【ネット時評 : 市川明彦(日立製作所)】
10年目のインターネットとこれからの10年――楽観・懸念・そして期待

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私は昨秋、図らずも3週連続してインターネットに関連する国際会議に出席する機会を得た。まずAPEC(アジア太平洋経済協力会議)の情報通信関連会議(APEC/TEL、10/25-28・ニュージーランドのオークランド)、次に国連のインターネットガバナンスフォーラム(IGF、10/31-11/3・アテネ)、そして電子商取引・電子政府の世界的拡大を推進しているGBDe総会(11/8-10・台北)である。

10年前の「杞憂」

1996年、当時の政府による電子商取引促進施策に呼応して社内に新設された「電子商取引ビジネス推進センタ」初代部長に就任して以来、私は一貫してインターネット関係の業務に携わって来た。それまでは、発売したばかりのWindows95搭載PCを購入しインターネットに接続してみても、メールを送る相手もおらず、見たいサイトもあまりなくてほとんど利用していないような状態だった。だがその役職に就いて以来、いや応なくインターネット関連の世界に日常的に引きずり込まれた訳である。それからちょうど10年となる節目の年に、上記のような会議に出席する機会を得た事は、何かの因縁かも知れない。

これらの会議を通じ、私がこの10年間で次第に感じ始めていたインターネットの持つ課題について、多くの「楽観」と、多少の「懸念」、そしていくつかの「期待・希望」を得ることができた。これにより自分自身の中に1つの区切りを与え、心の中の澱(おり)の様なものがずいぶん解消した。

10年前、政府や関係する企業はどうしたら日本の人たちにインターネットや電子商取引を使ってもらえるかどうかを検討し、腐心した。今振り返れば、それは杞憂(きゆう)であった事になる。

その代わり、この「ネット時評」でも多くの方が指摘しているように(インターネットの誕生や発展の経緯からすれば当然ではあるが)、そこは「安全・安心」な世界ではなく、「情報格差」による「経済格差」を生む結果ともなっている。

安全・安心分野は楽観

私が「楽観」「期待」を得られたのは、この「安全・安心」についてである。IGFでの論議については、すでに富士通の加藤幹之さんが11月に本欄でレポートされておられるので参照して頂きたい。私が特に印象的だったのは、FIRST(Forum of Incident Response and Security Teams)や各国CSIRT(Computer Security Incident Response Team)の働き、活動が世界的に広がり、根付いているということだ。これらの連携が強化されれば、かなりの犯罪、事件に対応できるのではないかと思う。

日本経団連もIGFで提言書を出したが、取り上げられ方も反応もいまひとつだったのは非常に残念だった。この分野における活動は日本が官・民とも実質的には一番しっかりやっていると思うからだ。

懸念と期待の交錯

一方で、残念ながら「懸念」を抱いた事項もある。「情報格差」が「経済格差」を生むという問題である。2000年の九州・沖縄サミットでも「デジタルデバイド(情報格差)」が取り上げられ、各種支援策も提案・実施されてきたが、世界全体を見たとき、この格差拡大のスパイラルは更に大きなものになっていると感じた。その克服には、遅れている国のトップの強力な指導力と、富裕国・富裕層による数兆円規模の大幅かつ戦略的な経済支援がないと無理ではないかと思う。それを「期待」したい。

私が昨年出席した会議では、現行インターネットの課題への解決策として次世代ネットワーク(NGN)が取り上げられた。NGNがどのようなものかは国際電気通信連合 電気通信標準化部門(ITU-T)勧告のY.2001「General overview of NGN」(http://www.itu.int/rec/T-REC-Y.2001-200412-I/en)に詳しいが、要するにNGNとは、今のインターネットが一般道路・在来線だとすれば、有料高速道路・新幹線である。今後はリスクや不安はあるが、安くて大衆的なネットと、ある程度の保証はあるが、それなりに利用料が高いネットが並存し、相互接続するする事になるのだろう。もっとも、NGNが世界的に利用できるようになるまでにはあと10年近くかかりそうである。これも「期待」だ。

IGFの会合には、日本から市民団体代表の一人として会津泉さん(ハイパーネットワーク社会研究所 副所長)が出席し、盛んに発言されていた。産業界から出席した私とは立場は多少異なるが、私は同じ日本人として会津さんを誇りに思いたい。ご自身はそろそろ次世代の若い人に引き継ぎたいと言っておられるが、それはそれとして、今後も大いに国際的な場に出席・発言して欲しい(私よりずっとお若いのだから!)。「期待」させていただきたい。

「ネット長者」なり損ねた?

この10年間を振り返って、かえすがえすも残念な事が3つある。その3つのアイデアを私は10年前に持ち、提案したが実現には至らなかった。周囲の反対もあったが、それよりも私自身にその反対を乗り越える信念がなかったのだ。

第一に、当時はインターネット、電子商取引をいかに広めるかに腐心していたわけだが、いずれそれらが普及し、誰もがネットを使い情報発信するようになったときのために、情報の確かさを評価する(レーティング)ビジネスを展開するべきではないか、ということ。

二番目に、PHSの実証実験に参加したときに、今後は音楽をCDの購入やレンタルによってではなく、ネットを通じたダウンロードやストリーミングで聴くようになると感じた。これもビジネスになったはずだ。

そして最後に、社内の研究所が試作した、2次元静止画像(写真、アニメーション)からデジタル技術により3次元静止画像を作成するシステムを見たときに、怪獣のようなキャラクターを、パーツの自作やネット上での交換・売買を繰り返して変身・進化させていくオンラインゲームソフトを思いついた。映画「ジュラシック・パーク」のような世界だ。

この1つでも、信念と勇気を持って周囲を説得して実現させていたら、あるいはスピンオフして起業し、ブラッシュアップしていたら、今ごろはネット長者になった(かも?)なぁ……。

その点では、アイデアをアイデアだけに終わらせず、実現にまで到達させた楽天の三木谷浩史氏のような人物は、尊敬に値する。その創業当時の模様を知っているだけに、なおさらそう思うのかもしれない。

<筆者紹介>市川 明彦(いちかわ あきひこ)
日立製作所 公共システム事業部 グローバルビジネス推進センタ長
日立製作所 情報通信事業グループにて電子商取引ビジネス推進を担当し、現在は公共システム事業部で電子政府などを含む海外の公的部門へのソリューションビジネス展開を担当。流通経済大学講師、日本経団連ITガバナンスWG委員などを歴任。公認システム監査人、公認情報セキュリティ監査人。著書に「インターネットコマース新動向と技術」(2000年2月、共立出版)がある。

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