【ネット時評 : 楠 正憲(マイクロソフト)】
ホワイトスペース解禁に日本も備えを~インターネットのトリレンマ(3)

kusunoki2.jpg
 
 1月30日に「情報通信審議会 情報通信政策部会 通信・放送の総合的な法体系に関する検討委員会」に出席した。テレビ放送のために割り当てられているが時間的・地理的・技術的な理由から利用されていない周波数帯域、いわゆるホワイトスペースの利用について、米国でホワイトスペース解禁を推進している企業の立場から説明するためだ。(本稿は「NIKKEI NET IT PLUS」に掲載したものです)
 

 ホワイトスペースとは分かりやすくいえば、次のようなものだ。例えば、A県では2、4、6チャンネルを使ってテレビを放送しており、1、3、5やそれ以外のチャンネルは使っていない。一方、隣のB県では1、3、5チャンネルで放送し、2、4、6チャンネルなどは使っていない。これは境界に近い区域での干渉や混信を避けるためで、この未使用の周波数帯域、つまりホワイトスペースをどう扱うかに注目が集まっているのである。

MMIT06000016022009_2_0_s0906.gif
使用していないチャンネルを有効活用するのがホワイトスペースの考え方
 

■ブロードバンド普及に期待する米国

 ホワイトスペースを巡って米国では長年、利用を推進するIT業界と、慎重な対応を求めるテレビ局やワイヤレスマイク利用者との対立が続いていた。昨年11月にFCC (米連邦通信委員会) がホワイトスペースの利用を認めるR&O (Reports and Order) を出したことを機に、英国をはじめとする多くの国でホワイトスペース解禁へ向けた議論が加速し、IEEE 802.11 (無線LAN) やIEEE 802.22 (中距離無線) による技術仕様の国際標準化へと話題の中心が移りつつある。

 11月のR&Oではアナログテレビ放送の停波後に、個人向け及び商用でブロードバンド通信を行う目的で、ホワイトスペースを利用することが認められた。これによりUHF帯の電波を利用する免許を取得することなく、固定局は1W、移動局は100mWの出力ができる。今の無線LANと比べて低い周波数帯を利用するため、障害物を回り込み安定した通信サービスが実現すると期待されている。

 米国でホワイトスペースの利用推進を求める声が高まった背景には、日本と比べて固定・移動ともにブロードバンドインフラが整っていないことがある。3G(第3世代)の免許を持つ移動通信事業者がインフラ投資に消極的だったり、公衆無線LANなどの事業者も技術的な課題を抱えていたりして、不感地帯の解消が進まなかったためだ。無線LAN以外にも良好な伝播特性を持ち、免許不要の無線技術が出てくれば、移動通信事業者に依存せずに草の根的にブロードバンドを普及できる可能性がある。

 世界中で約11億数千万台のパソコンがあるが、このうちブロードバンドでインターネットに接続しているのはわずか2億数千万台に過ぎない。残りの約8億台をインターネットに繋ぐために、ホワイトスペースやそれに伴う技術が活用できるという期待もある。

 ホワイトスペースを使ったサービスを実現するためには課題もある。まずホワイトスペース向けの機器には、テレビ放送やワイヤレスマイクと混信することのないよう、周囲でその周波数が使われていないかを識別する機能や、GPSなどを用いて端末の位置を測位する機能、端末の位置と放送局などがすでに使っている周波数帯のデータベースとを照合する機能などを実装しなくてはならない。FCC自身がデータベースを運用する予定はないため、誰が有効なデータベースを構築・運用するのか、という点もこれから議論する必要がある。


■日本は環境に大きな違い

 日本では通信と放送の融合へ向けた伝送規律見直しの一環として、ホワイトスペースの活用について検討が始まったところだが、日米で環境は大きく異なる。米国ではケーブルテレビや衛星放送が広く普及しているのに対し、日本では今も過半数の世帯が地上放送を直接受信している。米国よりも日本の方が、新たな通信技術が地上放送に混信を与えた場合の影響が大きいうえに、放送局が全国津々浦々で放送を受信できるよう再送信設備を細かく整備した結果、米国と比べてテレビに割り当てられたUHF帯の利用が逼迫しているとの指摘もある。

参考:「情報通信審議会 情報通信政策部会 通信・放送の総合的な法体系に関する検討委員会

 地デジの普及へ向けた再送信インフラの整備は過渡期にあり、最終的にどの地域でどの周波数帯が利用できるかは確定していない。総務省が2006年8月に取りまとめた「次世代ブロードバンド戦略2010」で、ブロードバンド・ゼロ地域を解消することを目標として掲げたこともあり、必ずしもホワイトスペースに頼らずとも、全国津々浦々でブロードバンドを利用できるようになるのかもしれない。


■何もしないことがリスク

 しかしながら、筆者はホワイトスペースの活用について積極的に検討するべきだと考えている。電波は周波数帯によって伝播特性が大きく異なり、使える周波数帯の選択肢が増えることによって、環境に対する適応の余地が大きく高まるからだ。

参考:1月30日の会合で配布した資料

 ホワイトスペースの技術を活用することで、無線ブロードバンドを全国にあまねく普及させるための財政支出を抑えることができるかもしれないし、次世代の無線LANなどで実用化されれば、これまでの無線LANでは回り込めなかった部屋同士を結ぶなど利便性が増すことも期待できる。無線ブロードバンドだけでなく地域限定のコミュニティー放送など、ホワイトスペース解禁によって可能となる新たなサービスも登場するかもしれない。

 仮に何も検討しないまま技術の国際標準化が進み有望な技術や新サービスが出た場合、日本の行政や事業者が迅速に対応できず遅れをとってしまう。電波法での扱いなど法制上の問題はないか、テレビやワイヤレスマイクとの干渉は本当にないか、干渉した場合の電波監理を円滑にできるか、そもそも日本に米国のようなホワイトスペースがあるかなど、ホワイトスペースの活用について本格的に検討する前にやるべきことは山ほどある。いまのうちから電波の伝播実態などデータを蓄積し、関係者間での議論を進めて課題を整理しておく必要はあるだろう。
 
 

<筆者紹介>楠 正憲(くすのき まさのり) マイクロソフト 法務・政策企画統括本部 技術標準部 部長 
1977年、熊本県生まれ。ECサイト構築や携帯ネットベンチャー等を経て、2002年マイクロソフト入社。Windows Server製品部Product Manager、政策企画本部技術戦略部長、技術統括室CTO補佐などを経て2009年より現職。


トラックバック

このエントリーのトラックバックURL
http://www.nikkeidigitalcore.jp/cgi-bin/mt/mt-tb.cgi/375

コメント一覧

メニュー