【ネット時評 : 大木登志枝(日本総合研究所)】
日本の対アジアICT協力を考える

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 近年、日本とアジア諸国との経済連携が深まるのに伴い、ICT(情報通信技術)分野においても協力が推進されている。このアジアへのICT協力について、その特徴を整理しつつ、感じていることを述べてみたい。

多様化するICT協力
 
 近年のICT協力は、形態、分野、主体に多様化が見られる。まず形態では、国際機関や先進国が発展途上国向けに実施する政府開発援助(ODA)やその他政府資金(OFF)などの支援タイプに加え、関係国が対等な立場で協力し合う提携タイプが登場した。
 提携タイプには、経済連携協定(EPA)の取り決めにあるような貿易EDI(電子データ交換)やPKI(公開鍵)、ICT技術者試験などICT関連制度の標準化・相互運用、あるいは日中韓3カ国における新技術の共同開発が挙げられる。
 ICT協力がカバーする分野を見ると、ICTに直接関わる分野だけでなく、他分野にもまたがる領域横断型となっている。大きく分類すると以下の通りとなる。
 
(1)ICTそのもの・・・ICTインフラ整備、ICT産業育成、新技術開発など
(2)ICT環境・・・人材育成やICT教育の振興、IT戦略・制度整備、制度の相互運用など
(3)他分野におけるICT活用・・・電子政府、遠隔教育、遠隔医療、電子商取引、貿易の円滑化、貧困削減など
 
 ICT協力プロジェクトの主体としては、政府、民間のほか大学や非営利機関(NPO)、国際機関、他国の企業・機関など多岐にわたるようになった。政府、民間、大学、NPOの各部門がそれぞれ役割分担し、協調していくことが重要となりつつある。
 このようにICT協力が多様化している背景には、情報化が急速に進展している現在、ICTインフラが整備され、ICTが活用されなくては、経済連携によってもたらされる制度改革、投資拡大、技術拡散などの効果を十分得ることができないと考えられるためである。
 
高等教育機関におけるICT協力プロジェクトの導入
 
 次に、今後の日本のICT協力に関し、有用ではないかと思われることについて述べたい。
 発展途上国のICT協力に注力するスウェーデンでは、ICT協力プロジェクトが高等教育機関の修士課程の実地研修として組み込まれており、成果を挙げている。この仕組みは、日本のICT協力の一形態として参考になると思われる。
 「発展途上地域におけるスウェーデンICTプログラム」(SPIDER)(http://www.spidercenter.org/
)と呼ばれるこの仕組みは、日本の国際協力事業団(JICA)にあたるスウェーデン国際開発庁(SIDA)と王立工科大学(KTH)によって設置された。その目的は、スウェーデンのICT関連の資源を活用して途上国のデジタルデバイドの縮小に努めることである。2004年のプロジェクト(http://www.it.kth.se/visa.html?artikelid=840
)には、ラオスにおけるインターネットゲートウェイ構築支援やベトナムの地方の農業従事者向けテレセンター設立などが含まれている。この仕組みにより、供与国のスウェーデンは、安価なコストで人材を活用してプロジェクトを遂行でき、プロジェクトに参加した学生は実践的な教育を受けながら国際感覚を身に着け、単位を取得することができる。受入国では、現地のニーズにあったICTインフラ整備やICT活用を享受することができる。
 
ICT分野における新ODAスキームの活用
 
 国際支援という観点からみれば、ICT協力においてもODAが一層活用されるべきところである。しかしながら、これまでの日本のODAスキームはICT分野に適用するには多くの問題を抱えていた。たとえば、要請から案件採択、実施に至るまで5年という長時間を要し、ICTのように技術進歩の早い分野ではニーズを発掘し費用積算した段階と実施段階とでは適用される技術や費用が変わる可能性が大きい。またICTプロジェクトは通常様々なハード、ソフトから構成されるため一体性が重要であるにもかかわらず、全ての案件が分割発注され非効率的だった。
 そうした中、2005年度からこれらを改善した新スキームが施行されるようになった。2004年8月経団連が政府にICT分野のODAの改善に関する意見書(http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2004/066.html)を提出し、それを受けたIT戦略本部は2004年9月に「アジアを中心としたIT国際政策の基本的考え方」(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/040910honbun.pdf)を発表。同年12月末にはODAの制度・運用が改善された新スキーム(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/seisaku/bunya/it/kaizen.html)が外務省から発表された。日本のICT協力に対するアジア諸国の期待は高い。この新スキームを活用し、ICT協力を一層推進させることが望まれる。
 
沖縄サミット公約結果の公表を 
 
 経済連携に向けた動きが加速している現在、日本は自国のODAをはじめとするICT協力がどのように貢献しているのかを積極的にアピールすべきではないだろうか。
 日本がアジアのICT協力へ深く関与する意向を発表したのは九州・沖縄サミットだった。2000年7月、九州・沖縄サミットの開催国である日本は包括的協力策のなかで、デジタルデバイドの解消に向けODAまたはOFFの公的資金を用いて5年間で150億ドルの協力を、主としてアジアを対象に実施する旨発表した。
 今年はその最終年であり、150億ドルの国際支援の中身や成果を公表することが望まれる。現段階では公表されていないが、各省庁や各機関に分散しているプロジェクトを合計すれば、150億ドルに達する可能性はある。サミットという国際舞台での公約を実行したということになれば日本に対するアジア諸国の信頼は高まるだろう。逆に、あいまいなまま終始してしまうようであれば信頼を損ない、経済連携の歩みに影響を及ぼすことも懸念される。地道な協力実績を積み重ねて、それを目に見える形にしてこそアジア諸国とのコミュニケーションが成立する。今、アジア諸国との相互信頼を高めることは、日本にとって最重要課題ではなかろうか。
 

<筆者紹介>大木 登志枝(おおき としえ)
日本総合研究所 研究事業本部 主任研究員
静岡県生まれ。津田塾大学学芸学部英文学科および米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)経営大学院修了。
1988年三井銀行入行、三井銀総合研究所へ出向。2001年4月、日本総合研究所に入社。主として国内外のICT関連の受託調査・研究に従事。専門はアジアのICT政策・ICT産業。関心のある分野は、医療、環境、エンターテイメント分野におけるICTの活用。主要著書に「アジアインターネット白書」(2001年12月、アスキー)、共著に「情報サービス産業白書2005」(2005年、情報サービス産業協会)、「アジア FTAの時代」(2004年、日本経済新聞社)、「アジアネットワーク」(1997年、日本経済評論社)がある。

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