【月例会】
勉強会「欧州におけるIT知財の反トラスト政策」

会場の様子
会場の様子

 11月28日、クリフォード・チャンス法律事務所のトーマス・ビニエ弁護士を招き、「欧州におけるIT知財の反トラスト政策」をテーマに講演いただいた。10月に米マイクロソフト社は、欧州委員会が2004年に下した独禁法違反の是正命令を受け入れることを発表した。マイクロソフト側はウィンドウズ関連技術の他社への供与を進め、欧州委員会側はさらなる制裁措置を見送ることとしている。ビニエ氏はこの知財訴訟において欧州委員会支持の姿勢を示してきた民間団体ECIS(European Committee for Interoperable Systems)の担当弁護士を努めており、欧州委員会の独禁政策や知財戦略の背景について語った。ディスカッションでは、判決の経緯や意味について質疑応答がなされた。

トーマス・ビニエ氏の講演から

トーマス・ビニエ氏
トーマス・ビニエ氏
 最近、欧州委員会では特にIT分野での競争促進の動きが活発になっており、知財や標準化がテーマとなることも多い。今回の訴訟では欧州委員会が市場での有利な立場の濫用について詳細な経済的分析を行って判断したことなど、従来との姿勢の違いも明確だ。 今回のマイクロソフトのケースでは、2007年9月17日にルクセンブルグにあるEU第一審議裁判所が、欧州委員会が2004年3月に下した裁定を実質的にすべて支持した。この裁定では、マクロソフトがウィンドウズパソコンと競合他社のワークグループサーバーの相互運用を可能にするための情報を開示する、ウィンドウズ・メディアプレーヤーがインストールされていないウィンドウズを提供することを命じた。そして4億9700ユーロの制裁金も支持された。

 裁判所が欧州委員会の判定のほぼすべてを支持したことになり、非常に明快な裁定だった。欧州委員会の技術面に関する判断を尊重しつつ独自に吟味し、判決文は約250ページにも及び、しっかりとした論旨に基づいたものとなっている。違法性の根拠は、従来のように競争を阻害する要素があったかとの基準からさらに踏み込み、イノベーションの機会を奪ったかどうかも大きな要素とした。参考とする指標も単なる市場シェアだけでなく、広範囲におよぶ経済分析を行って実態を把握した。こうした論拠に、マイクロソフトは意義申し立てをしても成功の確率は低いと考えたのではないだろうか。

 欧州委員会では似たような他の例でも、裁判を起こしている。インテルが他社のプロセッサが入ったパソコンの出荷を遅らせたり、不当な割引を提供したなどの違法行為があったと認定した。また、現在のホットな話題としては、クアルコムが自社の特許に関して不当に高いロイヤリティを請求している、と携帯メーカー6社が訴えたことなどが注目される。

 今回のマイクロソフトの裁定に自信を付け、今後、欧州委員会がかなり積極的な行動を取っていくことが予想される。IT分野では世界の中でも最も影響のある存在であるとして、意気揚々としているからだ。

ディスカッションから

 講演後は会場から、「マイクロソフトの例だけでなく、IBMの事例やGEの企業結合を阻止したことなど、米国企業を排除しようというEUの政治的な意図があるのではないか。日本企業はどのように考えるべきか」との質問が寄せられた。ビニエ氏は、「欧州委員会も裁判所も、ある特定の国に属していることが判決を左右するとはとうてい考えられない。IT業界で優位にある企業が米国に多いからだろう。その意味からも、今回の判決に対して日本企業が恐れる必要はないと思う」と述べた。

 「欧州委員会は、市場のシェアが低いなど存在感が低い企業に対しても、制裁を下すこともあるのか」との問いには、「今回はシェアの高さも論拠のひとつではあるが、EU市場に関わりが深い案件と判断した場合は、シェアが低い企業でも規制の対象となり得るだろう」と答えた。

 「メディアプレーヤーがインストールされない製品を提供するといった裁定には、どのような意味、影響があるのか」との問いには、「市場には大きな影響は既に与えないが、ある企業が開発したソフトウェアの斬新な機能が、ウィンドウズにバンドルされたことで消えていった例は枚挙にいとまがない。競争は技術革新の大きな駆動要因であり、競争が阻害されれば、悪影響を受けるのは消費者だ」と見解を述べた。

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