【ネット時評 : 湯川 抗(富士通総研)】
変化する我が国ICT産業の担い手

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 GoogleによるYouTubeの買収からちょうど1年が経過した。業界のうわさ話も含めれば、この数年間、毎日のように大企業によるWeb2.0ベンチャーの買収話や資本参加が海外のブログや大手メディアを賑わせている。すでに世界的に認められたインターネット企業が、周辺分野で新たな技術やサービスの開発を行うベンチャーに、自らのさらなる成長の糧を求めると共に、投資回収のパターンを増やしてベンチャー企業の成長や創出を支えている。

 実際、Web2.0ベンチャーは次々と生まれている。プログラミング言語「LISP」のプログラマーであり、エッセイストとしても名高いPaul Graham氏は今月“The Future of Web Startups”というエッセイの中で、ネットベンチャーの数が劇的に増えることで、買収者は「良い買収案件を見つけ契約を結ぶCAO(Chief Acquisition officer、最高買収責任者)を置くようになる」とすら予測する。

 最近発表された2つの調査を基に、大企業とベンチャーとの資本関係の側面から、我が国ICT産業の担い手の変化を考えてみた。


大手インターネット企業とWeb2.0ベンチャー

 今年の8月に、富士通総研とNPO法人Japan Venture Researchが公表した「Web2.0企業の実態と成長の動向」は、我が国においても、サイバーエージェントや楽天といった大手インターネット企業がWeb2.0ベンチャーに対して積極的に投資を行っているという事実を明らかにしている。Web2.0的サービスを新たなインターネットビジネスのあり方ととらえた場合、Web2.0ベンチャーは、サイバーエージェントのような大手のインターネット企業にとって、自らがさらに成長するための有力なパートナーとなりうる。

 このことは、規模は小さいものの、米国と同様の現象が日本のベンチャー企業にも起こりつつあることを示している。現在積極的にWeb2.0ベンチャーに資本参加している企業は、10年前は自らもベンチャー企業であり、インターネットビジネスがいかに急速に拡大していくのかを実体験しているため、進化するインターネットに迅速に対応できているとも考えられる。これらの企業は次世代のインターネットビジネスの成長を内部に取り込む準備を整える反面、資本参加することでWeb2.0ベンチャーを支えている。


大手ICT企業とICTベンチャー

 これまで、我が国においても大手ICT企業とICTベンチャーは欠かせないパートナー同士であった。7月に総務省が公表した「平成19年度版情報通信白書」では、例年以上にICTベンチャーの分析に多くのページを割いているが、特徴的だったのは、ICTベンチャー企業が資本関係も取引関係も大手ICT企業に依存しているという点である。

 この分析で、「大手企業を中心とする既存のICT企業」とされているのは、NTT、NEC、富士通、日立、といった大企業のことを指すと思われるが、これらの企業がベンチャー企業の筆頭株主になっているケースは、個人(恐らく経営陣)に次いで多く、ICTベンチャー全体の20%程度の株式を保有している。このことは、ベンチャー企業に対して、長期的資本政策を有利にする効果をもたらしてきたといえよう。さらに、ICTベンチャーの業種別仕入先、販売先といった取引関係をみても、仕入先も販売先も6割以上を既存のICT企業が占めており、ベンチャー企業の成長に不可欠な存在であったといえる。

 これは、ベンチャーから見れば大手ICT企業への依存かもしれないが、大手ICT企業からすれば、成長分野と積極的にかかわってきたことの証拠と見ることができる。そして、ICT産業という大きなくくりで見た場合、我が国においては、これまでも大手ICT企業がICTベンチャーの成長を支えてきたのである。


変化するICT産業の担い手

 だが、この2つの調査結果が示すものは同じではなく、大きな違いがある。実は、情報通信白書で「大手企業を中心とする既存のICT企業」とされているような大企業は、ICTベンチャーといってもWeb2.0ベンチャーにはほとんど投資をしていないのだ。このことは、長らく日本のICT産業をけん引してきた大企業が、進化するインターネット上で展開されつつあるビジネスに関し、今後の自らのビジネスとのシナジー効果は低いとみているか、シナジー効果自体を発見できないかのどちらかを指している。確かに、現在のこれら大企業の事業内容を考えると、Web2.0ベンチャーとのシナジー効果は薄く、よほど想像力を働かせない限り、資本的にコミットするという判断を下すのは難しいだろう。しかし、実際には大手ICT企業は自らの足元で起こった成長のチャンスにうまく対応できなったケースが多いことも否めない。

 「WEB2.0」という言葉の生みの親であるTim O’Reilly氏は今年の1月に「『WEB3.0』があるとすれば何か」という日経産業新聞の質問に対し、「十年後にはネットはあらゆるものの中心になっているだろう。だが我々は『WEB3.0』とは呼ばない。なぜなら次に来る変化は今ある(ビジネスの)エコシステム(生態系)を超えるものになるはずだからだ」と答えている。これだけでは、なんともつかみどころがないが、控えめな予測でも4年後の2011年度までに、消費者向けのECの市場規模は現在の1.5倍に、インターネット広告は1.6倍程度に成長するとされる。確かに、氏の言う10年後のインターネットビジネスの世界は、現在とは全く違う規模のものになるだろう。

 このように考えると、ICT産業におけるインターネット企業の存在感は高まっていくのは間違いない。そして、上に見たような資本関係を考えると、このことは必然的にICT産業全体の担い手の変化につながる可能性が高い。すなわち、既存の大手ICT企業に代わって、この10年程度で成長した大手インターネット企業が、我が国ICT産業をけん引する日もさほど遠くないと思われる。

<筆者紹介>湯川 抗(ゆかわ こう)
富士通総研 経済研究所上級研究員
1965年 東京都生まれ。1989年上智大学法学部卒。96年コロンビア大学大学院修了(MS)。2005年東京大学工学系研究科博士課程修了(Ph.D.)。現在、横浜市立大学国際文化学部非常勤講師。東京大学先端科学技術研究センター客員研究員などを兼任。専門はインターネット企業の動向とクラスター。【執筆活動】】「進化するネットワーキング 」(2006年、共著)、「情報系マイクロビジネス」(2001年、共著)「クラスター戦略」(2002年、共著)など。   ホームページ http://www.fri.fujitsu.com/jp/modules/specialist/list_03.php?list_id=9024

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