【ネット時評 : 碓井聡子(日本ユニシス)】
「自分をスキャン」生身の情報、どう使う?

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 自身の体型、姿かたちを頭の中で正確にイメージできる方は、どのくらいいらっしゃるだろうか。私は技術への興味半分怖いもの見たさ半分で、今回自分の3Dスキャンを試し分身と対面してみた。今回は、この自分の「分身」をめぐる技術とその使い方について、少し考えてみたい。
 

自分の3Dモデルと向き合う瞬間

 私が試したのは、人体に無害なレベルのレーザーで測定するというもの。試着室サイズの場所に入り、10秒ほどじっとしていれば、スキャンは終わる。そのほかに電磁波を使ってスキャンする方法もあるが、いずれにせよ測定にそう長くはかからない。

 その後は、いよいよ自分の分身とご対面だ。パソコン上に3Dデータとして出てくる画像は、かなり精度が高い。顔はもちろん、画像を回して全身を眺めると、カラダの細かなしわから、気付かなかったふっくらしている部分まで、しっかりと表示されている。まぎれもなく自分の3Dモデルがそこにある。


自分の3Dモデルでバーチャル・コーディネート

 誰もが考える使い方が、バーチャル・フィッティングだろう。実際に着なくても画面の中の自分の3Dモデルを使って着せ替えることで、シルエットが分かりコーディネートもできる(注)。このスーツを着た自分がどう見えるのか、似合いそうだが着ると肩が落ちたり背中にしわが寄ったりしないか、ということを実際に試着しなくても確認することができるのである。

 韓国の新世界百貨店で、昨年この3Dスキャンを使ってバーチャル・フィッティングの実証実験が行われた。これは建国大学と韓国政府の肝いりで、政府からは6億5000万円の開発費がつぎ込まれているという。もちろんケータイとの連動も前提。「試着できない」というWebショッピングの欠点を今更ながら克服しようという狙いである。

 もちろん、百貨店やブランドショップなどリアルの店舗での展開も考えられる。お得意様にはソファに座っていただいたままで、その3Dモデルにお勧めの商品を着せるプライベートなバーチャル・コーディネートが可能になる。おそらくは韓国の取り組みの狙いも、このバーチャル・リアル含めた市場の掘り起こしと標準化、世界展開にあるのだろう。

 この3Dスキャンに関する取り組みは以前日本でもあったものの、様々な事情から行き詰まり、本格展開には至っていない。米国でも一部企業に限られている。今後の動きは韓国の動向次第、というところか。


ターゲットの体型、正しくつかめていますか

 そのほか、オーダーメイドでの展開も以前から検討されてきた事業のひとつである。

 たとえば、大丸東京店のオーダーメードショップ「シセ」では、その場で3Dスキャンを行い上着とパンツのパターンオーダーをすることができる。また、足型だけに注目して自分にフィットする靴をオーダーに活用している企業もある。

 ただ、3Dスキャンはあまりに精度が高いため、そのままのデータだけをもとに作ると身動きのできないものになってしまう恐れがある。そこで、別アプローチを組み合わせる必要もある。

 例えば変化するターゲットの体型を正確に把握することである。ある年齢における標準体型は時代とともに変化しているし、同じ11号サイズでも20代と50代とでは体型のシルエットは確実に異なる。ターゲット層に近い年齢・サイズの3次元コピーのデータを標準化すれば、ターゲット層の標準マネキンをつくることができ、ターゲット層に合わせた美しいシルエットの商品開発に役立てることができる。「ちょい悪オヤジ」な服も、さらに見栄えよいデザインや素材に変わるかもしれない。

 また、アウター、インナーなどの商材だけでなく、車のシートやソファなど、カラダとのフィット感が大事となるものへの応用も考えられるだろう。


生身の分身の新たな使い道

 さらに、自分のバーチャルな3Dモデルを簡単に作れる、という基本機能の今様の使い道を考えてみよう。セカンドライフが「他人になれる自分の分身」であれば、これは「生身の自分の分身」ということになる。この先バーチャルな世界でのバーチャルな自分を楽しむのではなく、いわゆる仮想現実の世界で本当の「自分」が楽しむというコンセプトの中では、「生身の分身」であるが故の現実感が必要とされるのではないかと思っている。

 心理面でのインパクトにもヒントがある。10秒スキャンの後に自分の分身を客観的に眺めるときの気分は複雑である。全体の形、背中のたるみ、細かなしわ、猫背など、自分がうっすら気づいていたこともそうでないことも、赤裸々に映し出され、自分のボディーの欠点と真正面から向き合うことになるからだ。鏡を見て、あるいはホームビデオを見て、よく知っていたはずの自分とは違う自分がそこに居る。そして、なんとなく気づいていたことを3次元の現実として、視覚とデータで突きつけられたときの「ああ、やっぱり……」というやるせなさ。自分は本当に自分のカラダを正確に客観的に見れてはいなかったのだ、と思い知る。

 この強烈な自己認識、使い道はいろいろありそうだ。現在、この心理面でのインパクトを健康維持への行動変容につなげる事業に取り組んでいる最中である。そのご報告は別の機会にさせていただくとして、今後の様々なバーチャル・リアルの融合の動きの中で、自分という生身の情報がどう使われていけば社会・個人の両方にとって幸せなのか、この先も考えていきたいと思う。


(注)すでにWebショッピングでは、標準モデルに着せる、あるいはいくつかのサイズを簡単にカスタマイズできる、という形での簡易型バーチャル・フィッティングは出現している。衣料通販ランズエンドの「バーチャル・モデル」など。


<筆者紹介>碓井 聡子(うすい さとこ)
日本ユニシス BIO(ビジネス・イノベーション・オフィス) 戦略推進ユニット シニアマネージャ
1997年から海外ネットビジネスに関する調査・発信を手がける。Webを含むITを活用したビジネスおよびマーケティングの企画立案、戦略設計に従事した経験を生かし、事業企画・立ち上げに従事。Web、IT自体の「性質」を知り尽くし、既存ビジネスに、新規ビジネスに、そして企業自身の競争力強化のためにどこまで使いこなせるかが、生き残りの鍵となると考えている。近年の主な関心事は以下の通り。
■現業(リアル)と2次元・3次元メディアとのシームレスな活用モデル
■少子高齢時代を日本の強みに変える事業
■ヘルスケアでの業界横断、個人資産としてのヘルスケア
■あらゆるモノに情報がつく時代のビジネスモデルと情報のあり方

主な著書:「インターネットビジネス白書2002」、「既存企業VSドットコム企業」(監修)、 「図解B2Beコマース」(共著)

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コメント一覧

非常におもしろい。
3Dスキャンが過去に日本において行き詰った理由をおしえてほしい。
あと、いまだに、アパレル業界がその導入に二の足を踏んでいるのはどのようなリスクからなのか?

投稿者 : dr 2008-8-09 22:47

3Dスキャンがファッション・アパレルの世界で普及しきれない理由としては、その業界内に閉じたモデルでは収支が合わせにくいということが一番の理由ではないかと思っています。
その他精度が高すぎる、測定場所が必要、人によるテープメジャーの存在感と手軽さを越えられないなど、理由はいろいろあると思いますが、おそらく何かの代替として扱おうとすると難しいのではないかと。

投稿者 : Usui Satoko 2008-9-10 10:23

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