【地域情報化の現場から】
第32回「北山村応援団を作ろう!~飛び地の村で自治体初のブログポータルサイト『村ぶろ』~」

北山村の風景
北山村の風景
 和歌山県東牟婁郡北山村。紀伊山地の山の中にある人口570人ほどのこの村に、7000人の応援団が押し寄せた。といってもネット上の話だ。日本初の自治体によるブログポータルサイト「村ぶろ」がその広場になった。地理的な不便さを逆手に取って、つながりの輪を広げながら、着々と全国に北山村の応援団を増やしている。そこには村長と職員のユニークなタッグがあった。

人口570人の全国でも唯一の飛び地

北山村の位置
北山村の位置
 北山村は和歌山県でありながら南は三重県、北は奈良県に囲まれ、和歌山県のどの市町村とも隣接していない、全国で唯一の飛び地の村だ。JR紀勢本線で熊野市駅まで行き、そこからさらに車で山道を50分行くと北山村だ。熊野市駅と北山村間の唯一の公共交通機関であるバスは往復1日たったの2本だ。

北山川の流れに沿う山の中の村が北山村だ
北山川の流れに沿う山の中の村が北山村だ
 しかしそうした物理的な不便さや旅の疲れをも打ち消してしまうのが、北山村の自然だ。まわりは山々に囲まれ、エメラルドグリーンの北山川が道に沿って悠々と流れている。北山村は温暖多雨だが、山間部のため寒暖の差が激しい。取材にうかがった2月上旬のような寒い時期はまだ山の頂に雪が残っていた。
 面積は48.21km2で村の総面積の98%が森林だ。北山村は大沼、下尾井、小松、竹原、七色の5つの村が明治22年に合併してできた村で、人口は570人(2005年現在:総務省統計局より)で、典型的な少子高齢化、過疎化が進んだ村だ。小学校と中学校が1校ずつ併設されており、小学校の生徒数はわずか18人で授業も複式制だ。
 北山村の主要産業は柑橘類の「じゃばら」の栽培だ。道の駅「おくとろ」にはじゃばらを加工して様々な商品が並んでいた。今回の取材場所である北山村観光センターでは配送や梱包、電話注文などすべてを請け負っている。観光名所は色々とあるが、特に5月の筏下りが有名だ。昭和30年代のダム建設で途絶えたが、村の努力により昭和54年から「観光筏下り」として復活し、この筏下りを楽しみに来る観光客が多い。

「じゃばら販売」最後のチャレンジ~楽天市場に出店~

道の駅おくとろではじゃばらを利用した加工商品が多数並んでいる
道の駅おくとろではじゃばらを利用した加工商品が多数並んでいる
 じゃばら栽培は昭和57年から本格的に始まった。しかしながら平成3年から11年までは余剰在庫を抱え生産調整まで行わなければならないほど苦難の時代だった。
 そこでじゃばら販売面の最後のチャレンジとして平成13年1月に楽天に出店した。この時じゃばら担当で、楽天市場への出店を担当していたのが、現在「村ぶろ」運営の中心人物である村職員の池上輝幸さん(36歳)だった。池上さんは楽天市場出店に対し、「もともとじゃばらの売り上げが伸び悩み、新たな取り組みをしなければならなかった時に、地理的不便さを解消して消費者の方にお届けできて、お客様とコミュニケーションがとりやすいのが通販であると思ったのがきっかけ」と話す。

全国的に有名になった「じゃばら」の木
全国的に有名になった「じゃばら」の木
 そんな中ある顧客から「じゃばらが花粉症に効く」という話を聞いた。その話が事実かどうかを確かめるため、北山村販売センターでは、平成13年2月インターネット上で独自にじゃばらの花粉症に対するモニター調査を始めた。すると2日間で1万人を超える応募者が集まるほど反響があり、46%の人が「じゃばらは花粉症に効果があると答えた」。
 この楽天市場への出店とインターネット上でのモニター調査もあいまって、平成13年度の売上は5000万円で前年の売り上げ2660万円を2倍近く上回る売り上げを記録した。このモニター調査後に雑誌やテレビなどの取材が増え、平成14年2月頃から注文が殺到し、平成14年度の総売上は1億円を超すほど、じゃばらが一気にヒットした。

奥田村長の「北山村応援団を作りたい!」の思い

北山村の奥田貢村長
北山村の奥田貢村長
 しかし、北山村の奥田貢村長はこのじゃばら人気が一過性になるのではないかという不安を抱いていた。奥田村長は、そこで福島県で導入されているバーチャル村民制度を北山村に導入することを考えた。この制度を導入することで「じゃばらを一過性の人気にせずに、北山村の応援団を作りたい!」と考えたのだ。村長はこの思いを池上さんに伝えた。池上さんは「無料でやれば、確かに広がるのは確かだが、維持費がかかりすぎる。かといって有料にすると人が全く集まらないのは確か」と思ったという。

村ぶろ立ち上げに尽力した観光産業課の池上輝幸さん(向って右)と北山村役場のスタッフ
村ぶろ立ち上げに尽力した観光産業課の池上輝幸さん(向って右)と北山村役場のスタッフ
 奥田村長の「我々は地理的には不便だが、情報化によってその不便さを逆にプラスにしよう」という思い、じゃばらのネット販売の知識を活かしたいという思いを実現するため、様々なことを検討し調査したそうだ。結果、和歌山県でWeb制作およびシステム受託開発を担っているマックスラインという企業の担当者から以前聞いたユーザー本位のシステムを構築できるブログに行き着いたという。
 ブログを行うことは決まったが、池上さん自身初めからIT(情報通信技術)に詳しかったわけではなく、専門的な知識もほとんどなかったという。しかも地域SNS(ソーシャルネットワーキング・サービス)や他のブログサイトなどの既存のシステムを何も参考にしていない。そのため個人データをどこまで登録させるか、奥田村長が最も心配していたセキュリティをどこまでかけるべきかなど考えるべきことが非常に多く、すべてが手探りだった。システム構築後には、当初池上さんが思い描いていたものと違った部分の確認作業を池上さんとマックスラインの担当者の人と二人だけで行ったという。

わずか半年でプレオープンに!!

村ぶろのトップページ
村ぶろのトップページ
 村ぶろ構想提案の2006年10月頃からわずか6か月あまりで話はとんとん拍子に進み、2007年3月31日にプレオープンを迎えた。その後6月21日から「村ぶろ」という自治体初のポータルブログサイトが本格的にオープンした。池上さんは村ぶろを一気に実現できたことに対し「大っきいとこだとできなかった。小っさいとこだからこそできたからだ」と話す。なんと始まって9ヶ月あまりで会員数は6932人(2008年3月10日現在)、1日のアクセス数は6万~10万(2月12日現在)にものぼるという。
 池上さんは村ぶろのサービスを進めていく中で、ユーザーからの意見や奥田村長からの意見を反映させてその都度迅速に不具合を直している。現在は池上さんと別のスタッフのみで対応をしており、技術的なサポートは㈱プラムザが行っている。 システム構築・WEBデザインには約3500万円かかったが、システム自体は独自開発のため初期費用というものはない。月々のサーバー費用は約14万円で、維持費用は村で負担している。
 プレオープン直後には北山村で役場のスタッフがブログ教室を行ったりと、様々なところで宣伝、イベントも行った。村内では、イベント以外に友人同士の口コミによる広がりが大きかったという。
 奥田村長は村ぶろが短期間で普及したことについて「非常に強化されているセキュリティを支えに、行政が提供している安心感と、行政が提供しているにもかかわらず一方的な感じや硬い感じを受けず、民間に近い感じを受けるというところに継続の秘密が隠されているのではないかと思う」と話す。

パソコンを使い始めた村民たち

 「村ぶろ」がスタートして、村は大きく変わりつつある。パソコンの利用率のアップ、地元資源の再発見、日常生活の会話の話題に村ぶろネタが出てくる、村ぶろを通して地域産業発展のために意欲的に取り組む村民がでてくる――という具合だ。
 北山村は2011年の地上デジタル放送への対策として全額公費負担で全世帯に光ケーブルが設置され、どの世帯もその気になればすぐにネットがつながるという恵まれた条件がある。しかし、特に仕事といった用事がないかぎり日常生活ではほとんどの住民がパソコンに触れようともしなかった。
 村民3人に話を聞いた。

◆まゆねえさん(北山村観光センターでじゃばらの注文受付、配送手配などをこなすスタッフ。今年で勤続10年目)
 「村ぶろをし始める前までは、パソコンなんて触れもせえへんかったんよねえ。でも村ぶろをするようになってからは、必ず毎日1回パソコンを見るようになったわ。やっぱり日記やらコメントを見るんが楽しいんよねえ。もう生活の一部やわ」
 「村ぶろ」のコメントには必ず返事をして、毎日少しでも時間があればみんなのブログを欠かさず見ている。村ぶろをきっかけに自分の興味のある音楽などについてもパソコンを使い始めた。

◆ぶー太郎さん(役場に勤め始めて今年で12年目の女性。ずっと北山村の観光産業に携わっている。日々お孫さんのお世話とお仕事の両立に忙しい)
 「村ぶろを始めたのは、当初のものをいつでも簡単に見れるから、村ぶろの日記自体が大切な思い出で、孫の成長日記そのもので大切なアルバムです」

おたんこナースさんはカリスマ・ブロガーだ
おたんこナースさんはカリスマ・ブロガーだ
◆おたんこナースさん(三重県の小さな診療所で看護師をしている。岐阜県出身で結婚して北山村に来た。二人の娘と、息子さんが一人いる)
 日常生活での旦那さんやお子さんとのこと、看護師ならではの病院でのエピソードなど、文章を書くのが好きで、多種多様な話を書いている。知的で温かみのある女性で、話をしていてこちらまで元気をもらえる。村ぶろ大賞を受賞したカリスマブロガーだ。
 「村ぶろはねえ。なんかわからんけどあったかいんよ。温泉につかってるみたいなんよ。コメントや日記を見るのも書くのも楽しいから村ぶろを見ずにはいられないんよね」

 北山村内だけではなく、村外でも村ぶろがブームを起こしている。村ぶろ運営者側主催のカンファレンス以外に村ぶろをきっかけにユーザー同士が自発的に集まる例も多い。村ぶろを通じて北山村を知って他府県から訪ねてくる人も多い。和歌山県田辺市では同市在住のユーザーが多いため、田辺市内で集まったりと、実際にフェイス・トゥ・フェイスで会う機会が自然と生まれている。

フェイス・トゥ・フェイスは「温故知新」

 村ぶろの機能のうち、一番利用されているのはやはり「日記」だ。日常生活のできごとなど自分の身近なことについて自由に書き込める手軽さがうけている。急に日記を書くのをやめていると、みんなが心配してメッセージを送ってくれるのだという。
 村ぶろのホームにはコメントの多い記事が並ぶコメントランキングや、アクセス数が多いブログが並ぶ村ぶろランキングがある。おたんこナースさんは、一度このランキングに載ると、「もっともっと上位にいってみたいなあ」と思って、村ぶろへのアクセス回数が増えるという。
 村ぶろランキングの上位者であるおたんこナースさんやガラスの靴さんといったカリスマブロガーは初めて行ったカンファレンス行事である村ぶろユーザーが実際に集まるカンファレンスで、今年「村ぶろ大賞」を受賞した。不思議なことに一度村ぶろ内で話をした相手とはカンファレンスで会っても初対面で会った気がせず、前からの知り合いのような感覚になるという。
  カンファレンスは、ITという新しい技術を使った村ぶろも利用しながら、人と人とのつながりはフェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションが大切という昔からの知恵を生かしてのものだ。奥田村長が好きな「温故知新(故きをたずねて新しきを知る。それを以て師となせ)」を体現している。

村ぶろを産業活性化につなげたい

 村ぶろでは「日記」を中心に「口こみマップ」「村こみゅ」「村じょぶ」「村ぶろビレッジ」といったサービスを展開している。
 「口こみマップ」はマップを利用してユーザーから観光情報を集めて全国に発信するために作られた。
 「村こみゅ」は共通する趣味や話題を持つ仲間を募り、「お題」をあげて意見や感想などを交換して交流を深めるコーナーだ。
 「村じょぶ」は和歌山県紀南地域で働きたいという人のための、求人案内情報を掲載し、Uターン就職の応援も考えている。ただ、この機能はまだ利用しているユーザーが少ないため、変化が起きるのはこれからだ。
 「村ぶろビレッジ」は、ブログ内に村ぶろユーザーと企業がミニポータルサイトをもうけるというものだ。企業のミニポータルサイトでは企業が発信する情報が見られる上、村ぶろ会員は商品購入もできる。一方村ぶろユーザーの場合は自分の趣味に関してミニポータルサイトを設けられる。これを村ぶろの目玉として地域産業活性化につなげたいと考えている。まだ始まったばかりだが、すでに数十社の企業と交渉しているという。

口こみマップのページ 村こみゅのページ 村じょぶのページ
口こみマップのページ 村こみゅのページ 村じょぶのページ

ポスト村ぶろ~ブームを村の活力に

 スタートから1年足らずで約7000人の会員を集め、山の中の小さな村を全国的に有名にした村ぶろだが、これが一時のブームなのか、持続的な発展のベースになるか、岐路を迎えつつある。
 例えば、現在のところ外部の人は積極的に日記を書いてくれているのだが、北山村内の人はどうやら日記自体は見ているが、日記を書いてくれる人が少なくなってきている。池上さんは、村内でももっとブログを書いてもらうために今後は村内でパソコンを解放し、定期的にブログ教室を行うサービスを展開したいという。
 北山村だけでやっているのではなく、他の市町村と連携するのも課題。しかし、セキュリティなどが不安で、なかなか連携話が進まない。北山村ではセキュリティを強化しつつ、ユーザーもマナーを守ってくれているため、今までセキュリティ上の問題は1件ぐらいしかなかった。その部分を含めもう少し積極的に詳しく村ぶろのシステムを伝えていきたいという。
 大きな課題は、村の活性化。3月から4月にかけてショッピングカートをリリースして、EC(電子商取引)を拡大し、地域産業の活性化、紀州・熊野ファンを開拓し、地域産品の販売促進に向けて取り組んでいくという。奥田村長も、「産業に関してすぐに効果がでるとは思っていないが、横の連携も広めつつ、少しずつの積み重ねで成果があると思う。こうすることで北山村応援団を全国に広められるだろう」と話している。
 運営担当の池上さんは「どんなサービスが欲しいということをあまり言わないユーザーさんが多いからこそ、僕たち運営側はもっとユーザーさんが楽しく利用しやすいようにさらなる努力をしていかんとあかんのです」と熱弁する。アイデアを提供し続けている池上さんは「今後も一方的に情報を流すのではなく、自発的にみんながコメントを書いてくれ、お客さんにも参加してもらえるシステム作りをしていきたい」と続けた。

次の飛躍へ

 小さな村が仕掛けた大きな冒険がものの見事にアピールした。村ぶろはそんな現実を見せてくれた。村の仕事なので公共事業なのだが、まるで民間企業のようにセキュリティに対しての対応が非常に迅速で、利用者が安心して利用できること、商業的な要素が強いにもかかわらず発展しつつあることはすごいことだ。
 とかく、ネット上のやり取りは匿名性の取り扱いなどでもめることが多い。ところが村ぶろにはそんな雰囲気はない。和気あいあいとメッセージが飛び交っている。地理的な距離を村ぶろでのコメントのやりとりというIT技術によって縮めるだけでなく、カンファレンスなどのフェイス・トゥ・フェイスのつながりも大切にしているからこそ、ユーザーが自発的な行動に出ることができるのではないかと思う。

 今後は各地域のキーパーソンがつながり、村ぶろのシステムを導入していくことで北山村と同じような境遇の地域がどんどん元気になっていくことを期待したい。

(谷口由季乃=慶應義塾大学環境情報学部3年)


評価と課題:つながりの再生から創発へ

 情報化は地域再生の起爆剤となる。その思いをますます強くしてくれるのが、この北山村の事例だ。

 従来、地域においては、結や講、資源のもやい(共有)などの地縁を中心とした相互扶助によって問題解決をはかってきた。しかし、近代化の過程においてこのような場や機能が失われつつある。情報技術には、場所や時間といった物理的制約を払拭し、過剰に埋め込まれた関係性を解き放つというメリットがある。これをうまく生かし、地縁と知縁のダイナミックな相互作用をもたらすことで、地域の良さ、力を引き出し、企業にも自治体にも対処が難しい問題を解決することができる。ただ、実践にうつして成果をもたらすとなるとそう簡単ではない。

 大切なのは、まず新しいつながりを創出することだ。北山村では、セキュアなブログを構築し、村内外の約7000人ものコミュニティ、弱い関係性づくりに成功した。ネットワーク論によると、弱い関係性には、新しい異質な情報が入りやすいことが知られている。これは、村の貴重な資源だろう。

 村ぶろは、ただ立ち上げただけでうまくいったわけではない。じゃばらのネット販売で体得された知、北山村の応援団をつくりたいという強い思いの結晶が村ぶろなのだ。何より、奥田貢村長の存在が大きい。筆者は、2007年11月、新潟市で開催された日経地域情報化大賞シンポジウムで奥田氏と話をさせていただく機会を得た。奥田氏は、シンポジウムの模様を撮影し、会場から日記をアップされていた。いかに村ぶろを愛し、情報発信を大切にされておられるかがわかる。このように、リーダー自らが率先垂範しているということも村ぶろの価値を高めている要因の一つだろう。

 一定期間継続している地域情報化プロジェクトにおいては、弱い関係性でつながれたメンバーが、何かのきっかけで新しい事業を立ち上げ、運営にも参加するという創発現象が見られる。村ぶろでも、おたんこナースさんなどのカリスマブロガーが生まれ、フェイス・トゥ・フェイスの交流も増えてきた。これから村ぶろは次のステージに突入する。いかにしてメンバーの創発をもたらし、「元気村」を実現するのか。奥田氏の手腕に大いに期待したい。

(飯盛義徳=慶應義塾大学准教授/NPO法人鳳雛塾副理事長)

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