【ネット時評 : 楠 正憲(マイクロソフト)】
医薬品のネット販売禁止、フェアな議論の場で再考を~インターネットのトリレンマ(2)

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 今年6月からネットで多くの薬が買えなくなる見通しとなった。2006年の薬事法改正を受けて薬事法施行規則が改正され、ネットを含む通販での薬の販売が大幅に制限されるからだ。薬のネット販売を巡っては、薬局・薬店業界や薬剤師、薬害被害者団体、消費者団体などが規制強化へ向けて運動してきた一方で、ネット業界や利用者団体からは反対の声が上がり、内閣府の規制改革会議でも取り上げられたが、厚生労働省は今年6月1日の施行を決定したと報じられている。(本稿は「NIKKEI NET IT PLUS」に掲載したものです)
 

■6割を超える薬が通販禁止に

 2006年の薬事法改正は、大衆薬を危険度や副作用に応じて分類し、副作用の小さな薬は薬剤師だけでなく新設される登録販売員による販売や、コンビニ店頭での販売を解禁する。一方、副作用の大きな薬はカウンター越しの薬剤師による対面販売を義務づける。これまで買えなかった風邪薬がコンビニで買えるようになるなど、消費者の視点に立った規制緩和も含まれる。

 新薬事法では市販薬を第一類、第二類、第三類の3つに分類している。第一類は処方薬に匹敵する強い薬で、もともと処方薬だったが後に市販も解禁された強い風邪薬や、育毛剤などが該当する。今後は薬局・薬店で、薬剤師によるカウンター越しでの販売が義務づけられる。第二類は風邪薬、胃薬、妊娠検査薬などで、ネット販売は禁止されて登録販売員によるコンビニでの販売が解禁される。第三類となるドリンク剤などは引き続きネットでの販売も認められる。

 これまでネットで自由に販売されてきた薬の多くがネットで販売できなくなり、ネット展開で業容を拡大してきた地方の薬局などが打撃を受ける公算が大きい。ネットで薬を販売する事業者数十社で構成し、規制強化に反対している日本オンラインドラッグ協会によると、第二類として通販を禁止される薬の売り上げ比率は6割を超えるという。


■薬害問題と自殺の事例は分けて議論すべき

 規制改革会議はネットでの医薬品販売事業を年約300億円超で成長基調にあり、規制は望ましくないと懸念する。昨年12月の会合ではネット販売で副作用の被害があったかが大きな論点となった。ネットで大量の鎮痛剤を買って自殺未遂を図り、重い後遺症の残った少年の父親が昨年12月に厚生労働省で会見するなど、規制推進派はネット販売が危険であることをアピールしている。しかし件の少年はネット通販だけでなく薬店でも鎮痛剤を購入しており、ネット通販を禁止したからといって必ずしも自殺を防げる訳ではない。

 ひとことに消費者の安全といっても、消費者が薬を買おうとして副作用や薬害被害に遭うことと、最初から自殺などを目的に服用することとは分けて対策を考えるべきだ。前者は書面交付による説明の徹底が、後者はクレジットカードなどを使った本人確認・年齢確認の徹底や、1回に販売する量の規制などが効果的と考えられる。

 件の自殺未遂では、製薬会社が販売を1人1箱に限ること、18歳未満への販売を禁止することなどを求めていたが、薬を販売した北九州市内の薬店は年齢確認せず、24箱も1度に販売していたという。厚生労働省から連絡を受けた福岡県が行政指導し薬局は閉店、ネット販売もやめた。そもそも薬店として安全対策を軽視した販売が悲劇を招いたのであって、ネット販売だから危険というわけではない。


■規制推進派の主導で持ち上がった省令案

 そもそも2006年の薬事法改正は、薬店の出店攻勢に薬剤師の確保が追いつかず、テレビ電話での問診など様々な販売形態が出てくるという状況のなかで論議されたものだった。副作用の大きな薬については対面販売を徹底する一方で、副作用の小さな薬については薬剤師資格を持たない登録販売員やコンビニでの販売を認めることで薬剤師の逼迫を緩和することが目的である。そもそもネット通販を規制するための法改正ではなかった。

 ところが昨年7月に公表された「医薬品の販売等に係る体制及び環境整備に関する検討会報告書」では「第一類医薬品については、書面を用いた販売時の情報提供が求められていることなどから、情報通信技術を活用した情報提供による販売は適当ではない」とされた。これを受けて9月にパブリックコメントに付された「薬事法施行規則等の一部を改正する省令案」は、通信販売では第三類医薬品以外は販売できないとした。この検討会には薬局・薬店や薬剤師、薬害被害者の団体が名を連ねる一方で、ネット業界やネット薬局の代表は誰ひとり名を連ねていない。

 薬科大学・薬学部が雨後の竹の子のように増えており、新設薬学部の卒業生が国家試験を通る2012年以降は一気に薬剤師過剰になるといわれており、規制によって薬剤師の雇用を守ろうとしているのではないかとの指摘もある。


■違法サイト取り締まりも含めた総合ルールの検討を

 ネット通販に関しては、大衆薬の販売以上に、未認可の漢方薬や処方薬が販売され薬害で死者を出すことの問題が深刻だ。こうした悪質な事案にさえ対処できていない現状にあって、コンビニで売ることのできる薬までネットでの販売を禁止することは、かえって真面目な事業者を市場から退出させ、成長の続く医薬品のネット通販市場を、規制の届かない海外や違法サイトに潜らせてしまう懸念が大きい。

 確かに現行の薬事法は医薬品のネット販売を想定していない。しかし、これまで現に行われてきた医薬品のネット販売を、施行規則の書きぶりひとつで潰すことは、あまりに弊害が大きく消費者の利便性を損ねる。厚生労働省は第二類医薬品の販売をコンビニに認めることで薬局空白地帯などの問題にも配慮したと主張するが、そもそも外出の難しい高齢者や障害者、乳幼児を抱えた家庭に対する配慮が欠けているのではないか。

 ネット薬局数十社が加盟する日本オンラインドラッグ協会やヤフーは、医薬品のネット販売に当たって安全性を担保するためのルール作りに取り組み始めている。こういった動きも踏まえ、規制派だけでなくネット薬局を含む利害関係者の揃ったフェアな議論の場を設定すべきではないか。そこで国内海外の違法医薬品販売サイトの取り締まりなどを含めた、総合的なネット上での医薬品販売のルールを検討し、小手先の省令改正ではなく薬事法改正案として、民主主義の手続きを踏むことが望ましいと考える。
 

<筆者紹介>楠 正憲(くすのき まさのり) マイクロソフト 法務・政策企画統括本部 技術標準部 部長 
1977年、熊本県生まれ。ECサイト構築や携帯ネットベンチャー等を経て、2002年マイクロソフト入社。Windows Server製品部Product Manager、政策企画本部技術戦略部長、技術統括室CTO補佐などを経て2009年より現職。

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