【ネット時評 : 片瀬和子(未来工学研究所)】
緊急地震速報 発生後の情報提供と一体で活用を

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 2007年10月に緊急地震速報の本格運用が始まってから3カ月が経過し、テレビでそのデモンストレーションを目にする機会が増えてきた。

 
 1月13日の未明には、NHKが誤って緊急地震速報の音声を流してしまうなど、その運用はまだ手探りの状況とも言えるが、活用に向けた取り組みは各方面で始まっている。
 
 報道によれば、東京大学地震研究所は東京や神奈川などの小中学校400カ所に地震計を設置し、直下型地震発生のメカニズムを調査するとともに、学校に対しインターネットで緊急地震速報を伝えるプロジェクトを進めるという。また集合住宅への緊急地震速報の提供サービスも一部で開始されている。

 私たちが事務局を担当している住宅情報化推進協議会が個人のインターネットユーザーを対象として実施した住宅情報化に関するアンケート調査でも、防災に対する関心が示され、なかでも、緊急地震速報による被災の軽減への期待が高いという結果が出ている。

 お正月休みに、福袋とバーゲンセールでにぎわう都内のある百貨店に出かけたところ「当店では、緊急地震速報をお知らせできるようになりました」とPRする館内放送が頻繁に流れていた。私は、2005年7月23日の夕刻、東京都足立区で震度5強を記録した地震が発生した際、この百貨店で買い物中だったことを思い出した。地震発生後、交通機関がストップして一時的に帰宅難民に陥り、ここで時間つぶしを余儀なくされたのだった。その時の状況は、次のようなものだった。

 揺れが収まっても、震度情報や交通機関の運転状況など、地震に関する店内放送は特になく、私のいた売場は、地震発生が嘘のように平穏な状態に戻った(食器売場などは混乱したかもしれないし、エスカレーターやエレベーターも地震発生時には一時ストップした可能性はあるが、遭遇していないのでわからない)。

 この百貨店のトイレは、階段の踊り場にも設置されている。トイレを借りようと踊り場に行ったところ、上部に設置されているモニターに、テレビニュースの画面が映し出されており、震度とともに、都心の電車・地下鉄が運休していることがわかった。普段は時々催事案内等を流す程度だった踊り場のモニターがテレビ受像機の機能も備えていたとは、予想外であった。しかしながら、モニターで地震関連のニュース番組を放映中であることを知ったのは、たまたま通りかかったごく一部の買い物客だけだった。また、この百貨店は地下鉄の駅と直結しているのであるが、館内にいたほとんどの人は店の真下を通る地下鉄の運行状況を知ることもなかったのである。私は店内の喫茶室で休憩するなどして、運転再開を待った。

 停電や断水などライフラインの停止や建物の損壊には至らなかったものの、交通機関がストップして帰宅難民が発生したことを考えると、来店客に対する百貨店側の対応には不満が残る。百貨店に限らず、大勢の人が集まる施設では「最新の地震情報を提供し、交通機関が復旧するまで落ち着いて過ごしていただこう」という気遣いがあってもいいのではないか。館内放送設備が正常に作動し、テレビ・ラジオのニュースの受信、インターネットへのアクセスも可能であれば、震度や交通機関の状況といった地震関連情報を逐次アナウンスする、といったようなことである。

 あの地震発生当時、そうした対応を取っていなかった百貨店が緊急地震速報の提供体制の整備をPRするからには、地震発生後の情報提供体制まで見直したのであろうか。もしそうなら、これは大いに期待が持てる。緊急地震速報が有効活用されるためには、早期の避難誘導など被災軽減策のみならず、地震発生後の継続的な情報提供体制の確立が必須だ。そして、地震の直接的被害の程度を問わず、店内のすべての客に対して、テレビ・ラジオ放送、インターネット、館内放送、館内モニターなどのコミュニケーション手段を、状況に応じて可能な限り駆使して地震関連情報を提供し続けることは、不特定多数の客の身の安全を守ると同時に、重要な顧客サービスにもなると思われるからである。

 冒頭で紹介した、東大地震研究所の「地震計を設置した学校に対する、インターネットでの緊急地震速報・震度の伝達計画」も同様だ。校内放送等学校のネットワーク基盤を活用して、緊急地震速報を速やかに校内全体に伝達することはもちろん、発生後も可能な限り地震情報の提供や避難誘導ができるような仕組みづくりを望みたい。

 「ネットワークは継続的な運用が重要」という意識が浸透しつつある。緊急地震速報という通信ネットワークを介した瞬時の情報提供に留まらず、継続的な関連情報の提供まで含めた体制作りと実践こそが、ネットワークの機能を生かし、被災の軽減に結びつくことになるだろう。

<筆者紹介>片瀬 和子(かたせ かずこ)
未来工学研究所 情報通信研究グループ リーダー
民間のシンクタンク勤務等を経て1991年未来工学研究所入所。「豊かな社会を実現するために、どのように新しい技術を活かすべきか」という視点から、情報通信関連の調査研究に従事。最近の主な調査研究分野は、サイバー・コミュニティ活動及び関連ビジネス、ブロードバンド関連サービス、欧州・韓国におけるブロードバンド・ICTの利活用。教育機関・行政機関の情報ネットワーク化。デジタルコンテンツ関連ビジネス等。

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