【ネット時評 : 加藤幹之(富士通研究所)】
人類共有のインターネットを議論・国連IGFリオデジャネイロ会議報告(後)

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 前回に引き続き、11月12日から4日間、ブラジルのリオデジャネイロで開かれた、国連のインターネットガバナンスフォーラム(IGF)についてリポートする。

並行して行われたサイドイベント

 昨年のアテネ会議と同様、本会議と並行して数多くのサイドイベントが開催された。今回の会場には、1000人以上が入る本会議場のほか、100人から200人が入る会議場が全部で6カ所用意された。そこで36のワークショップ(各種の情報発信・情報提供)、23のベストプラクティスフォーラム(成功事例の検証)、11のダイナミック・コアリション(具体的な課題について、立場を超えて協調し、行動しようとするグループ)、8つのオープンフォーラム(関連する団体が企画して行うセミナー)、その他イベントが6、とその合計は84にも上った。
 
 テーマ別に見ると、そのうち11が開放性と表現の自由、9がアクセス、10がCIR、6が多様性、12がキャパシティービルディング(能力開発)、19がセキュリティー、17がその他の問題であった。
 
 筆者も、国際的民間組織である世界情報基盤委員会フォーラム(GIIC)と世界情報サービス産業機構(WITSA)が日本経団連ほかと協力して開催したワークショップで、モデレーターを務めた。そこでは、森清総務審議官が日本のブロードバンドの成功例を紹介し、途上国においてどうすればインターネットへのアクセスが向上するかを議論した。エジプトの国家通信規制庁のバイスプレジデントであるエルモンセフ博士は、2002年から始まったフリーインターネット活動や今後の計画を説明、アフリカではまれに見るインターネット普及の事例を示した。南アフリカその他の途上国でインフラ整備の経験のある、他のパネリストたちも共通して指摘したのは、途上国での成功の鍵は、インターネットエクスチェンジポイント(IXP、インターネットプロバイダー同士の相互接続ポイント)を整備することと、複数の国際接続を確保し競争状況に置くということだった。

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IGFで講演する総務省の森清審議官
 
 前述の「ダイナミック・コアリション」は、昨年のアテネ会合で誕生した、このIGF会議を象徴するグループだ。例えばプライバシーに関するダイナミック・コアリション、「ストップ・スパム・アライアンス」などがこれにあたる。それぞれのグループはこの1年間実に多様な活動を重ね、今回のリオ会合ではグループごとにセミナーを行うまでに発展した。
 
 IGF自体はあくまで意見交換や議論の場であり、具体的決議をして行動することをミッションとはしていない。しかし、IGFは議論の場を提供することによって、人々に考える機会、知り合う機会を与え、確実に新しい流れを作っている。今後、このようなグループが案件ごとに新しい制度を作って行けるかどうか、注目していきたい。


IGFの反省と新しい課題

 会議最終日は、会議の反省や今後の運営について意見を交わすとともに、「新しい課題」に関するセッションが行われた。

 会議を振り返って、議論の中身が濃かったこと、ワークショップの数も多く活発であったこと、関連するすべての立場、いわゆるマルチステークホルダーが参加し、それぞれの立場の意見を聞けたこと、参加者の数や幅が広かったことなど、大きな成功を収めたとの声が多く寄せられた。CIRが議論されたことも評価された。アクセスが依然途上国を中心に重要なテーマであることを確認できたことも大きい。

 一方、ワークショップなどサイドイベントが充実してはいたが、同時並行的に行われた結果、そこでの議論を全体セッションにうまく反映できなかったことも指摘された。また、ユーザーの立場を反映する場をもっと考えるべきだと言う意見もあった。

 日本で行われる国際会議と比較すれば、かなり女性の参加が多かったようにも見受けられたが、まだパネリストに女性の数が少なすぎたという声もあった。

 そして最後のセッションとなる、4日目午後の「新しい課題」に関する議論は、活発で刺激に富んだものとなった。インターネットの創始者と言ってもいいビント・サーフ氏とボブ・カーン氏に加え、IETF(Internet Engineering Task Force)議長のフレッド・ベーカー氏や最近まで連邦通信委員会(FCC)の電気通信政策局長だったロバート・ペッパー氏など、インターネット世界の重鎮がインターネットの将来を議論したのだ。ちなみに、ベーカー、ペッパー両氏が現在シスコシステムズに在籍しており、サーフ氏はグーグルのバイスプレジデントだ。現在のインターネットビジネスの潮流を反映しているようにも感じた。

 英BBC放送のメインキャスターでもあるニック・ガウイング氏の司会も、鋭く問題に切り込むスタイルで、小気味良いものだった。

 議論は「新しい課題」は、「誰にとって新しいか」による、というところから始まった。基本的人権やアクセスは、国によって新しい問題とは言えないことも多いからだ。

 さらに議論が進んでいくと、インターネットには国境が無いが、国ごとに規制や法が違っており、国際的な問題解決の枠組みが十分に形成されていないことが大きな課題、ということに合意がなされた。
 
 インターネットの需要と供給という側面を議論する中では、ユーザー達、特に若い人々がもっと議論に参加し、その結果需要を刺激する仕組みを作るべきだという発言もあった。そうしないと、政府がVoIP(IP技術を使った音声通信網)の使用を制限したり、ネット上の動画像への規制が行き過ぎるといった、悪しき可能性を生んでしまうからだ。
 
 また供給に関しては、電波の利用について、デジタル放送への移行により周波数帯域を開放することが必要だとされた。それらの帯域を新しいブロードバンドネットワークに使用し、投資やイノベーションを促進することが必要だという意見が多かった。
 
 Web2.0に関する議論でも、プライバシー管理など、国ごとに規制、制度が異なる点を問題視する声が上がった。
 
 前回も述べた通り、会議全体を通じてIPv6への移行を強く求める意見が多かったが、この最後のセッションでもそれが繰り返された。また、現在のインターネット技術の中で、例えばURLのようなものは、キーワード等、新しい技術によって置き換わっていくのではないか、とも指摘された。
 
 これらの「新しい課題」が来年以降のIGF会議の議題に取り込まれて行くことになろう。来年は、12月8日から4日間、ニューデリーで開催されることが決定し、第二回IGF会議は、無事閉会した。
 
 ICANN批判、米国批判からスタートした国連のインターネットガバナンス議論だが、今回のIGFを見る限り、問題意識はインターネット社会全体をより広く見渡したものへと明らかに変わりつつある。
 
 米国批判の傾向のあるブラジルでの開催ということで、また政治的な議論が再燃するかという懸念も一部にはあった。事実、CIRの議論では、ICANNに代わる制度への要望が聞かれた。しかし、より大きな声は「本質的な問題は何か、どうやってインターネットをより良いものにしていくか」に向けられた。
 
 筆者は、ワシントンDC経由でリオから帰国したが、リオからワシントンDCに向かう機内では、米国政府一行の主要なメンバー達と道行きをともにした。彼らは、多少外交儀礼はあるにせよ、口々にリオでの成果を唱え、IGFへの参加の重要性を確認していた。
 
 IGF会議が、インターネットと言う人類共通の課題について、国を超えて共通の土俵で話し合える場であり続けることを、大いに期待したい。

<筆者紹介>加藤 幹之(かとう・まさのぶ)富士通 経営執行役 法務・知的財産権本部長兼安全保障輸出管理本部長
1977年3月東京大学法学部卒業。同年4月富士通に入社し、海外関係の法務案件に従事。84年6月ミシガン大学ロースクール留学(法学修士)。87年7月サンフランシスコ駐在(法律事務所にて紛争処理担当)。89年8月同社ワシントンD.C.事務所開設に伴い、ワシントンD.C.に駐在。02年6月、15年ぶりに帰国し、04年6月より現職。 富士通の法務、知的財産権、輸出管理等の問題を広く担当。ワシントン時代から継続して、インターネットや電子商取引、知的財産権、独禁法、科学技術政策等の制度議論に参加し、国際的に活動中。Internet Law & Policy Forum (ILPF)名誉会長や、Global Information Infrastructure Commission (GIIC)電子商取引委員長、Internet Corporation for Assigned Names and Numbers (ICANN)のアジア太平洋豪州地域代表理事等を歴任した。米国(ニューヨーク州、ワシントンD.C.)で弁護士資格を持ち、専門分野での論文や講演も多数。

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