【ネット時評 : 坪田知己(日本経済新聞社)】
全世界ラッピング革命――電子ペーパーが創る驚異の未来

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 2006年の春から「電子ペーパーコンソーシアム」(事務局:社団法人ビジネス機械・情報システム産業協会)の委員長を仰せつかっている。工学系でない自分の武器は破天荒な想像力。ということで、とてつもない未来が思い浮かんできた。たいていの人は突拍子もない空想と切り捨てるかもしれないが、実現する可能性は高いと信じる。


想像力が未来を創る

 未来を創るのは想像力だ。

 人間が空を飛べるとか、300キロものスピードで陸上を移動できるとか。地球の裏側の景色を眺められるとか……それが実現するまでは、想像以外の何ものでもなかった。

 「電子ペーパー」と言えば、読者の皆さんは何を思い浮かべるだろうか?

 紙のように薄く、通電すれば情報を書き換えられるというのが、一般的な「電子ペーパー」の理解だと思う。具体的には、1枚のパネルをどんどん書き換えられる「電子ブック」とか、陳列棚の商品の値段を随時書き換えられる「電子値札」が考えられている。その一部はすでに実現しているものもある。

 ところが、想像をたくましくすると、とんでもない世界が思い浮かぶ。

 私たち電子ペーパーコンソーシアムは、事務機器メーカーを中心に電子ペーパーの調査・研究をしてきたグループだが、2007年に、幅広く、専門家でない人からも電子ペーパーのアイデアを求めるコンテストを実施した(http://www.jbmia-epaper.jp/)。
 
 そこで私が驚いたのは、「電子ペーパーで屋根を葺(ふ)く」というアイデアだった。従来、額縁の中を電子ペーパーにしておけば、気分によって絵を入れ替えられるとか、インテリア系のアイデアはあった。ところが、この「屋根」はエクステリアである。発案した人は、夏は白、冬は黒にすれば、冷房や暖房のコストが下がり、エコ(環境保護)に役立つという。またこの発案者は、自動車のボディも電子ペーパーにするという提案もしていた。

 もうひとつ、面白いアイデアは「電子ペーパースリッパ」というものだった。廊下が曲がりくねっている旅館を歩く高齢者を想定して、スリッパを履いて曲がり角に立つと、スリッパに矢印が表示されて、行くべき方向が分かるというものだった。


環境そのものを電子ペーパー化する

 どうも、これまでの電子ペーパーのアイデアは、文字とか絵とか、要するに枠ないし額縁の中でだけ考えていたわけだ。環境そのものを電子ペーパー化するというアイデアはなかったのだ。

 そこで、一気に壮大な夢が広がる。

 「全世界ラッピング計画」である。あらゆる物体の表面を電子ペーパーにしてしまう。そうなるとどうなるか。

<室内にて>
 気分によってフロア、壁、天井、机や椅子の色を変えられる。

<街の風景>
 ビルの外壁、電柱、道路の路面も電子ペーパーにしてしまう。クリスマスのときはそのすべてがイルミネーションのように輝く。大地震が起きれば、避難場所への方向が路面に示される。阪神タイガースが優勝すると、大阪の街は全体が虎縞になる。

<パーティーで>
 「ヤンキースファンの人はどなた?」と言うと、ファンの人の電子ペーパーの背広がピンストライプの模様になる。


すべての物体が「情報を持つ」

 もっと、大胆不敵に言えば、すべての物体が「情報を持つ」のだ。

 かつて、民放のドキュメンタリー番組で、「人間が他の動物より優れているのは、豊かな表情を持っている点だ」という主張を聞いた。確かに他のどの動物より表情は豊かだ。それに加えて声を発し、文字を発明し、さらにテレビや電話、コンピュータ間通信まで発明した。他の動物が絶対に追いつかないコミュニケーションの世界を作ってしまったのだ。

 それに電子ペーパーでラッピングされた物体が情報を出し始める。物と人、さらには物と物のコミュニケーションへと発展する可能性も見えてくる。

 「こんなのは荒唐無稽だ」という人が多そうだが、今、我々が日常的に使っている道具は、実用化されるまでは荒唐無稽なものだった。そして、そうした奇抜なものが普及し、みんなが使うようになると、もう元へは戻れなくなる。

 確かに、コストが安くなり、薄くて、強靭な電子ペーパーが開発されないと、こうはいかない。この話は、液晶などでも可能だが、液晶でやると、画面を保持する電力が膨大になって、大きな面積は不可能だ。電子ペーパーは、書き換えるときだけ電気が必要で、普段は電気を使わない。そういう面でエコに配慮したシステムでもある。

 想像は創造を喚起する。

 ラッピング革命が起きて、人間の意識とか文明自体がどのようになるのか・・・想像するだけでもワクワクしてくる。

 昨年秋米アマゾンが「Kindle」という電子ペーパーを使った書籍端末を発売し、先行するソニーのとあわせれば、今年はこうした端末が50-100万台売れると予測されている。たぶん今年は本格的な電子ペーパー元年になりそうだ。大きな期待を持って、この技術を開花させたいと思っている。

<筆者紹介>坪田 知己(つぼた ともみ) 日本経済新聞社 日経メディアラボ 所長
1972年日本経済新聞社入社。大阪・経済部、社会部、名古屋・報道部、東京・産業部などで記者を務めるとともに、日経BP社「日経コンピュータ」副編集長も歴任。1994年以降、日本経済新聞社のインターネット事業戦略の立案に関わる。マルチメディア局企画開発部長、電子メディア局企画担当局次長を経て、2000年3月にデジタル関連の情報と人脈交流を目的とした日経デジタルコア事務局を設立し、同代表幹事に就任し現在に至る。2003年から慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科教授を兼任。2005年3月、「日経メディアラボ」の発足と同時に初代所長に就任。著作に「マルチメディア組織革命」(東急エージェンシー刊)、「大逆転!インターネット時代の仕事革命」(主婦と生活社共著)ほかがある。

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