【緊急コメント : P2P米最高裁判決】
フェアユース判断基準への原点回帰

新潟大学法学部 助手 須川 賢洋氏
 
 今回の判決を出すにあたって合衆国最高裁がとった手法は、誠にシンプルかつ明瞭なものであったと言えるのではなかろうか。すなわち、高度な技術論や法解釈論に踏み込むのでなく、P2Pソフトの性質と被告:GROKSTER社の行為を「フェアユース」の判断基準に再度当てはめてみた結果、アンフェアだとの結論を導き出したと言えよう。

 アメリカにおけるフェアユースの判断基準は積年の判例によって確立され、それらが著作権法107条に4つの条件として例示的に記載されている。その4つの判断基準とはすなわち、(1)用途 (2)著作物の性質 (3)利用された量や部所 (4)市場への影響 である。
 そして下級審でも繰り返し持ち出されてきた、"Sony vs. Universal City Studios"(464 U.S. 417), いわゆる「ベータマックス訴訟」では、(1)の用途において、家庭用ビデオデッキはユーザーが単に番組を見る時間をずらすためだけの「タイムシフト」に使われていることが最終的なフェアユースの成立要件になった。
 今回の判例はこれら4条件について個々に検討しているわけではないが、判決文からはこのフェアユースの法理を重視していることが読み取れる。すなわち、ソニー自体は著作物の不正なダビングによって利益を得るためにビデオデッキを開発・販売したわけではなく、またユーザー同士の著作物の不正な交換を助長するような行為を行っていたわけではない。しかし一方で、グロックスター社は同社のP2Pソフトを、“悪名高いNapsterに代わる物(注1)”として宣伝し、広告収入を得て、かつ著作権が存在するコンテンツの不正なコピーや流通に使われていることをはっきりと意識していながら、フィルター等によってそれらを取り除くこうとした証拠もないことが判例中にも記されている。
 こうした同社の行為を上述のフェアユースの4つの用件に照らし合わせた結果、裁判所がグロックスターに対して著作権侵害の責任ありと判断したことは、一般人にとってある意味もっとも自然に受け入れられる結論のような気がする。そしてまたこのように判断したことによって、かつて自らが下したソニー判決を否定することなく(注2)、著作権侵害を助長する行為に対して社会的に警鐘を鳴らしたと評することができる。
 またこのように判断しておけば、新しい技術やビジネスモデルの登場によって今後新たな問題が生じても、裁判所は今回の判決にとらわれることなくその都度最適な判断を下すことが可能になり、城所氏が述べているとおり「技術中立性を貫く」ことにもなる。
 米国の著作権制度と日本の著作権制度のどちらが優れているとは一概には言えないが、今回は米国制度の持つ特徴がすべて良い方に出たと言えるのではないだろうか。

 
(注1)“悪名高い”は筆者の言葉ではなく、判例中の記述である。
(注2)最高裁は「下級審(第9巡回裁判所)はP2Pの仕組みをよく分かっていなかったので判断を誤った」と述べている。このようなことを判例中にはっきりと記載するアメリカの判決文の書き方は興
味深い。

 

<須川氏プロフィール>新潟大学大学院法学研究科修了、法学修士。情報法政、知的財産法制を専門とし、法律と技術の相関関係を研究対象としている。共著に『最新情報科学用語小辞典』(講談社ブルーバックス)。2002年1月~2003年12月まで『月刊ITセレクト』(メディアセレクト刊)にてコラム「法の下のIT」を連載。その他諸誌に関連のコラムを執筆。毎年秋に湯沢町で行われる「ネットワーク・セキュリティワークショップ in 越後湯沢」の運営委員長を務める。

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