【ネット時評 : 徳力基彦(アジャイルメディア・ネットワーク)】
マーケティング「会話」がカギに――ネットが引き起こす原点回帰

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 情報の検索やオンラインショッピング、そして個人による情報発信など、インターネットの普及はさまざまな領域に大きな変化をもたらしてきました。
 
 そして、これから大きな変化に直面するのではないかと言われているのがマーケティングの分野です。

 
マスマーケティングの効果減とソーシャルメディアの登場

 インターネット以前、企業にとって利用者に対する効率的なマーケティングといえば、主にマスマーケティングと呼ばれる、大量の広告その他の宣伝手段による露出を通じて利用者の認知や欲求を喚起するスタイルのものでした。

 それが近年、インターネット上における爆発的な情報量の増大や、技術の進歩、利用者側の広告に対する耐性などの影響で、単純なマスマーケティングの効率が徐々に悪化していると言われています。

 ベストセラーともなった書籍「テレビCM崩壊(翔泳社)」に描かれているように、特に米国においてはテレビCMを中心とするマス広告の効果の悪化に伴い、インターネットを活用した多様で新しいキャンペーン手法が登場してきています。

 その中でも特に注目されているのが、「ソーシャルメディア」と呼ばれるインターネット上の新しいメディアを活用したマーケティングです。

 ソーシャルメディアとは、これまでのように視聴者に一方通行で情報を配信するメディアとは異なり、情報発信者と視聴者、または視聴者同士が相互にコミュニケーションをとることができるようなメディアのこと。日本でも、利用者数が1000万を超えるともいわれるブログや、ソーシャルネットワーキングサービスのmixi、また、テレビ番組の違法アップロードなどでも話題を呼んだ動画共有サイトのYouTubeなどが当てはまります。

 これらのソーシャルメディアでは情報発信を誰でも行うことができますが、その上で飛び交う情報はマスメディア的な記事よりも、むしろ他の人とのコミュニケーションが中心です。一部の利用者の間で話題になった製品やサービスが、あっという間にネット上のクチコミを伝って多くの人に広がることもあるため、新しいマーケティングのプラットフォームになりうると考えられているのです。


ソーシャルメディアでの注意点

 ただ、ソーシャルメディア上では、これまでのマスマーケティング的な手法を使うと利用者の大きな反発を招くという点には注意が必要でしょう。ソーシャルメディア上で利用者が期待しているのは、あくまで自分と同じ利用者との会話やコミュニケーションであり、企業からの一方的な広告宣伝ではありません。

 日本でも大手メーカーが、個人利用者を名乗りプロのライターにブログを運営させていたのが発覚し、多くの批判的なコメントが集中して「炎上」した結果、閉鎖に追い込まれるという出来事がありました。これがソーシャルメディアの特徴の一つと言えます。

 また、2006年にはブロガーに1記事あたり100円~300円の報酬を支払って、企業の宣伝記事を書かせる「ペイパーポスト(PayPerPost)」という手法が流行しました。この手法でも、これらのブログ記事が、報酬を元に書かれている記事広告であると明示していなかったことで、それが報道によって判明した際に読者からの反感を買う結果になった事例があります。

 テレビのようなマスメディアにおいては、芸能人が番組中に企業の製品の宣伝を行ったり、CMなどで利用者の声的な役を俳優やエキストラが演じることはよくあることかもしれません。しかしインターネットやソーシャルメディアにおいては、そういった手法は利用者の反発を招くリスクがあることが明確になってきています。

 インターネットやソーシャルメディア上でマーケティングを展開するときは、これまでとは全く異なる考え方やアプローチが必要になるのです。


カンバセーション・マーケティングとは

 そんな中、注目を集め始めているのが、マーケティングを「会話」としてとらえる「カンバセーショナルマーケティング(会話型マーケティング)」というキーワードです。

 これは、グーグルのもたらしたインパクトを分析した「ザ・サーチ」の著者としても有名なジョン・バッテル氏が中心になって提唱している言葉です。企業から利用者に一方通行でメッセージを届けるマスマーケティングではなく、企業と利用者との間の会話や、利用者同士の会話を促進することを通じてマーケティングを行うというコンセプトです。

 顧客との「会話」という意味では、一見当たり前のことを言っているだけのように見えるかもしれません。中世のころから、商売の基本というのは顧客との会話であって、顧客の声に耳を傾け、自分の商品やサービスの良さを説明し、自分の人となりも分かってもらって初めて商品を買ってもらったり、仕事で使ってもらえたりするのですから。

 そういう意味では、資金力がある大企業だけがマスメディアを活用した大規模なマスマーケティングを展開できたこの数十年~百年ぐらいというのが、実はマーケティングの視点からは特殊な時代であり、それをインターネットが、顧客との地道な会話が重要な世界に引き戻そうとしているのかもしれません。

 そして「会話」という行為を、単純に対面して交わすものだけでなく、異なるかたち、規模でしかも効率的に展開できるのがインターネットやソーシャルメディアの魅力ということもできます。

 すでに、さまざまな企業がビジネスブログの開設や、ネット動画の活用などに取り組み始めており、成功事例が生まれています。今後もそういった方法で顧客との会話を試みる企業は確実に増えていくことでしょう。


マスとの組み合わせも重要

 ただ、多くのソーシャルメディアには、まだマスメディアのように多数の視聴者・読者にリーチする力はありませんから、短期的なマーケティングには向かない面も多い、という点を考慮しなくてはなりません。大きなマーケティングの効果を得るためには、マスメディアとソーシャルメディアを組み合わせたマーケティングを行うことが重要になるでしょう。

 また、インターネット上のニュースサイトやテレビ局のウェブサイトなど、マスメディアのウェブサイトもブログ的な仕組みや、動画共有サイトの手法を取り入れ、ソーシャルメディア化が進んできています。したがって、ソーシャルメディアといっても必ずしも一般利用者が作成したコンテンツばかりに注目する必要もありません。

 むしろ大いに注目すべきなのは、若年層を中心にソーシャルメディアの利用時間が増え続けている傾向にある、ということでしょう。

 そんな利用者の会話を、効率的に「聞く」ことができる手段であるソーシャルメディアをいかに活用するか、というのが、将来の変化に備えるための重要なステップであることは間違いありません。

 あなたの会社は、マスマーケティングから、カンバセーショナルマーケティングへの価値観の変化に対応する準備ができているでしょうか?


<筆者紹介>徳力基彦(とくりき もとひこ)
アジャイルメディア・ネットワーク取締役、ブロガー
NTTにて法人営業やIR活動に従事した後、IT系コンサルティングファームを経て、2002年にアリエル・ネットワークに入社。情報共有ソフトウェアの企画や、ブログを活用したマーケティング活動に従事。2006年からは、ブログネットワークのアジャイルメディア・ネットワーク設立時からブロガーの一人として運営に参画し、2007年7月に取締役に就任。ITmedia BizID「デジタルワークスタイルの視点」の連載など、最新のネットツールや仕事術に関する複数の執筆・講演活動も行っている。
個人でも「tokuriki.com」や「ワークスタイル・メモ」等の複数のブログや、ブログコミュニティの「FPNニュースコミュニティ」を運営するなど、幅広い活動を行っており、著書に「デジタル・ワークスタイル」、「アルファブロガー」等がある。

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