【ネット時評 : 市川明彦(日立製作所)】
インターネット「次の10億人」へ向け小型衛星携帯普及を――国連IGFに参加して

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 私は11月12日から15日まで、ブラジルのリオデジャネイロで行われた国連インターネットガバナンスフォーラム(IGF)に、日本経団連情報通信委員会の「ITガバナンスワーキンググループ」兼「国際化ワーキンググループ」の委員として参加した。その概要については前回、前々回と加藤幹之氏が詳細なリポートを展開しているのでそちらに委ね、自分なりにまた違った視点で感じたことを述べてみたいと思う。


 私がこの会議を通じて強く感じたキーワードは「Next Billion(次の10億人)」と「バランス」である。


次の10億人にインターネットをもたらす

 「Next Billion」。現在のインターネット人口を約1Billion(10億人)と見て、さらなる次の10億人に対しインターネットにアクセスできる状況を提供するにはどうすべきか――という問題意識である。この次の10億人の人たちは、当然今の10億のユーザーより、経済的にも、情報リテラシー的にも厳しい条件にある。そこで、いくつかの工夫が必要になる。例えば、下記のようなことだ。

(1)より安いコストでのインターネット環境の構築
(2)英語でない、自国・地域の言葉によるコンテンツの利用の促進
(3)豊富なアドレス・ドメインの提供
(4)悪用の阻止

 これらに対し、今回のIGFではそれぞれ具体的な提案がなされた。例えば、(1)については無線網や携帯ネットワークの活用、(3)についてはIPv6への移行や各国語ドメイン名の導入などである。

 また条件、状況が厳しくなる分、それらネット環境を経済的に成り立たせる「ビジネスモデル」は何かも課題だと指摘された。アフリカからの出席者からは「高価なPCやプロバイダー加入料、通信料という費用を上まわる目先の利得が得られないと、個人的なネット利用の普及は難しい。今はビジネス利用がほとんどだ」との発言があった。

 私は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が技術試験衛星「きく8号」で実験することを目論んだような、小型でも送受信できる衛星携帯電話か多機能携帯端末(スマートフォン)の登場が「次の10億人」へのカギを握るのではないかと考えている。それがIPv6をサポートし、普及すればさまざまな課題を解決できる。先進国は、そうした通信衛星の利用料を援助することを検討してはどうかと考えた。


自由と規制のバランス

 途上国関連ばかりでなく、ネット先進国での諸問題(サイバー犯罪対策などのセキュリティー、表現の自由、正確性、著作権、プライバシー、児童ポルノ、インターオペラビリティーなど)関連セッションも出席者を集めた。

 メーン会場で行われたセキュリティーセッションを始め、多くの議論の中で、表現・利用・アクセスの「自由」と、不法・違法・悪意行為対策のための自主的あるいは法的な「規制」のバランスを取ることが重要との指摘がなされた。オープン性のセッションでは、前回のコラムにあるように加藤幹之氏が日本における「プロバイダ責任制限法」とその実施に際しての民間自主ガイドライン、自主規制の組み合わせが効果を上げている例を紹介した。これは、理念的な発言に偏りがちなパネルディスカッションにおいて、具体的な「バランス」の実践として、ひときわ光っていた。


IPアドレス、ドメインに関する議論

 会津泉ハイパーネットワーク社会研究所副所長がモデレーターを務めた、IPv4からIPv6への移行に関するセッションでは、日本の、ブロードバンド常時接続の普及によりIPv4アドレスの枯渇問題が現実味を帯び、IPv6への移行対応が進んでいるという状況が、特にアドレス割り当ての少ないネット途上国から注目された。だが一方で、途上国の現在のIPv4対応PCと先進国のIPv6対応PCが確実に接続できるようにすることも課題と指摘された。

 興味深かったのは、レジストラー(ドメイン登録事業者)が主として集まったセッションである。地域を示すトップレベルドメイン(欧州の.eu、アジアの.asiaなど)はすでに使われ始めているが、さらに都市名コードを用いたドメインの可能性について言及していた。例えば東京なら「.tyo」といった具合にドメインを作る計画である。もっともこれは便利さの為というより、レジストラー事業者のビジネス拡大の為では、という印象もあった。


会議を終えて

 加藤氏のリポートにもあったが、多様性をテーマにしたメーン会場のセッションで、タイの全盲のパネリストMonthidn Buntan氏が障害者対応の推進を訴えていた姿は、私も強く印象に残った。セッション後、彼と会話する機会を得た私は日本の取組を紹介しようとしたが、氏はDaisy(Digital Accessible Information System、視覚障害者に向けたデジタル録音図書の国際標準規格)コンソーシアムなどの支援でしばしば来日しているとの事だった。日本での再会が楽しみである。

 またICTの利活用・普及度をいかにして計り、明示できるかをテーマにしたセッションで、私は、GBDe(Global Business Dialogue on Electronic Commerce、電子商取引に関する国際団体)での電子政府ワーキンググループ座長代理を務めた経験から、電子申請、申告等において、中央側での業務処理がなされ、最終結果を受領するまでの回答に要した時間の改善度を指標の1つとすべきと提案した。

 個人的に非常に充実した議論ができた機会となったが、会議全体の運営も、昨年の経験を踏まえて大いに工夫されていたように思う。前回はどちらかというと参加各者の言い放し、という形だったが、今回は意見の交換の場面も多くあり、より実質的な会議になった。しかし、その分専門的になり、背景知識のない参加者には、やや敷居が高くなってしまったかもしれない。

 来年、インドのニューデリーで開催される第3回目の会合の議題として、IGFのゴールは何か、という論議や、インターネット関連の組織(ICANN論議の再燃に発展する可能性も)・制度・ビジネスなどのコンバージェンス(融合)論議なども提案された。また「バランス」の視点から、女性やNGOからのパネリストの積極的に登用すべきという声もあった。

 このうち、コンバージェンスが来年の重要なキーワードの一つになることは間違いない。だが、ビジネスの要素が絡むので議論の取り回しは非常に難しくなるだろう。


<筆者紹介>市川 明彦(いちかわ あきひこ)
日立製作所 公共システム事業部 グローバルビジネス推進センタ 副センタ長
日立製作所 情報通信事業グループにて電子商取引ビジネス推進を担当し、現在は公共システム事業部で電子政府などを含む海外の公的部門へのソリューションビジネス展開を担当。流通経済大学講師、日本経団連ITガバナンスWG委員などを歴任。公認システム監査人、公認情報セキュリティ監査人。著書に「インターネットコマース新動向と技術」(2000年2月、共立出版)がある。

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