【月例会】
緊急討論会「P2Pファイル交換と著作権保護」開催

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緊急討論会の会場
 日経デジタルコアは8月10日、東京国際フォーラムにおいて緊急討論会「P2Pファイル交換と著作権保護」を開催した。これは6月27日に米連邦最高裁が、P2Pによるファイル交換ソフトの開発会社であるグロックスターとストリームキャスト・ネットワークスに著作権侵害の責任を認める判決を下したことを受けて企画したもの。
 第一部のパネリスト4人によるショートスピーチでは、最初にこの訴訟の概要と評価を成蹊大学法学部教授 城所岩生氏が解説した。また音楽、ソフトウエアのコンテンツ権利者の立場から、(社)日本音楽著作権協会 常任理事の菅原瑞夫氏、(社)コンピュータソフトウェア著作権協会 戦略法務室長 葛山博志氏が意見を述べ、最後に経済学的な視点から、ファイル交換ソフトの利用制限に反対の立場をとる慶應義塾大学 経済学部助教授 田中辰雄氏が持論を展開した。
 続く第2部では参加者全員によるフリーディスカッションが行われ、活発に意見を交換した。司会は坪田知己日経デジタルコア代表幹事。

城所氏の講演から

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成蹊大学の城所 岩生氏
 まず、今回の最高裁判決については、以下の4つの観点から評価を与えたい。
  • 著作権侵害のまん延に一定の歯止め効果がある。
  • P2P技術そのものではなく、著作権を侵害する行為のみを禁止し、技術の発展の芽を摘み取ることにならなかった。
  • 高裁判決では各P2Pソフトが採用している技術モデルによって判決が分かれたが、今回は特定の技術モデルを奨励することのない、中立的な判断が示された。
  • 著作権侵害の助長、という確立した概念が用いられたため、今回の判決で機器・ソフト開発側の「訴訟リスク」が増大することは考えにくい。つまり、技術開発に水をさす恐れが少ない。
 米国の学界では、インターネット法の専門家であるスタンフォード大のローレンス・レッシグ教授が「どんな行為が侵害助長になるかを訴訟で明らかにするのは時間がかかり、技術革新を停滞させてしまうのでは」と懸念を表明している。一方、著作権法の大家であるカリフォルニア大学バークレー校のパメラ・サミュエルソン教授は「ソニー判決の見直しを行わなかったことは、メーカーやユーザーにとってよいニュース」と評価している。

菅原氏の講演から

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(社)日本音楽著作権協会の菅原 瑞夫氏
 われわれJASRACは、常に新しい技術に興味を持っている。有効ならば採り入れ、業界全体の利益につながるものであればその普及を支援していきたいと考えている。
 作品データベース検索や許諾申請受付、利用報告受付などの機能を持つインタラクティブ配信管理システム「JASRAC NETWORCHESTRA SYSTEN」の開発は、その代表的な事例だ。
 しかし一方で、新しい技術を開発する側は、著作権者の声にどれくらい耳を傾けてきたのだろうかと問いたい。最近になってようやく当協会への相談も増えてきたが、これまで権利者の意見や要望を聞かずに技術開発を進めてきたツケが、今になって現れて来ているという印象を受ける。技術に携わる者として、それでプロフェッショナルと言えるのだろうか。

 もっとも、権利者と技術側が必ずしも対立の図式にあるとは思っていない。不正な利用が横行する現状を技術面から解決していこうという動きには、権利者側も協力を惜しまないと思う。そうしてユーザーも含めたWin-Winの関係を築いていくことが重要だ。着信メロディのモデルなどは、その成功例と言えるのではないだろうか。

葛山氏の公演から

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(社)コンピュータソフトウェア著作権協会の葛山 博志氏
 当協会では2005年1月に、インターネットユーザーを対象にファイル交換ソフトの利用実態に関する調査を行った。Webアンケートで実施し、26,000以上の有効回収数を得たこの調査について報告したい。
 調査によれば、わが国ではインターネットユーザーの約9%、およそ425万人がファイル交換ソフトの利用経験があると見られる。ファイルの内容については、音楽や映像などのコンテンツが多く、ソフトウエアについてはむしろ減少傾向にある。P2Pソフトとしては、音楽では「WinMX」、映像やソフトウエアでは「Winny」がよく利用されているようだ。
 また、実際にP2Pでダウンロードされたファイルをサンプル調査したところ、その大半が「著作権の対象であり、かつ権利者の許諾がないと推定される」ものだった。

 われわれとしても、P2P技術は次世代の基幹技術の一つだと考えている。しかし不特定ユーザー間で、ファイルの交換を主目的としたソフトが何の歯止めもないまま使われれば、権利侵害が起こることは容易に予想できる。それを放置した状態で、あえてP2Pソフトの開発や配布を行うなら、その責任は問われて当然と言えるのではないか。早急な対策が必要だ。

田中氏の講演から

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慶應義塾大学の田中 辰雄氏
 そもそも、情報財というものは無償で誰でも利用できる、というのが理想だ。だが、それでは新たな創作が生まれない恐れがある。そこで創作を促すための「誘因」として、著作権という制度が機能しているのだ。
 だから保護を強めすぎることは、社会全体の利益になるとは言えない。最適な保護の水準を見極めることが重要だ。とはいえ、その的確な測定は極めて難しい。そこで私は、「売り上げが変わらない(権利者に経済的なダメージを与えない)ならば、著作権保護を緩めるべき」と提案したい。

 ある音楽CDの売り上げ数と、それがP2Pソフト「Winny」でダウンロードされた数とを比較分析してみると、「ファイル交換がオリジナルの売り上げを減らす」という明確な結果は得られなかった。さらに音楽をよく聴くユーザーを対象にアンケートを行ったところ、コピーができるからといってCDの購入を控えるケースは少なく、若年層ではむしろ購入の増加につながることすらある。
 つまり、現状では著作権者に経済的ダメージは発生しておらず、保護は緩和する方向に進むべきだ。もちろん、組織的な違法コピーを取り締まったり、ユーザーのモラルに訴えることは必要。しかし、ソフトを開発した人間を逮捕したり、個人を刑事事件で訴追するなどは、行き過ぎではないのか。

ディスカッションから

■不正利用、ビジネスモデルで克服を

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ディスカッションに臨む菅原氏(左)と葛山氏
菅原:CDの売り上げは1998年をピークに、現在まで下降線をたどっている。1999年にJASRACが違法ダウンロードの摘発を実施した時点で、すでに“ヤミ市場”は確立していたのだ。その規模は、当方の試算では年間78億円にのぼると見ている。昨年の着メロによる著作権収入は82億円。それに匹敵するヤミ市場が公然と存在している現状を、田中氏はどう見るのか。

葛山:私もソフトウエア業界の立場から申し上げたい。ビジネス用のソフトを不正にコピーして使用していたユーザーが、その不正を指摘され、あらためて正規版を買ってくれるかというと決してそうではない。明らかに売り上げが失われたことになる。またビジネス用ソフトの場合、ライセンス料を払わずに使っている人たちをそのまま放置していると、正規ユーザーの不満がふくらみ、やがて「お金を払うのがばからしい」と、正規ユーザーが不正ユーザーに変わる、というケースもある。

城所:米国レコード協会の会長は、「ビジネスモデルが最終的な解決だ」と述べている。音楽ダウンロードがさかんに行われるようになったのは、大学が最初だった。学生の「お金がない」「音楽が好き」という側面と、インターネットが早くから普及していたという環境がマッチしたからだ。その流れがナップスターを経て、アップルによる音楽の合法的なネット販売というビジネスモデルを誕生させた。

田中:確かに菅原氏の言う「公然と大量にヤミ配信」というのは規制すべきだ。しかし私は、このアンダーグラウンドな勢力には、すでにある程度法的、心理的抑制がかかっており、これ以上公然化する可能性は低いと見ている。
葛山氏の指摘した「失われた」とされる売り上げだが、不正を指摘されても正規版を買わない、ということは、もともと「発生しえない」売り上げだった、と考えることはできないか。
城所氏の述べた「ビジネスモデル」の件については、合法ダウンロードサービスを安く提供することが、不正利用に対する最良のカウンターパンチになるはずだ。アップルにしても、「99セント払えば、うしろめたい気持ちを持つことなくダウンロードできる」というのが成功の一因だったと思う。これによってユーザーの意識も変化してきた。「1曲だけ欲しいのに、そのためにアルバム1枚を買いたくない」というニーズが増えている。今後は、これまで長らく続いてきたアルバム単位の購入から、欲しい曲だけをダウンロードで購入するというスタイルが主流になっていくだろう。

参加者:最近のCDの売り上げを見ると、売れているのは主にベスト版だ。それが曲単位で、となると、もはやベスト版すら不要になってしまう。アップルが国内で開始したiTunesミュージックストアが、4日でのべ100万曲を売り上げたという実績から見ると、合法的でわかりやすいダウンロードサービスを求めていた層は、すでに数多く存在していたといえる。

■最適保護水準、何によって求めるか

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左から坪田(司会)、田中氏、城所氏
葛山:田中氏が先ほどのスピーチで「著作権保護の最適保護水準」ということを述べたが、それは果たして客観的に確定できるものだろうか。経済的には可能かもしれないが、世界的な傾向として、著作権は文化の問題として考えられている。

田中:文化的な問題だという見方は、その通りだと思う。同時に、ビジネスやマーケットとしても注目され、議論される存在になっている。だからそれを考えるときにはぜひ経済学者も仲間に入れてほしい(笑)。

葛山:そうした水準を、法律だけで考えていくのは難しいと思う。著作者が自ら使用範囲を意思表示する「オープンソース」や「クリエイティブ・コモンズ」のような試みも広がっているし、市場原理や契約の考え方も組み入れながら調和点を探っていくべきではないだろうか。膨大な資本を投入したコンテンツや、デファクト・スタンダードの地位を占めたソフトウエアならともかく、現在はコンテンツやソフトエアを生み出す側のすそ野が急速に広がってきている。あまり法律で固めすぎると、ユーザーが離れてしまう危険があるだろう。
そうした著作者が報酬その他を得るための機会が、P2P不正使用などによって減ってしまうと、創作物が生まれる量も減ってしまうのではないかと懸念している。

■価格、インフラ・・・・・・多様な視点が必要に

参加者:マイクロソフトの「ウィンドウズ」は、仕事で使わなくてはいけないから、ここまで普及したのだと思う。音楽はあくまでし好品なので、少し事情が違うと思う。また値付けの問題は重要だ。ビジネス用のソフトでは、同様の機能のソフトを思い切った価格で発売し劇的に売り上げを伸ばす、ということも可能だ。音楽コンテンツにしても、法律や制度の問題ばかりではなく、値付けということに向き合う時期に来ているのではないだろうか。

参加者:環境を考えずにむやみにダウンロードユーザーが増えた結果、プロバイダーのトラフィックを喰ってしまう被害が出た例もある。本当にネットワーク配信を考えるなら、インフラ環境も視野に入れた将来像を描いていく必要がある。

菅原:最初は便利で素晴らしい技術だったが、後になって何か問題点が生じてきた、というのは歴史的に見てもよくあること。問題が生じたら、今度はそれを解決する仕組みを考えていく、という方向で技術を進歩させていくべきだ。そしてそれが、新しいビジネスを創造していくことにつながるのではないだろうか。

司会:現在は、いろいろなビジネスの思惑が交錯し、技術的にもアナログからデジタルへの大転換が急速に進んでいる時代。その中では、新たなビジネスモデルを作った人こそが状況を変えていけるのだと感じている。今後も議論を重ねていきたい。

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