【ネット時評 : 唐澤 豊(データメディア)】
接触中枢(コンタクトセンター)を企業の中心に据える――情報技術(IT・アイティー)と組織論(5)

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 2003年11月のネット時評に「これからの情報技術は情報処理型から人と人との意思疎通型へ」という一文を寄稿した。そこで、これからの企業経営は商標価値を高めるために、顧客と応対して苦情・感動・要望など貴重な生の声が全て集まる接触中枢(コンタクトセンター)を組織的にも企業の中心に据えるべきである、と述べた。あれから2年経ったが、ほとんどの企業はまだそういう方向には進んでいないようなので、再度述べてみたい。

 あれからひとつ大きく変わったところは、企業価値とは何か、企業は誰のものかといった議論が、合併・買収(M&A)が話題になった結果、盛んになったことだろう。企業価値について考えてみると、収益性、成長力、資金の流れ(キャッシュフロー)等は株価に影響し、株価時価総額や株価収益率を左右する。しかし、それだけではなく、商標(ブランド)価値こそが企業価値に大きく影響すると私は考えている。大衆消費財を例に取ると、従来は商品の品質・信頼性・安全性など、消費者が直接感じるものと、宣伝・広告・広報による間接的な印象(イメージ)によって商標(ブランド)価値は形成されていた。ところが、最近は電子商取引(EC)が盛んになり、製造・販売者から消費者に直接販売される場合に、製造・販売者側がどう対応したかが企業の印象(イメージ)を形成するようになって来ている。即ち、商標(ブランド)価値は、消費者が相互通信網(インターネット)や電子郵便(メール)、電話などで製造・販売側に接触した時の印象(イメージ)で左右されるようになってきたのである。しかし、このことを十分認識している企業経営者は少ないように思われる。

 企業価値を上げるのが経営者の仕事と言っても過言ではないが、そうであれば、商標(ブランド)価値を上げることも重要な仕事と言える。企業活動とは極論すれば、社内や社外の人と様々な形で意志疎通(コミュニケーション)することにより、昨日とは違う新たな変化を起こさせることであるとも言えよう。従来は意思疎通(コミュニケーション)のための経費が高く、組織を縦型の四角錘(ピラミッド)型にし、上層部には電話や接待費という高価な道具や経費を与え、情報収集と集中管理を行うような制限と制御を行っていた。

 その後、様々な情報通信技術(ICT)が導入され、効率化が図られた。そして昔から言われていたお客様第一主義が再度注目され、そのために顧客関連性管理(CRM)の道具も多くの大手企業が導入した。また、経費削減・生産性向上という観点から、外部委託できるものは極力外部へ、という考え方が進んで、様々な仕事を外部に委託している。特に接触中枢(コンタクトセンター)は多くの企業が外部委託(アウトソーシング)している。しかし商標(ブランド)価値を上げる、という観点からすると、それは危険なことでもある。消費者に与える企業印象(イメージ)を自社のことなど良く理解していない外部の人間に任せてしまっていいとは思えないからである。

 接触中枢(コンタクトセンター)は利益を生み出さないお荷物である、という認識から、経費を食う組織から利益を生み出す組織にしていこう、といった議論や、お客様情報の宝庫であるから、その源情報(データ)を掘り起こし(マイニング)て、有益な情報を取り出そう、という動きも活発である。しかし、組織としての位置づけまではなかなか議論されていない。せいぜい担当役員を決めるかどうかまでである。

企業価値にも直結し、お客様の生の声の宝庫でもあるのだから、やはり接触中枢(コンタクトセンター)を企業の中心に位置づけるのが妥当なのではないか。そうすべき理由を列挙すると、以下のようなことである。

  1. あらゆる情報を集め、全社で共有し、企業活動に活かすことが、本当のお客様第一主義である
  2. 研究開発をしている川上と、お客様に直接接触している営業や接触中枢(コンタクトセンター)の川下と、どちらが優位であるとか重要であるといった不毛な議論ではなく、どこにお客様情報が集まるのかを考えれば、組織の在り方も必然的にそこが中心になるはずである
  3. いつでも、どこからでもお客様の望む方法で、最適の社員が応対するように、接触方法の複合媒体(マルチメディア)化を実現すべきであり、経費の効率的な投入を考えると、まず接触中枢(コンタクトセンター)に投資することが妥当となる
  4. ひとりのお客様の情報は一元化してどの媒体からの接触履歴も、誰が応対した履歴でも、どの事業部の商品であろうとも、接触を受けた人間が適切に対応できるようにしなければ、お客様の印象を悪くするので、十分な応対訓練を受けた接触中枢(コンタクトセンター)の人間が応対するのが良い
  5. お客様は24時間体制での応対を希望しているが、全社員が3交代制を採るのは難しい

 最近は、こうした接触中枢(コンタクトセンター)に必要な機能を応用役務提供者(ASP)として開始している企業も出始めているので、そうしたものを利用すれば、自前で設備を導入するよりも、短期間に、低い経費で始めることができる。その前に、まず組織変更を考えてみては如何だろうか?接触中枢(コンタクトセンター)を企業の中心に据えることによって、何が良くなるのかを再度まとめてみると;

  1. 提供する役務(サービス)の向上によりお客様満足度の向上
    1. 迅速な応対
    2. かゆいところに手が届く
    3. 人間味ある応対
  2. お客様からの生の声に基づき、お客様特性(プロフィール)が充実
    1. 趣味・嗜好・家族構成などの情報の順次蓄積
    2. 意向・購買履歴や購入予定時期などの情報
    3. 環境・経済状況などの変化
  3. 接触頻度・接触効率の向上
    1. 従来は訪問対面販売と直送郵便物(ダイレクトメール)で効率も悪く頻度も限界であったが、新たに、電話、電子書画郵便(ファクシミリ)、相互通信網(インターネット)、電子郵便(メール)などを加えた複合媒体(マルチメディア)を活用することで接触頻度も接触効率も向上
  4. お客様情報をあらゆる部署で共有・活用することにより、更に良い商品(製品+役務)を提供

などが考えられる。競合他社がこうした方向で改革を進めているとしたら、あなたの会社は遅れを取ることになる。景気は上向いているが、まだまだ意識改革、組織改革、流通改革は深部に達していない日本企業が多いように思われ、いずれまた問題に直面するのではないかと危惧している。今こそ更なる改革が必要である。


<筆者紹介>唐澤 豊(からさわ・ゆたか)
データメディア株式会社代表取締役社長 経営労働管理士

1970年早稲田大学卒業。東京エレクトロン(株)に入社しマイクロコンピューター・システムの開発の後、1977年インテルジャパン(株)入社、16ビットMCUi8096の開発、半導体の製造、品質管理等を経て、筑波デザインセンター所長、マルチメディア市場開発事業部長、インテルプロダクト事業本部長の後、1994年末退社。1995年、対戦ゲーム・ネットワーク・サービスのカタパルト・エンタテインメント株式会社設立、代表取締役社長就任。1997年CTIミドルウェアの株式会社日本ジェネシス研究所設立、代表取締役社長就任。1999年10月、分散型マルチチャネル・インタラクション・サーバーを開発するフランス企業の日本法人、データメディア(株)を設立、代表取締役社長に就任。1999年2月~2002年1月に日経BP社の“BizIT”、“ITPro”にコラム執筆、“IPフォーラム”の主宰等を行う。

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