【ネット時評 : 藤元健太郎(D4DR)】
新社会資本としての知識情報を整備せよ

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 光ファイバーの設置も順調に進み、携帯電話の普及も進んだわが国。地方ではまだ問題が残るものの、ITインフラについてはおおむね問題なく整備されつつある、という認識が広がっている。ITインフラが道路などと同様、日本の重要な社会資本であることは間違いない。

新しい社会資本

 しかし現在、IT業界はそうしたインフラはすでにあることを前提に事業を展開しており、その上で流通する「知識情報」をいかに価値化するかという段階に来ている。日本のようにエネルギーも資源も乏しい国が付加価値を生み出すためには、知識資本の回転率を高めることが重要だ。

 これからの産業構造を考えた時に必要なものは、知識情報という社会資本である。これまで知識情報の活用といえば、特定の個人や組織が所有する著作物としてのコンテンツを流通させ価値を創出するモデルが中心だった。しかしさまざまな社会情報がデジタル化され、収集可能になったことで、そうした知識情報に付加価値をつけて流通させるというモデルが可能になってきている。

 すでに、気象情報のように社会資本として集められた情報に個別の企業が付加価値をつけて流通させている例や、カーナビのように交通情報を社会資本として活用しているような例が存在しており、今後はこうした知識情報の社会資本化が急速に進むことが予想される。

 この場合、従来のITインフラとは別に、情報の収集や流通を可能にするプラットフォームの存在が重要になる。グーグルは何十万台という巨大なサーバーで世界中のウェブ情報を収集し、地図情報や図書館の書籍情報も含め無償で誰でも利用できるプラットフォームになっている。すでに世界で何万以上という個人や企業などがその知識情報を活用し、自分たちの付加価値創出に活用している。産業育成の観点からも、産業誘発につながるプラットフォームの創出はますます重要になるだろう。

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       知識情報流通プラットフォームの構造


誰が社会資本を作るのか?

 ではその社会資本はどのように整備するべきか。従来と同じように税金を投入するのか。それとも市場原理の中で民間企業に委ねるのか。

 例えば気象情報は税金を投入している例であろう。気象庁が設置した観測機器や気象衛星からのデータは、一次的に気象庁の発信する気象情報に使われているが、二次的に多くの民間企業が利用し、ユニークな視点のきめ細かい気象情報サービスを付加価値情報として提供するビジネスを成り立たせている。集合知の形で独自に一般から天気情報を集めているベンチャーもあるが、これは逆に言えばWeb2.0的に人力でネットを介して情報を集めることぐらいしか今のところベンチャーが独自ではできないことを意味する。一方完全に民間企業で行っているのがグーグルである。グーグルは世界中の情報を公共財化し、その利用と広告モデルと組み合わせることでコストをまかなっている。

 そういう意味では税金モデル、民間投資モデルどちらでもありうるのだろうが、重要なのはそこを流通する知識情報そのものを公共財化するという考え方である。公共財である以上、次の2つが問題になる。

 ひとつは情報をより活発に流通させられるかどうか。例えば税金で集めた情報は、目的外利用という壁で積極的な二次利用が阻害されているケースが多い。また現在の著作権制度は、道路で例えるならみんなが自分の私有地を通る人から必ず通行料を徴収する、というようなモデルだが、今後は全体の通行量を増大させることで自分の私有地の価値を高め、別のモデルで対価を徴収するようなモデルへの移行が必要なことは、多くの人が理解していることであろう。だが現状では私有地道路の通行料で日々生活している人も多く、その移行は簡単ではない。米国にあるようなフェアユース(公正利用)や「クリエイティブ・コモンズ(著作者自身が利用条件や保護期間などを設定する仕組み)」の考え方が参考になるだろう。

 もうひとつはフェアな情報の流通である。情報の悪意ある改ざんや操作など、不正行為を働くことに対するチェックが求められるようになる。「情報流通公正管理委員会」のような第三者機関も必要になるかもしれない。グーグルは今のところきちんとした倫理行動をしている、という信頼をある程度市場から受けているが、今後プラットフォームのプレーヤーが増えていけば、性善説だけでは難しい状況に直面するだろう。


情報大航海プロジェクトへの期待

 今年度から3年の計画でスタートしている経済産業省の情報大航海プロジェクトは一部「国産検索エンジンの開発」という話が先行しており、税金の無駄使いという批判もある。

 筆者は研究会段階から参加しているが、知識流通分野で日本の国際競争力を高め、産業を育成するという趣旨に賛同しており、まさに新しいプラットフォームを創出するための政策として高い評価をしている。しかし、これまでの補助金制度のスキームの中で展開しているため、実施計画書通り忠実に進め、報告書を納めることを目的化してしまう傾向がやはり一部では発生しているようだ。最近のコンプライアンス強化の流れを配慮してか、チャレンジ部分がそぎ落とされるような傾向も見受けられる。是非そうした「悪しき慣習」を打破し、国家プロジェクトの新しい役割を担うことを期待したい。

 そのためにも、垂直統合的な一民間企業のサービスモデルをインキュベーションするような側面があってよいと思うが、税金を投入する以上一番重要なのは、社会資本としての共通利用可能な知識情報流通の基盤を整備することである。実験と割り切って、リスクで縮こまることなく、広く様々な人にその基盤を自由に利用させるオープンアーキテクチャーを志向し、そこから多くのイノベーションの種を生み出す――そうした方向性を望みたい。情報大航海プロジェクトは新社会資本整備のための壮大な実験でもあるのだ。

<筆者紹介>藤元 健太郎(ふじもと けんたろう) D4DR社長
1993年からサイバービジネスの調査研究、コンサルティングに従事、日本初のビジネス実験モール「サイバービジネスパーク」のトータルプロデュースを行う。99年5月、8年間在籍した野村総合研究所を離れSIPSを手がけるフロントライン・ドット・ジェーピーの代表に就任。2002年にD4DRを設立し,広くITによる社会システムや,ライフスタイル,企業戦略の変革のコンサルティングや調査研究,プロデュースを行っている。

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