【ネット時評 : マーカス・クマー(国連IGF)】
インターネットガバナンスフォーラムの未来――特集IGF2008(5)

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 このコラムでは計4回にわたり、昨年12月にインドのハイデラバードで行われた国連主催の「インターネットガバナンスフォーラム」について考えてきた。この特集の締めくくりとして、この会議の事務局長であるマーカス・クマー氏の特別寄稿を掲載する。
 

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最も成功した会合

 2005年にチュニジアのチュニスで開催された世界情報社会サミット(WSIS)第2回会合は、国連事務総長に対し「すべての利害関係者(マルチステークホルダー)が対話する新しいフォーラム」としてインターネットガバナンスフォーラム(IGF)の設立を要請した。IGFは、WSISの大きな成果のひとつと考えていいだろう。インターネットは政府、民間企業、市民社会、インターネットコミュニティーなどすべてを含めたマルチステークホルダーの協力によって管理されるべき、という本質的な結論を、各国政府の首脳たちがチュニスに集って導き出したのだから。

 その後2006年にはアテネ、2007年にはリオデジャネイロ、そして2008年は12月3日から6日まで、インドのハイデラバードで年次総会を開催した。ハイデラバード会合の全体テーマは「すべての人のためのインターネット」。94カ国から1400人以上の参加者があった。多くの意見も発表され、今までで一番成功した会合になったと思う。政治的に敏感な問題をも誠実に話し合うことができた、という意味で、IGFが成熟してきたことも感じさせた。

 またメインセッションの広範囲なテーマとは別に、個別のテーマごとに合計87にも及ぶワークショップ、成功事例を検証するベストプラクティスフォーラム、立場の違いを超えたボランティア連携であるダイナミック・コアリションのミーティング、オープンフォーラムといったサブセッションが平行して行われた。議論の内容は議長要約に反映され、IGFのウェブサイト(PDFファイル)に掲載している。

 それぞれの議論をつなぐ糸は、全般に掲げられた「すべての人のためのインターネット」の重要性を認識することだ。インターネットが世界中に経済的、社会的な利益をもたらす大きな可能性があることに注目しながらも、悪用された場合に引き起こす問題を防止することの必要性についても考えた。


マルチステークホルダーへの高い評価

IGF2008で議論された内容にはいくつかの共通点がある。

●どの問題に取り組むときも、マルチステークホルダーの協力というのは必要不可欠の前提のようだ。すべてのユーザーはインターネットの一部を構成しており、同時に解決策を見出すための共同責任者でもある。

●インターネットガバナンスは国際的に議論する必要があるが、地域レベルで実践されるべきものでもある。各国、各地域で解決策を見出すのが先決、という場合も多い。

●「ひとつの方法がすべての解決をもたらす」わけではないという一般的な理解がなされた。すべての国がそれぞれの国の状況に応じた自身の解決策を見出す必要がある。ベストプラクティスの共有や情報交換を通じて、各国が自国のニーズに適した解決策を見出さなくてはいけない。

 IGF自体の役割も議論の焦点となった。IGFがより具体的に行動するべきという声がある一方で、協定の作成を目指したり、オフィシャルな体制の一部として位置づけられるよりは、IGFの独自性を重視すべきだ、という考えも示された。IGFがほかでは見られないようなパートナーシップや連携を作り上げることに成功しているからだ。そしてIGFのオープンなマルチステークホルダーモデルは高く評価されている。いくつかの国や地域で、IGFにならい政策決定プロセスにマルチステークホルダーモデルの発想やその価値を取り入れる例も出始めている。また、IGFが他では議論されなかった問題を扱ってきたからこそ重要なのだ、という指摘もある。メインテーマとして挙げられた問題ひとつひとつは他の場でも論じられているかもしれないが、それらをトータルに考える機会は他にはない。このように、異なる議論を結びつけて考えようという姿勢がIGFの優れた点であると言える。


IGFの将来

 IGFの設置に関する指示書には、暫定的に期間を5年とすること、その終了時に見直しを行うこと、とある。WSISが国連事務総長にフォーラム設置を要請した際「設置から5年以内にフォーラム参加者へ正式に諮問し、継続の希望について検討するよう国連加盟国に勧告する」としたからだ。これに基づき、今年の11月15日から18日まで、エジプトのシャルム・エル・シェイクで開催する次回のIGFにおいては期限についての正式な諮問がなされる予定だ。

 これまでの3回の会合によって、IGFはその価値を示したというのが大方の見方だ。しかし、IGFの強みと弱み、役割と機能について異なる意見も出ている。ある人たちは、IGFに意思決定の機能がないことは弱みであるとして、それを持つべきだと主張している。逆に、これを強みだと考える向きもある。意思決定の機関でないからこそ、オープンな対話の場になっている、というのである。他の機関や政府に対し意思決定プロセスの形成を促し、IGF以外の場で行われるであろう交渉の下地を作る――そういう「ソフトなガバナンス」を、IGFは実践することができるのだ。

 本稿で述べたような、こうした考え方の違いは、IGFの将来に関する諮問がなされれば前面に出てくることが予想される。現段階では、結論を予測するのは早すぎるだろう。しかし何らかの形で、様々なステークホルダーが協力するという体制が定着し、他の政策分野にまで広がる可能性があるということは、ほぼ間違いない。


<筆者紹介>Markus Kummer(マーカス・クマー)国連インターネットガバナンスフォーラム事務局長
2002年よりスイス外務省で「電子公使(eEnvoy)」を務め、情報通信技術分野全般、特に世界情報社会サミット(WSIS)に関する外交政策の調整を担当した。2004年3月、国連事務総長の命により、WSISのインターネットガバナンスワーキンググループの事務局長に就任。2005年のWSISで設置が決まったインターネットガバナンスフォーラム(IGF)の事務局長として活動している。


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