【ネット時評 : 江川 央(デジタルメディア・コンサルタント)】
セカンドライフのブームは仮想か、現実か

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 この原稿を書きながら、数年後の自分を想像してみる。もしかすると、これから私が書こうとしていることは、数年後、時代の先を読めなかった男の駄文として笑いのネタにされているかもしれない。そんなことさえ私の脳裏を過ぎる。ただ、それでもいい。常に先行きが読めないのが、ネット業界の面白みなのだから。

 最近の日本の報道をネットでチェックしていると、インターネットのバーチャルコミュニティーサイトである「セカンドライフ」についての論評を眼にする機会が多い。多くのものが、動作可能なアバターを駆使したSNS機能、グラフィックを多用したゲーム的要素、バーチャル・ワールドで展開される、コミュニティーの住人達を対象にしたビジネス、さらにそれらをリアルの世界とクロスオーバーすることによって見込める潜在的な経済効果についてなど、同サイトの持つ様々な可能性を好意的に取り上げている。ただ、私は首をひねってしまうのである。可能性を語ることについては大いに賛成だが、果たして、現実的にどうなのだろうか、と。

 実は昨年の秋、米国のメディアで初めてセカンドライフの記事を読んだ後、私も興味本位ですぐに同サイトに登録をしてみた。インターネットを使い、ビジュアルも含めて「もう一人の自分」を創出し、現実世界と並行してネット生活を続けていく――と聞くと、何だか秋葉原あたりのコスプレを連想する。そうなると個人的にあまり興味がわかない。仮に興味があったにせよ、オンラインの「住人」になるには、リアルの世界で同時に消費することになる「時間」が足りない。ただ、これだけちまたで騒がれているからには、やはり理由があるのだろうし、聞いた話によるとお金もうけにもつながるらしい。食わず嫌いは悪、と誰かに言われたこともある。ちょっとだけ試してみようか、そんな感じで私のアンテナは反応した。

 ソフトウエアをダウンロードし、コミュニティーに接続し、ネット上に現れた、自分の分身を後からカメラで追いかけるような要領で歩き回る、あるいは、空中遊泳する。ところどころ、見かけた人達に英語で話しかけてみた。違う言葉で返事をしてくる人もいた。15分ほど、この新しい世界で遊んで、ログオフした。一言で言えば、つまらなかったからだ。それ以来、数カ月間このサイトにはアクセスしなかったが、つい先日、日本での盛り上がりを受けて食指が動き、久しぶりに同サイトにアクセスしてみた。ソフトウエアがバージョンアップされていたので、何か新しいことが起きるかと期待に胸を膨らませたが、結果は同じだった。バーチャルワールドを探検することもほとんどなく、そのときは7分ほどでログオフした。

 私はいわゆる「ゲーマー」ではない。ただ、ネット上の便利な機能については積極的に使っていく方だし、新しい技術を取り入れていくことにもやぶさかではない。ただ、このサービスに関しては、導入部分での敷居の高さをどうしても感じる。面倒くさいという印象がぬぐえないのだ。

 セカンドライフのウェブサイトを見ると、6月9日現在、セカンドライフの総登録者数は719万人弱ということになっている。が、過去一週間に利用した人は約36万6000人とわずか5パーセントである。同サイトには、過去60日までさかのぼって利用者数が表示されているが、それによれば全登録者のうち、二カ月以上ログインしていない人の数は555万人強に達する。二カ月以内に一度でもログインした人を仮に「アクティブユーザー」と定義してみると、実に登録者の八割近くが、「ノン・アクティブユーザー」なのである。ちなみに、私は先日7分だけアクセスしたので、この区分けでいくとアクティブユーザーという方にカウントされるだろうから、実質的なノン・アクティブユーザーの数はもっと大きいはずだ。私は統計学の専門家ではないので、その分析の仕方には別の見方もあるのだろうが、5月25日付、ニューヨークタイムズ(オンライン版)の記事の中で引用されている、SNS大手「マイスペース」のアクティブユーザー(毎回の訪問時に平均30分の時間をサイトで費やす人達)数が6700万人、という現実を見ると、雲泥の開きがある。もちろん、マイスペースのアクティブユーザーの定義がセカンドライフに関して私が勝手に定義したアクティブユーザーと同じ土俵で語られていいとは思わない。あくまでも、大まかな話として私の見解を示しているに過ぎないことはお断りしておく。

 セカンドライフに関して私の中で最も疑問に感じていることは、果たしてこのサービスが一般ユーザーにとって「なくてはならないもの」になるのかどうか、という点だ。グーグルが、一介のサーチエンジン企業から短期間のうちに巨大化したのは、革新的なウエブサービスを、初心者でも簡単に使える、親しみやすい、極めて低い敷居のもとに人々に提供したこと、利用が進む過程でさらに便利な機能を拡張・追加していったことで、人々の心の中に「グーグルがあると便利」というポイントから「グーグルがないと困る」というポイントにまで、自社サービスの位置づけを昇華させていったことにある。それが、汎用的な価値の創造を導き、グーグルを中心としたニューエコノミーが急速に動き始めているのだと思う。セカンドライフを見ている限り、その潜在的な可能性を感じることはできない。また、その可能性をユーザーに感じさせないところに、同サイトの限界がある。

 セカンドライフは「こんなことができる」あるいは「できそうだ」という、噂先行型のあくまでもゲーム的要素を中心としたウェブサービスにとどまると私は見ている。確かに、コミュニティーの中でそれなりの経済活動は起きているのだろうし、それをもとにした、今後の可能性を語るだけのベースもあるのだと想像する。ただ、今から数カ月後、セカンドライフのコンセプトそのものが広く理解され、同時にそれが目新しいものでなくなってきた時に、このサービスがグラフィックやゲームの世界に心酔していない、一般ユーザーをひきつけるようになる土壌を持っているとは、どうしても私には思えない。

 もっともセカンドライフに関しては、米国においてもようやく本格的なガイドブックが出版されたばかりの黎明期の段階だ。従って、将来同サービスの一般消費者に対するアプローチが変わってくれば、ユーザーを巻き込んだ何か大きな変革が起きるのかも知れない。それまでは冷めた眼で、事の成り行きを見守ってみようかというのが今の私のスタンスである。

 ただ、冒頭でも触れたとおり、数年後に笑いものになるのは私かも知れない。だから、インターネットの世界は面白いのである。

<筆者紹介>江川 央(えがわ なかば)
デジタルメディア・コンサルタント
1965年米国ニューヨーク生まれ。1987年、自由学園男子最高学部卒業後、キヤノンに入社。海外マスコミ対応、多国語版社内報制作、F1鈴鹿グランプリにおけるスポンサー・チーム渉外、新規技術広報等を担当した後、1995年よりニューヨーク駐在。同年3月より、キヤノン初のウエブサイト設立を担当、設立後に同ウエブサイトの企画・制作業務を統括。1998年より、インタラクティブ・コミュニケーションズ・マネージャーとして、同ウエブサイト運営に加え、オンライン広告を中心にインターネット・ビジネスの展開に幅広く関与。2001年3月に、キヤノンを退社、デジタルメディア・コンサルタントとして独立。現在はマンハッタンにある大手法律事務所、Debevoise & Plimptonのナレッジ・マネージメント・チームをはじめ、依頼に応じて企業ウエブサイトの開発や、オンライン・マーケティング等に関するコンサルテーションを実施する一方、インターネット関連コラムへの寄稿をはじめ、ビジネス、社会、日米文化等にもテーマを広げた情報発信、創作活動を展開中。

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