【ネット時評 : 谷脇康彦(総務省)】
ブロードバンド事業モデル、カギは「プラットフォーム」

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 世界最速・最安値のブロードバンドサービスが提供されている日本。しかし、そのネットワーク上に展開するコンテンツ・アプリケーション市場は依然として成長途上にある。そこで最近注目を集めているのがプラットフォーム機能だ。


関心の高まるプラットフォーム機能

 06年9月、総務省はブロードバンド競争政策のロードマップとして「新競争促進プログラム2010」を発表し、ネットワークの中立性モバイルビジネス活性化といったテーマごとに様々な研究会を開催し、これに基づいて、多方面にわたるブロードバンド市場での競争環境整備を進めてきた。

 その中でクローズアップされてきたのが、プラットフォーム機能と呼ばれる事業領域だ。IP化やブロードバンド化が進む中、事業モデルは端末、通信、プラットフォーム、コンテンツ・アプリケーションといった幾つかのレイヤー(事業領域)に機能分化を遂げ、それぞれのレイヤー間の関係にも変化が生まれ始めている。
 
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 例えば、端末と通信の関係。従来の電話網では通信ネットワークの中の交換機にインテリジェンスが集中し、エンド―エンドのサービスを制御してきた。端末はまさに「端」の「末」のユーザーインターフェースだったのだ。しかし、コンピューティング能力の飛躍的な向上やブロードバンド環境の急速な整備などにより、端末に搭載するアプリケーションでサービス全体を制御したり、あるいはSaaS(Software as a Service)のようなアプリケーションの利用形態にも注目が集まるようになってきた。まさにインテリジェンスの分散化が起き始めている。

 こうした中、コンテンツやアプリケーションをネットワークを介して利用する場合に必要となる、認証や課金といった機能の重要性が増してきている。コンテンツ・アプリケーションレイヤーと通信レイヤーの間に位置し、認証・課金、QoS(Quality of Service)制御、著作権管理などを担う機能――これがプラットフォーム機能だ。

 通信レイヤーを情報ハイウェー、その上を流れるコンテンツ・アプリケーションが車だとすると、プラットフォーム機能は交通管制センターや料金所の役割を担う。別の言葉で言えば、コンテンツ・アプリケーションレイヤーと通信レイヤーのそれぞれの市場の発展が相互に関連して好循環を生み出していくためのカギとなる事業領域と言える。


プラットフォーム機能で実現する多様なサービス

 このプラットフォーム機能は、モバイルビジネスの世界ではおなじみだ。公式サイトに登録されたコンテンツは月額数百円の料金で利用することができ、代金は通信料金と一緒に回収される。通信サービスと認証・課金というプラットフォーム機能が一体的に提供される事業モデルだといえる。

 通信キャリアの立場に立てば、通信レイヤーから上位レイヤーにかけて垂直統合型のビジネスモデルを構築していく上で、このプラットフォーム機能は欠くことのできない必須の機能である。しかし、このプラットフォーム機能は携帯各社ごとに独自仕様で構築されており、相互の連携性はない。昨年10月から番号ポータビリティ制度が導入されたが、携帯会社を変更しても引き続き同じ電話番号が使える一方、契約していたコンテンツは一旦解除し、移行先で再契約することが必要だ。

 そこで、こうしたプラットフォーム機能の連携が図られると、新しいサービスや事業の可能性が生まれるのではないかという議論が出てきた。

 例えば、利用者の属性を記述したID情報を携帯会社間、あるいは携帯会社とコンテンツプロバイダーなどの間でやり取りする「IDポータビリティー」が実現すれば、コンテンツ利用契約の解約・再契約といった煩わしさから消費者は解放されるだろう。

 話はモバイルの世界にとどまらない。固定通信の分野でも次世代ネットワーク(NGN)の構築が進められており、NGNにおけるプラットフォームであるSDP(Service Delivery Platform)の実装方法について、具体的な検討が始まっている。固定・移動の垣根を越えたシームレスなネットワーク環境の実現に向けた動きが加速化する中、IDポータビリティーが実現すれば、PCであれ携帯であれ、同一のIDで複数のコンテンツ・アプリケーションを一体的に利用することが可能となり、利用の都度、IDやパスワードを用いて認証や課金を求められる手間が省かれるだろう。

 同様に、携帯端末に標準装備されるようになってきたGPS機能により、コンテンツプロバイダーが位置情報を基に様々な新サービスを展開することも可能になる。また、プッシュ型配信機能を利用すれば、PCで利用しているメールアドレスにメールが着信した際、携帯端末が音や振動で知らせてくれるといったサービスも可能になるかも知れない。


プラットフォーム機能は誰が担うのか?

 こうしたプラットフォーム機能は、現在、モバイルビジネスの世界では携帯各社が担っている。しかし、こうした機能が広く利用可能となれば、先に述べたような新しいサービスを、携帯会社以外のプレーヤーも知恵を絞って自由に提供することが可能になる。これはコンテンツ・アプリケーション市場の成長力を高めるだろう。

 プラットフォーム機能を、通信キャリアの枠を越えて(キャリア・フリー)、あるいは利用端末の枠を越えて(デバイス・フリー)自由に利用できると、例えば通信以外の領域からプラットフォーム事業に参入し、通信をいわば足回りとして活用した新しい事業モデルを生み出すことも可能になるだろう。認証・課金ビジネスを行なうプレーヤーがモバイルビジネスの世界でMVNE(Mobile Virtual Network Enabler、仮想移動体通信支援事業者)となって、MVNO(仮想移動体通信事業者)の顧客管理や認証・課金を一手に引き受けるといった動きも出てくるかも知れない。その意味で、MVNOの新規参入を促すための環境整備にもなる。


プラットフォーム市場分析の枠組み作り必要

 しかしながら、一言でプラットフォームと言っても、実はその定義・範囲は関係者の間で共通の認識が出来ているとは言い難い。

 急速に技術革新が進む中、単にネットワーク側にプラットフォーム機能を持たせるだけでなく、インテリジェンスの分散化をふまえ、端末に搭載したアプリケーションとコンテンツプロバイダーが連携して、プラットフォームと同等の機能を実現することも可能となってきている。一言でプラットフォームといっても、実は多様な形態をとることが考えられる。

 そこで議論の土台として、プラットフォーム機能としてどの範囲を中心に議論すべきなのか、その仕分け作業がまず必要になるだろう。その際、プラットフォーム機能の利用シーンとして、B2Bの市場とB2Cの市場を明確に分けておかないと、議論が複雑化して混乱するという点にも留意しなくてはならない。

 プラットフォーム機能として求められる範囲の全体図を描き、その上で、多様なプレーヤーがプラットフォーム機能を軸として連携していくために、市場環境はどうあるべきかという分析の枠組み作りを進めていくことが求められるのだ。

 その際、通信キャリアごとに構築されている現在のプラットフォームについては、ある程度の共通化を図ることによってスケールメリットを出し、コストの低廉化や利用者利益の向上を図るという視点が必要であろう。少なくとも現時点においては、個別のプラットフォームが構築されているが故に、コンテンツプロバイダーは通信キャリアごとに個別対応を余儀なくされているし、利用者がロックインされている面を指摘する声もある。


プラットフォームを巡る共通認識の確立に向けて

 本年10月、総務省は冒頭で触れた「新競争促進プログラム2010」を改定した。その中では「プラットフォーム機能の連携強化」のあり方について今後検討を進めていく方針を明らかにした。具体的には、プラットフォーム関連市場のスコープをまずは明確にし、市場規模や市場特性などの事実関係を中心に市場実態について整理を行い、年内に中間取りまとめを公表することとしている。

 また、この中間取りまとめを基に、来年春までにプラットフォーム機能の今後の在り方について新しい検討の場を設け、分析の枠組み、課題の抽出・整理、市場環境整備の在り方などについて具体的に検討を行い、08年中に検討結果を取りまとめることになっている。

 こうした検討に先立ち、プラットフォーム機能の在り方について、どのような観点から議論を進めていくことが建設的であり、また現実的かという観点から、現在、提案募集を行なっている。通信業界の関係者はもとより、金融、物流をはじめ他の分野からの提案も期待したい。

プラットフォーム機能に関する提案募集は11月22日まで総務省で受け付けています。なお、本稿中、意見にわたる部分は筆者の個人的見解です。)


<筆者紹介>谷脇 康彦(たにわき やすひこ)
総務省総合通信基盤局事業政策課長
1984年郵政省(現総務省)に入る。OECD事務局ICCP(情報・コンピュータ・通信政策)課勤務等の後、郵政省電気通信事業部事業政策課補佐、郵政大臣秘書官、電気通信事業部調査官、在米日本大使館参事官、総合通信基盤局料金サービス課長等を歴任。2007年7月より現職。主として通信放送分野の競争政策に携わってきている。著書に「インターネットは誰のものか――崩れ始めたネット世界の秩序」(日経BP社、07年7月刊)、「融合するネットワーク――インターネット大国アメリカは蘇るか」(かんき出版、05年9月刊)。

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