【ネット時評 : 前川 徹(サイバー大学)】
IT人材不足を解消するためにすべきことは何か

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 2006年1月19日、e-Japan戦略、e-Japan戦略Ⅱの後継として「IT新改革戦略-ITによる日本の改革-」が発表され、6月には、このIT新改革戦略に掲げられた目標を実現するための「重点計画-2006(案)」が公開された。

 このIT新改革戦略には、「2011年当初までにレセプトを完全にオンライン化する」、「国・地方公共団体に対する申請・届け出手続きにおけるオンライン利用率を2010年度までに50%以上にする」、「2009年度初めまでに『IT利用に不安を感じる』とする個人を限りなくゼロにする」など、かなり意欲的な目標が掲げられており、その実現性を危ぶむ声はあるが、その姿勢は評価できる。

人材育成で需給ミスマッチは解消できるか

 ただ、個人的に一つ問題だと思っている点がある。IT新改革戦略は次の3つの政策群に分けられている。

(1) ITの構造改革力を追求して、日本の社会が抱えるさまざまな課題解決をITによって行おうとする政策群
(2) ITの構造改革力を支えるとともに、来るべきユビキタスネットワーク社会に向けた基盤の整備を行うための政策群
(3) 構造改革力の追求とそれを支える基盤整備という2つの政策群を通じて達成される成果を、日本から世界に発信するという国際貢献のための政策群

 この第2の政策群の中に「世界に通用する高度IT人材の育成」という項目があり、ここに掲げられた目標のうちの一つが、プロジェクトマネージャー、ITアーキテクトなどの高度IT人材の育成を促進し、産業界における高度IT人材の需給のミスマッチを解消することなのだが、この実現方策に問題がある。
 この目標を達成するための方策として、重点計画-2006(案)に掲げられているのが、「大学等における実践的高度IT人材の育成」、「高度情報通信人材育成プログラムに関する調査・開発」、「産学連携による実践的IT教育の確立」など人材育成側中心の方策ばかりなのだが、本当にこのようなアプローチで高度IT人材需給のミスマッチは解消されるのだろうか。
 最近、情報システム部門を志望する学生の割合は減少傾向にある。いくらIT人材育成の環境を整えても、それを目指す優秀な若者が増えてこなければIT人材の育成はできない。

人気のない「情報システム部門」

 株式会社 毎日コミュニケーションズが2006年3月23日に発表した「2006年度 大学生の就職意識調査結果報告」によれば、「情報システム部門」を希望する学生の割合は4.1%であり、昨年より0.3%ポイント改善したものの、2001年(5.3%)、2002年(6.0%)と比較するとかなり水準は低くなっている。
 同調査によれば、学生は「自分のやりたい仕事ができる会社」「働きがいのある会社」を会社選択で重要視しており、「暗い雰囲気の会社」「仕事内容が面白くない会社」「ノルマがきつそうな会社」には行きたくないと答えている。

 情報システム部門に人気がない原因は、この分野における就労環境がよくないからではないだろうか。たとえば、厚生労働省の「毎月勤労統計調査 平成15年分結果確報」によれば、事業所規模5人以上の全産業の所定外労働時間は124時間であるが、情報処理推進機構(IPA)が2006年1月に発表した情報処理産業経営実態調査(2005年版)によれば、情報処理産業における年間平均残業時間は298時間であり、全産業平均の約2.4倍である。(2006年4月に情報労連から公表された「ソフトワーカーの労働実態調査 2005報告書」をみても、開発部門のソフトワーカーの年間時間外労働時間は314時間である)。
 年間の総労働時間についてみても、情報処理産業は2108時間と全産業平均の1816時間と比べて292時間も長い。

 また、日経コンピュータ誌が2005年11月にWebサイト「IT Pro」上で実施したITプロフェッショナル(情報システムの開発や運用に携わる技術者)を対象とした労働実態・ 意識調査によれば、年間残業時間は570時間を超えている。おまけにITプロフェッショナルの51.2%が転職を希望しているという。総務省の「労働力調査 詳細結果(平成16年平均)」によれば、転職を希望している就業者の割合は全産業平均で1割に満たないので、2人に1人が転職を希望しているというのはかなり異常である。

現場で起きていることに目を向けよ

 高度IT人材を育成する仕組みをつくることも重要であるが、そもそも、なぜ若者が情報システム関連の職種を選ぼうとしないのかを考える必要があるだろう。情報サービス企業の経営者から話を聞くだけでなく、開発現場で何が起きているのかを充分に調査し、問題の根源的な要因を把握してから対策を講じることが必要である。仮に、優秀な人材が集まらない原因が、慢性的な残業などの就労環境にあるのであれば、高度IT人材を育成する仕組みの整備に加えて、業界全体として就労環境の改善を図り、学生にとって情報システム関連の職業を魅力的なものにしていく努力も必要だろう。IT関連の職種に限る話ではないが、その職種が魅力的になれば、自ずと優秀な人材が集まるようになるはずである。

<筆者紹介>前川 徹(まえがわ とおる)
富士通総研 経済研究所 主任研究員
1955年生まれ、名古屋工業大学情報工学科卒、78年に通産省に入省、機械情報産業局情報政策企画室長、JETRO New York センター産業用電子機器部長、情報処理振興事業協会(IPA)セキュリティセンター所長、早稲田大学客員教授(常勤)を経て、2003年9月より現職。早稲田大学客員教授(非常勤)を兼任。

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