【ネット時評 : 本荘修二(本荘事務所)】
大企業経営にとってのネット――置き去りにされた本質論

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 「なぜネットなのか」――。大企業のネット活用を考えるとき、そこがはっきりしていないことが一番の問題だ。ベンチャーはそこに商機をみれば十分な理由となるが、大企業では既存の売上・利益にすぐに大きな影響があるわけでもない。

 ネットはインフラでありツールである。もちろん変革を起こすポテンシャルを備えた重要なツールだが、それ自体が目的やビジョンにはならない。経営やビジネスの目指す姿や方向性があってこそツールを生かすことができる。

 そもそも日本の大企業は米国に比べてマーケティングやコミュニケーションについては遅れていた。ネットはそのインタラクティブ性ゆえに「パワフルである反面、怖い」という認識もある。しかも顧客は賢くなっており、ごまかしは見破られる。

 すなわち、経営がネット化社会に対応できるのかが問われ始めているという基本認識があってこそ、有効な手が打てるのである。

表層的なネットのとらえ方

 ネットの普及に伴う人々の生活の変化やネットベンチャーの証券市場での台頭、そして主に米国でのネットビジネスの躍進の報道などから、まずネットありき、という頭になっている経営者が増えてきた。その一方で、ネットはベンチャーなどのテーマであって大企業ではまだマイナーなものととらえている経営者も数多い。

 また、「新しいこと」に取り組むこと自体を目的としていることもある。社内SNSやブログマーケティングなどは話題性もあり、副産物としての効果を主に狙っていることすらある。YouTubeにCMを載せると新聞記事になったのはいい例だ。もっとも広告やマーケティングの会社に乗せられて形だけ真似しても失敗する。ブロガーを集めて新製品説明をしたが、製品について書いたのは一人だけで皆この企画の意図がわかりかねるといったコメントをしたという例もある。あるいは、ブログやSNS内に作ったコミュニティーが炎上した大企業もある。

 これらは全て、ネット活用について表層的なとらえ方をした状況を示している。

 私は今年2月、「大企業のウェブはなぜつまらないのか――顧客との対話に取り組む時機と戦略」を上梓したが、ブログやネット書店のレビューを見る限り、評価は両極に分かれている。上記のような状況ゆえ、それも納得がいく。

大企業経営にとってのネットの意味

 まず、ネットによる変化のインパクトを正しく理解することが必要だ。その核は企業から顧客へ、パワーがシフトすることにある。無数のブログやコミュニティーで顧客が自由に発言し、さらに顧客同士がつながってコミュニケーションが展開していく。当然、購買行動は変化する。すると、顧客を知る、顧客への発信、顧客との協働といった活動が重要になる。言い換えると、顧客との対話の時代になりつつある。

 これを企業の視点で考えれば、自社メディアの重要化、ということになる。だからネット活用なのである。

 しかし「ネット対既存メディア」といった二元論は問題を解決しない。テレビCMはもうだめでこれからはネット広告だ、といった論調はその一つだ。

 先日「ウェブにおけるブランド構築」 というテーマで話してほしいと依頼された。そこで強調したのは、大企業にとってはブランド構築にかかわる部署や手段はいくつもあるが、顧客から見れば一つの会社である、ということだ。組織横断的にひとつの姿をつくることが不可欠である。

 このトータリティーがひとつの鍵だ。顧客の購買プロセス全体に対して、多様なメディアを組み合わせてアプローチするクロスメディアが求められる。さらに、営業マンや店舗などを協調させたマルチチャネルの実現も問われることになる。

 これはネットだけの話ではなく、ネットを一つの核に据えた、新たなビジネス・プロセスの構築、として考えるべきものだ。

ネット化時代の企業のあり方

 このようにネットは、コンテンツや広告を配信するだけのものではない。企業のあり方自体を問うものなのである。

 企業内情報システムはその企業の組織や文化を映し出す、とも言われる。いま、企業のウェブが、同様の性質を帯び始めてきた。拙著「大企業のウェブはなぜつまらないのか」を読んで「うちのウェブもつまらないんです」と言うメディア企業のマネジャーは、その理由について、組織がばらばらで協調していないことがウェブ上にはっきりと出てしまっている、と語っていた。

 また、このところ大企業のマネジャーとネットについて話す機会が多いが、意外にも根本的な課題に話が及ぶことが少なくない。

 ある大企業では、ネット以外のマーケティングの課題を認識するに至った。つまり、ネットがきっかけになって既存業務を見直すことになったのである。

 またある消費財メーカーとの意見交換で得られたひとつの結論は「自社のアイデンティティーの確立が必要」だった。顧客と対話しようにも、現状では自社からのメッセージの統一性や分かりやすさに限界があることが認識されたのだ。

 ネットは、自社のあり方や組織、ビジネスプロセスを再考するきっかけにもなる。すでに顧客はネットを生活の一部としている。企業がネットを「別扱い」している時代はもうじき終わることだろう。

<筆者紹介>本荘 修二(ほんじょう しゅうじ)
本荘事務所 代表
埼玉大学客員助教授。東京大学工学部卒、ペンシルベニア大経営学修士。ボストン・コンサルティング・グループ、米国コンピューター・サイエンス・コーポレーション、CSK/セガ・グループなどを経て現職。社内起業研究会設立以来、起業家精神とイノベーションの研究成果を日米欧で発表している。  著書に「大企業のウェブはなぜつまらないのか」「成長を創造する経営:シスコシステムズ爆発的成長の秘密」「日本的経営を忘れた日本企業へ:9万人のベンチャー企業ヒューレットパッカード」、「企業再生(監修)」(以上ダイヤモンド社)「IT情報の虚と実」(アスペクト)などがある。

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