【ネット時評 : 荒野高志(インテック・ネットコア)】
ネットワークはどのように世の中を変えていくのか?

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 現在、数百年に一度の大変革期の最終フェーズにいる。これはピーター・ドラッカー氏の言葉である。彼によれば変革期は技術によって引き起こされ、変革期の前後では、政治、経済、国際、文化、組織や家庭のあり方、労働観、個人の価値観にいたるまで社会そのものが変わる。2020年に終わるとされるその変革期の変化のスピードはますます加速するという。私は昨年、このコラムに通信業界の課題はANY産業との融合であると書いた。今回は、この時代の変革という視点から、ネットが世の中をどう変えていくのかを予想してみたい。

 まず、少しコンピューターネットワークの歴史を振り返ってみる。コンピューターは1940年代に開発された。当時は科学技術計算用がもっぱらであり、2000年には世界の需要が数台、と予想されていた時代である。コンピューターはその設計者たちが思いもしなかった需要、すなわち会社の事務利用に転用され、ブレークする。これはまず、コンピューターを利用するホワイトカラーの生産性を劇的に向上させた。

 インターネットというプラットフォームが確立して数年が経過した2000年前後から、単なる生産性向上ということではなく、変化の質が変わってきたように思う。Googleは世界の知識を再構築し、Wikipediaは世界中の顔も見ぬ人たちの協調作業を達成した。eコマースは商流を変えつつある。

 ただし、これは基本的にPC上の出来事である。これからのイノベーションはPCではなく、non-PCにおこる。ケータイがその先駆けであり、今後、情報家電、車、建物、小さいところでは照明、机、ドア、信号機、食料品などがネットにつながってくる。そもそも産業はPCではなく、モノを売ったり、モノを利用したりとモノを通じてサービス提供するものが多い。そのモノがつながってくるというのがビジネス的なイノベーションにつながる。

 モノがつながるということをもう少し具体例で考えてみよう。冷蔵庫にウェブの画面が表示できて、レシピがダウンロードできるというものがそれほど魅力的だとは思えない。それより面白いのは、今まで入手できなかった「情報」の流通である。モノの利用状況とか状態などが情報として取得できるとどうなるか。まずは製品企画プロセスが変わる。例えば、冷蔵庫の利用状況が分かれば、モーターがオーバースペックであることもわかるかもしれない。電子レンジの特定の機能がよく使われているのなら、その専用のボタンを設ければぐっと使い勝手が変わる可能性がある。

 リモートメンテナンスサービスは今後キーサービスとなるだろう。これは製造業という業種がサービス業を兼ねるということなのだ。これにより、顧客とのコンタクトを継続することができ、販売・営業・広告というビジネスプロセスが大幅に変わっていく。

 すでにこれを実現している例もある。大型建機メーカーであるコマツのリモートメンテナンスサービスは、ユーザーに盗難対策というメリットをもたらしつつ、一方で利用情報収集を行い会社の利益率を向上させているという。ロールスロイス社による航空機エンジンのリモートメンテナンスは、信頼性の向上を目的としているのだという。こういった仕組みは最初コスト対効果の見合いで導入されていく。効果が著しく高い分野では、導入はさらに加速していくだろう。その上で、ネットワークとそうしたプラットフォームのコストがもっともっと下がっていったらどうなるか。大きな産業的なインパクトになるだろう。

 以上の例は、メーカーと製造物との関係で述べたが、モノからの情報を利用したい人はメーカーに限らない。例えば小売業にとって、個々の消費者の購買タイミングを知ることは、ビジネスの根幹に影響する重要な情報収集となる。冷蔵庫のビールの残存数は消費者だけでなく、近所の酒屋やコンビニこそがもっとも知りたい情報であろう。あるいは、医療機関が家庭のサニタリー機器からの情報を、ホームセキュリティーの会社が家庭のドアや照明などの情報を、などと考えてくると、むしろメーカー以外と製造物との関係のほうが面白く、バラエティーに富んだイノベーションを生むかもしれない。

 こういうイノベーションが広がってくると、異なる産業間の連携も深まるはずだ。単なるサービス連携を超えて、さらに産業自体が形を変え、もっともサービスに適した形に融合し、まったく新しい業種、業態が誕生するかもしれない。ここにいたって、時代の変革という一端がみえてくるではないか。これが次世代ネットワークがもたらすインパクトだと予言したい。

<筆者紹介>荒野 高志(あらの たかし)
インテック・ネットコア社長
1986年東京大学理学部情報科学修士過程終了後、日本電信電話入社。OCNの立ち上げ時よりネットワーク設計、構築、運用を担当。その後、日本および世界のIPアドレス管理ポリシー策定のため、JPNIC IP-WG主査や、99年より国際的なインターネットガバナンス組織であるICANNのアドレス評議委員を務める。また、日本インタネット協会Y2KCC/JP代表としてインターネットY2K問題対応を現場(大手町)で陣頭指揮し、JANOG(日本ネットワークオペレーターズグループ:会員2500人、業界横通しの技術交流・議論の場)を組織した。最近では社内外で、次世代ネットワークプロトコルであるIPv6の実現・普及啓蒙活動に従事しており、現在、IPv6 Forumのボードメンバやインタネット協会IPv6デプロイメント委員会議長などを務める。

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