【ネット時評 : 本荘修二(本荘事務所)】
MVNOの第二ステージが始まった

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 MVNO(Mobile Virtual Network Operator、仮想移動体通信事業者)について、日本の総務省や業界団体で議論が始まっている。関連企業の一部も熱を帯びている。しかし、何のための議論か釈然としないところもある。いくつか、掘り下げ不足の点があるようだ。

MVNOとは

 モバイル通信分野で、すでに欧米では盛んになってきているMVNO。日本でも数年前に話題となり、2001年に日本通信がPHSのデータ通信でのMVNOとしてサービスを始めた。その後、日本では目立った進展をみせなかったが、昨年の携帯電話の新規ライセンスに伴い議論が再燃してきたところだ。
 ではMVNOとは、どういう意味があるのか。簡単に言うと、ネットワークを持つMNO(Mobile Network Operator、移動体通信事業者)はキャパシティ稼働率の向上、つまりさらに沢山売るためにMVNOにキャパを卸す。ユーザーはMVNOによってリ・パッケージされたサービスにより経済性や付加価値の向上、つまりより自分にあったものが得られる。
 一方、過去の教訓もある。MNOに無理にネットワークを開放させてもうまく行きにくい。モバイルの複雑性もあり単純なキャパ卸というわけには行かない。そして、フリーライド的な新規参入が増えると、安いだけのMVNOなど市場が荒れることになりかねない。MNOとMVNOのWin-winを目指すことが重要だ。
 そして、MVNOは大きなプラスをもたらす可能性がある。

顧客密着、高い付加価値

 従来のケータイは、百万台単位で売れる汎用的なものでよかった。しかし、もはや多くの顧客は、モバイル通話という基本機能をはるかに超えた価値を、ケータイに期待している。かつてツーカーの「あゆ」モデルが売れたことがあった。それ自体は「ガワ」のアピールだったが、その次元にとどまらない本質的な顧客密着を示唆していた。
 米国でMVNOを提供している例には、ディズニー、スポーツ専門放送局のESPN、宗教団体などがある。特定のニーズを持つ顧客セグメントに、それに即したサービス/コンテンツを提供し、かつ密着したCRMを実践できる。日本ではクレジットカード業界がこうしたマーケティング手法を実践しており、例えば歌手のMISIAファンクラブ特典を得られるカードや、ポイントをイベントチケットなどに交換できるMTVとタイアップしたカードが発行されている。ケータイも同様のマイクロ・マーケティングができるはずだ。共通インフラに、特化したサービスを載せるセミ・カスタム的なものである。
 これは顧客密着(customer intimacy)を志向する企業にとって、見逃せないチャンスである。多くのコンシューマー・ビジネス企業にとって、顧客と直接つながることの意義は大きく、ある意味で悲願でもあった。また、非IT企業がデジタルネットワーク時代の新事業に取り組むにはよいチャンスだ。
 これは、MVNOの必要規模を数十万単位から数万単位へと低下させるだろう。そうすれば学校やファンクラブなど、さらにセグメントされた顧客層への特別なサービスが提供できるようになる。

MVNEの担い手は

 MVNOを実現するには、MNOが持つネットワーク・インフラ上に、他者であるMVNOが事業活動をできるようにするMVNE(Mobile Virtual Network Enabler)という機能が必要となる。
 これはMVNE事業者が提供することもあれば、MNOや、MVNOが具備することもある。MVNOの米Virgin Mobileは自社でこれを備えており、ESPN、ディズニー、日本のフェイスが北米で富裕層向けに展開しているサービスなどは、独立系MVNE事業者のVisage Mobileを活用している。
 日本では、インフォニックス、IRI(インターネット総合研究所)グループ、DOEなどがMVNEとして名乗りを上げているが、どちらかというとMNOに対するサービス提供の色彩が濃い。日本でプレゼンスのあるMVNE関係事業者というと、Virgin MobileやVisage MobileにMVNEソリューションを提供したPatni(www.patni.com)が経験でリードしている。いずれも今後に期待したい。
 MVNEは単純ではない。バリュー・チェーンのどこをカバーするか、MNOやMVNOとの役割分担も様々である。こういった中で、MVNA(Mobile Virtual Network Aggregator)という考え方も生まれている。より小規模なものを含む多様なMVNOを可能にするものだ。
 さらには、コンテンツ/アプリケーションのプラットフォームとして、決済など様々なサービスを可能にする機能の拡張・追加が求められるであろう。

業界全体の姿勢

 モバイル業界全体としては、MVNO賞賛でも、全否定でもないだろう。MNOはMVNOに対して警戒してきたが、メリットも期待される。成熟化と競争激化の中、このままでは日本のMNOは業界全体が縮んでいくことも懸念される。利益の低下をクレジットカードのような新規事業だけでは埋めきれないだろう。「iPod電話」のようなものも予測されているが、携帯WiFi(公衆無線LANの規格)電話などが出てくれば、さらに既存MNOの事業環境は厳しくなる。こうした中でMVNOは、顧客の乗り換え(churn)競争を低減し、顧客あたり収入を増加させることに貢献する可能性がある。
 もっとも5000万ユーザーを持つ携帯事業者が、すぐに数十万規模の動きに乗るかは疑問だ。競争がさらに激化し、MVNOユーザーが臨界量を超え、成功例が顕在化したときに次のステップがみえてくるだろう。そうなると日本では、まずボーダフォンとウィルコム、特にソフトバンク陣営に入ったボーダフォンの動きと成果が鍵になる。
 MNOのみによるサービスに限界があるのは議論を待たない。長期的な将来ビジョンあるいは想定されるシナリオを描くことが重要だ。FMC(固定電話と携帯電話の融合サービス)やWiFiも含め、技術的な論議も大切だが、顧客やサービスの価値からの議論もあってよいのではないか。

<筆者紹介>本荘 修二(ほんじょう しゅうじ)
本荘事務所 代表
ジェネラルアトランティックLLC日本代表、埼玉大学客員助教授。東京大学工学部卒、ペンシルベニア大経営学修士。ボストン・コンサルティング・グループ、米国コンピューター・サイエンス・コーポレーション、CSK/セガ・グループなどを経て現職。社内起業研究会設立以来、起業家精神とイノベーションの研究成果を日米欧で発表している。  著書に「成長を創造する経営:シスコシステムズ爆発的成長の秘密」「日本的経営を忘れた日本企業へ:9万人のベンチャー企業ヒューレットパッカード」、「企業再生(監修)」(共にダイヤモンド社)「IT情報の虚と実」(アスペクト)などがある。

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