史がある。水平統合か垂直統合か、いずれにおいても過度な法規制によってそうしたイノベーションが妨げられるべきではない、ということが重要なのではないかと考えている。

石川氏の講演から

石川和男氏
石川和男氏
 1961年に有線放送を開始したUSENは、99年にインターネット接続事業に参入した。2001年には光ファイバーによるブロードバンドサービスを開始、そして2005年に「完全無料パソコンテレビ『GyaO』」をスタートさせた。またこの間、2000年にユーズコミュニケーションズ(現UCOM)を設立し、IPバックボーンのインフラも提供している。いわゆる「ネットワークただ乗り論」ではたびたびUSENの名前が浮上するが、我々としてはインフラから接続サービス、コンテンツまでを広く手がけているということも理解してほしい。
 通信網増強のためのコスト負担については、基本的に現段階で何かを決めるための議論をすべきではない、と考えている。というのも、今はようやく光インフラに見合ったリッチコンテンツが出始めたばかりだ。新しいインフラを生かしたサービスがある程度出そろったところで、議論していくべき問題だと思う。
 当社の意見としては、(1)事業者が利用者にコスト負担を求めるかどうかは各社の判断(2)通信事業者が直接契約していないコンテンツプロバイダーにコストを転嫁するのは不適当(3)QoSは各通信事業者の努力によって向上を図るべき、というところだ。
 「GyaO」は登録ユーザー数が1000万を超えた。しかし「GyaO」だけの話ではなく、1ユーザーあたりのトラフィック総量が増加している、ということに着目しなくてはいけない。それに対応していくために、各分野の事業者とともに知恵を出し合って議論していきたい。

ディスカッションから

 主査の荒野氏からは「中立性の議論は、IPネットワークの話なのかインターネットの話なのか」という指摘があった。谷脇氏は「ネットワーク増強のためのコスト負担の在り方が議論の発端。その意味ではIPネットワークの話ということになる」と答えた。
 また谷脇氏は、米国と日本における中立性議論の違いについて、「米国の中立性の議論は、タイムワーナーとAOLの合併のとき、競合するISPが差別されないか、と懸念が生じたのがきっかけだった。その意味では日本と米国とでは議論の出発点は異なる。米国のISPは情報サービス提供事業者だが、日本のISPは通信事業者なので通信キャリアの問題も扱える点にも大きな違いがある」とコメントした。
 さらに会場からは「現在、コストの多くを占めるのは基幹網で、動画などのコンテンツのトラフィックは収益を脅かすほどではない。しかし、動画系の利用伸び率は著しく、このままではプロバイダーのビジネスが成り立たなくなるのでは」との声も寄せられた。

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