【ネット時評 : 築地達郎(報道ネットワーク/龍谷大学)】
大学の地域戦略と地域情報化

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 ひょんなことから大学という“ジャングル”に足を踏み入れて、2年半が経とうとしています。
 
 この春には「現代GP」なるプロジェクトに関わることになり、私にとっては大学のあり方、とくに大学にとっての「地元」の意味を、認識し始めるきっかけにもなりました。
 
 果たして日本の大学はどこへ向かうのか、地域戦略と地域情報化という観点から少しだけ考えてみたいと思います。
 

希薄だった地元との関係

 かかわるようになった「現代GP」の正式名称は「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」。GPとは「Good Practice」の頭文字で、文部科学省が高等教育の改革を促すために設けている諸政策のニックネームです。「現代GP」「特色GP」「学生支援GP」「大学院GP」などなど、いささかインフレ気味ではありますが。

 私が所属する龍谷大学社会学部は今年度、「大津エンパワねっと」という愛称の地域連携プランを企画して現代GPに応募し、めでたく採択されました。6つのカテゴリーの筆頭に掲げられている「地域活性化への貢献(地元型)」という枠です。

 龍大の本部は京都市内ですが、社会学部など3学部は約15km離れた隣県・滋賀県大津市の瀬田学舎(キャンパス)にあります。キャンパス開設は1988年ですから、もう20年近くも大津でお世話になっているわけです。

 ところが、2005年春に着任して以来、この瀬田キャンパスが滋賀・大津にあるということを実感する機会はほとんどありませんでした。大都市圏である京阪神からJRご自慢の新快速電車で通ってくる学生が圧倒的に多いですし、教職員も私を含めて京都が本拠という者が多数派です。地元の皆さんと絆(きずな)を結んで何か仕掛けていこうという取り組みは、ごく少数のゼミの営みに限られていました。

 そんなわけで、長年の間、地元の皆さんに対しては「そういえば龍大もあったな」という程度の存在感しか与えていなかったようです。


大学側から熱いメッセージ

 確かに、今まではそれでよかったのでしょう。

 地元では「滋賀府民」(生活や職業の基盤は京都府や大阪府だが住宅事情で滋賀に住んでいる人々)と呼ばれる遠距離通勤組が続々とやってきて人口は増える一方。滋賀には県紙がなく、京都新聞と中日新聞が地元紙として並び立っています。自治体はご多分に漏れず、長い間、遠く東京・霞ヶ関の方を見ていました。

 一方の瀬田の龍大人はというと、教職員は京都の本部経由で常に文科省の意向を、学生は情報産業が発信する就活情報ばかりを気にして日々を過ごしてきたようです。

 壬申の乱以来、数々の天下分け目の戦いを見てきた「瀬田の唐橋」のたもと、深い歴史を持つ大津の地にいながら、ここを拠点とする人々はそれぞれ違う方角を見て、それはそれでうまく行っていたのです。

 しかしこのたび、ついに我々大学が地元への熱いメッセージを発することになりました。「地元で学ばせて下さい。地元の問題解決にもっと関わらせて下さい」と。

 その姿勢を形にしたのが「大津エンパワねっと」というわけです。「地域と学生が出会い相互にエンパワーメント(力を増す)するネットワーク」を大学が責任を持って形成しようという取り組みです。

 今年度後半から、社会学部の全学生を対象に、地元のことを多面的に理解してもらう新しいカリキュラムをスタートさせます。例えば地元のキーパーソンに「市民ティーチャー」になってもらって、地元の問題や解決の歴史を語ってもらいます。来年度の新入生からは、入学直後に「大津を知る」という講演を全員に聴かせることになっています。

 大学版「総合的な学習の時間」と言えなくもないですが、万事内向き志向だった大学にとっては、コペルニクス的転回とでも呼ぶべき変化が進行中であるように感じます。


地元に向けて開いた大学へ

 インパクトを与えているのは、例の「大学全入時代」の到来です。

 18歳人口が激減する時代に、大学の数はむしろ増えました。1990年に国公私立合わせて507校だったのが、2005年には726校へと43%も増えているのです。入学定員は42万人弱から55万人弱へと、約30%増です。一方、18歳人口は90年の201万人から05年には137万人と、32%も減っているのです。

 このギャップをどうするか。

 いくつかの大学は、留学生を大量に受け入れることによって需給のギャップを埋めようとしています。それも一つの道でしょう。

 しかしこれからの日本の人口動態を率直に受け止めるなら、現役世代やシニア世代に大学を利用してもらうようにするのが、一番正しい道だと思われます。大学として、社会人の学び直しや“五十の手習い”的な勉学欲求にきちんと応えていくということです。

 社会人は生活圏の外にある大学にはなかなか行けないでしょう。地元大学が魅力的で門戸を開いてくれているということが、非常に重要な要件になるはずです。


人間関係が地域情報化促す

 各大学の地元重視の動きというのは結局のところ、キャンパスの中にこもっていた学生や教職員と、地元に生きる人々との人間関係を創出していくということに他なりません。私自身、この夏は地元のキーパーソンの皆さんを探り当てて会いに行くという仕事に少なからぬ時間を費やしました。

 人に会えば会っただけ、いろんな情報が見えてきます。新聞記者出身の私にとっては実に楽しい仕事です。地域を情報化することの第一歩は案外こういう活動から始まるのかな、と思ったりもします。

 地元重視は、地域立地型のほとんどの大学が真剣に考え始めています。大学には好奇心旺盛な学生が溢れています。あなたの地域でも、大学をアパート入居者やアルバイト労働力の供給源とだけ考えるだけでなく、地域情報化の拠点として捉え直してみてはいかがでしょうか。

<筆者紹介>築地 達郎(つきじ たつお) 報道ネットワーク社長、龍谷大学社会学部准教授
 1960年生まれ。日本経済新聞記者を経て95年独立。97年に報道ネットワークと京都経済新聞社を設立し、報道業界改革の提言と実践に取り組む。2005年から龍谷大学准教授。  著書は『ジャーナリズムの条件(第3巻「メディアの権力性」)』(共著、岩波書店)、『ロボットだって恋をする』(中公新書ラクレ)、『ビル・ゲイツが大統領になる日』(ウェッジ)、『CALSからECへ』(日本経済新聞社)など。

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