【ネット時評 : 大木登志枝(日本総合研究所)】
ICT活用で国際観光の振興を

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 2006年12月に観光立国推進基本法が成立し、2008年10月1日には観光庁の創設が予定されている。観光庁創設は、観光関連政策や体制を強化することで「観光立国」を実現し、地域再生ひいては日本経済の活性化させることを目指すものである。
 

 従来、日本の国際観光については海外向けの情報発信力が弱いことが指摘されてきた。しかしICTを積極的に活用することでその強化が期待できる。そこで、国際観光の情報発信面におけるICTの活用について考えてみたい。


日本の観光情報発信に関する政策
 
 2002年12月の「グローバル観光戦略」発表から日本の観光立国への道が始まった。2003年を「訪日ツーリズム元年」と位置づけ、以降、2010年に外国人訪問客数1000万人達成を目標に据えたビジット・ジャパン・キャンペーン(以下「VJC」)が展開されている。VJCは、外国人旅行者の訪日促進のための重点施策で、海外向け観光PRの強化を図る内容となっている。その具体的な活動内容をみると、広告宣伝事業、トップセールス、旅行会社の商談会の実施、海外の旅行博への出展、現地在外公館等との協力、国・地方公共団体との連携となっており、独立行政法人の国際観光振興機構(Japan National Tourist Organization (JNTO))が担当している。

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マスメディアからインターネット利用へ 

 海外の潜在的観光客に実際の行動を起こさせるには、まず日本の観光地を認知してもらい、関心を高めてもらうことが必要である。そのためには日本の各観光地が、差別化できる観光資源を特定し、その楽しみ方やイメージ、詳細な情報を提供することが必要だ。

 認知してもらうための一般的な手法には、テレビ、雑誌、新聞などマスメディアを利用した宣伝、ガイドブックやパンフレットの提供、窓口の設置などがある。先に述べた見たように、政府主導のVJCにおける活動内容はこうした手段への支援や、旅行会社など情報提供主体への働きかけが中心となっている。

 しかし、これらは既存の手法であり、インターネットが普及した現在ではICTを活用したPR方法も活用すべきではないだろうか。

 まず、ICTを利用した情報提供方法として欠かせないのがホームページである。多くの観光地(地方自治体)では、既にホームページを通じて、自然や歴史的建造物、イベントなどの観光資源、レストランやアクセス情報を、英語や韓国語・中国語で表記し、世界に発信している。

 とはいえ、ホームページを開設しただけでは、海外の潜在的観光客に実際の行動を起こさせるまで関心を高めるのに十分ではない。第一に、ホームページは情報の流れが情報発信者から受信者への一方通行になりがちであるため、潜在的観光客がどのような情報を欲しているかを見きわめることが困難である。第二に、ホームページの情報は、インターネットのなかの膨大な情報の中に埋もれがちであるため、マスメディアのように、世界の多くの人々の目に触れさせることが困難である。

 
ソーシャルメディアによる情報発信

 これらの2つの課題は、ソーシャルメディアを活用することで、解決できると考えられる。ソーシャルメディアとは、SNSやブログ、YouTubeなどの動画共有サイトのように、人とのコミュニケーションが中心となるメディアのことである。観光の場合、ソーシャルメディアの参加者は、潜在的あるいは実際の観光客という消費者だけでなく、旅行会社やホテルといった企業、さらに観光地の自治体、なんらかの形で観光関連業務に携わる人々など、様々な主体が想定される。

 第一の課題について考えてみると、ソーシャルメディアは様々な主体が発信者にも受信者にもなって双方向の会話や情報交換を行うことができ、その仕組みのなかで観光客のニーズをとらえて対応することが可能となる。

 第二の課題については、ソーシャルメディアを媒介してコンテンツを世界に広めることが可能になる。例えば、地方にある神社で行われた世界的に有名な歌手によるコンサートの模様が動画共有サイトにアップされたとする。和洋文化が融合したコンサートの雰囲気がよかったと、ある人がブログで紹介し、それを他の人がSNSや個人のHPで紹介するというように、ソーシャルメディアを通すとネット上で口コミ状態が生み出され、情報を短期間で世界中に広げることができるのである。

 ソーシャルメディアでは、その特定分野(この場合は観光)に関心のある人の間で情報が行き来しながら広がるので、マスメディアのような万人向けの一方的な情報発信より、効果的、効率的な面もある。実際、多くの企業がビジネスブログの開設やネット動画を活用して、ビジネスに結び付けているという。

 ソーシャルメディアで成功する要因は、紹介者の好意的なコメントと動画である。動画は、文字よりもインパクトがあり感性に直接訴える。また、海外で情報を発信するには、ブログなどの文字情報の場合は英語による表記が必須であり、動画にも英語の説明を加えることが望ましい。


地方の活性化に向けて

 日本の地方には、観光資源である文化・自然資源が豊富に存在する。観光は、文化・自然資源を有効利用できる産業であり、ICTを活用することで振興が可能である。各観光地(地方自治体)が観光PRでソーシャルメディアを活用するには、以下の活動が必要と考えられる。

(1)観光資源の魅力的な動画コンテンツを作成し、自らのホームページや動画共有サイトに自らアップロードし、英語でブログ発信などを行う。

(2)ソーシャルメディアで観光コンテンツを利用してもらうよう奨励策をとる。例えば、紹介したソーシャルメディアには抽選で特産物をプレゼントするなどである。

(3)ソーシャルメディアが利用しやすい環境を整備する。例えば、コンテンツには通常、著作権が生じるものの、無料掲載を許可するなどである。

 ソーシャルメディアを利用した観光PRの仕組みは、地方自治体と民間企業が協力する形で推進することが望ましい。民間企業にとっては、観光PRはメセナの一環にもなり得るし、地元企業であれば、自社の発展にもつながる。

 一方、観光庁などの中央政府には従来の方法だけでなく、ICT活用に着目し、地方自治体によるソーシャルメディアの利用環境整備の支援や、それら関連する情報を整理したポータルサイトの構築など、包括的な支援を望みたい。2006年1月のIT新改革戦略には、「観光分野におけるITを活用した観光情報の発信を強化する」という目標もある。

 ICTを活用した国際観光が日本の地方の活性化に貢献することを期待している。

<筆者紹介>大木 登志枝(おおき としえ) 日本総合研究所 総合研究部門 コンテンツ戦略クラスター 主任研究員
静岡県生まれ。津田塾大学学芸学部英文学科および米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)経営大学院修了。さくら総合研究所などを経て、日本総合研究所に入社。主として国内外のICT関連の受託調査・研究に従事。専門はアジアのICT政策・ICT産業。関心のある分野は、医療、環境、エンターテイメント分野におけるICTの活用。主要著書に「アジアインターネット白書」(2001年12月、アスキー)、共著に「情報サービス産業白書2005」(2005年、情報サービス産業協会)、「アジア FTAの時代」(2004年、日本経済新聞社)、「アジアネットワーク」(1997年、日本経済評論社)がある。

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