【ネット時評 : 片瀬和子(未来工学研究所)】
地方の中小企業こそブロードバンド活用を・NGNビジネスユースへの期待

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 NTT東西が「フレッツ光ネクスト」と称するNGNのサービスを開始して約3カ月が経過した。これまでのところ、個人ユーザー向けのプロモーションが中心であるが、NTT西日本がNGNを利用したVPNサービスやイーサネット系サービスをWeb上で紹介するなど、ビジネスユーザー向けのプロモーションも始まっている。
 

 個人ユーザー向けのサービスでは、ビジネス的に潤うのはコンテンツ関連事業者など、一部の業種に限られてしまう。だが、私はそれだけではなく、一般の中小企業も含めた多くのビジネスユーザーにとってNGNは有用な通信サービスになるのではないかと思っている。


激変した企業通信網

 その根拠として、ビジネスユーザーが利用する通信サービスは、旧来のEnd to Endタイプの専用線ではなく、インターネットアクセスは光回線やDSLなど公衆系のブロードバンドサービス、企業間通信はIP-VPN/広域イーサネットなどIPベースの専用系サービスが主流となっている点があげられる。その実態は、ビジネスユーザーの通信サービス利用に関する調査から裏付けることができる。

 まず、総務省の「平成19年 通信利用動向調査(企業編)」(平成20年4月 )の結果を紹介する。この調査は常用雇用者規模100人以上の企業2,850社を対象として2008年1月に調査したものである。インターネットアクセス回線は、「光回線(FTTH回線)」が64.0%と約3分の2を占め、「DSL回線」(22.7%)が次いで多く、「専用線」は16.0%に過ぎないという結果が出ている(複数回答)。「企業通信網(同一構内における通信網、同一企業内の本社・支社間及び事業所間の通信網、他企業との通信網を指す)として利用している主な通信サービス」は、「インターネットVPN」(35.4%)、「IP-VPN」(33.1%)、「広域イーサネット」(28.8%)とIPベースのサービスが上位を占め、「専用線」は21.5%に留まっている。企業通信網においても、旧来の専用線の割合は低下している。

 次に、インプレスR&Dの「インターネット白書2008」(2008年6月)の調査結果を紹介する。この調査は従業員数1人以上の小規模零細企業も対象としており、1,500社から回答を得ている。同白書では、「インターネット接続に使っている主な通信回線」(単一回答)は、「光ファイバー(FTTH)」(48.5%)、「ADSL」(26.3%)、「デジタル専用線」(8.3%)という結果が示されている。

 また、上記のいずれの資料でも、企業規模別集計ではすべての規模で「光回線」/「光ファイバー」がインターネットアクセス回線の第1位を占めている。この徴候は2003年頃から出始めており、ビジネスユーザー向け通信サービスは、この5年間で激変したといっても過言ではない。


NGNの主要サービスとビジネス利用の可能性

 私は以前、ビジネスユーザーが通信サービスを利用する際に重視する事項について調査したことがある。ビジネスユーザーが最も重要視するのは「料金」、次いで「回線の信頼性」で、これらが二大重視事項であった。料金と回線の信頼性を天秤にかけ、コストパフォーマンスを考慮して通信サービスを選定しているといってよい。このようなビジネスユーザーの実態を踏まえた上で、NGNの特徴的なサービスについて、その利用可能性を考えてみる。

【IP電話】
外線・内線とも音声電話の通話料削減に効果があり、利用可能性は高い。

【帯域保証サービス】
低コストでQoS(Quality of Service)が保証されれば、ASP、SaaS(Software as a Service)などネットワークを介したアプリケーションの利用意向が高まることが期待される。遠方の取引先等とのビジュアルなコミュニケーションにも、安定した帯域の回線が求められる可能性がある。

【回線認証サービス】
回線認証によって、従来よりもセキュリティーの高いネットワークで社内ネットワークへのリモート・アクセスが実現できるため、モバイルワーク(テレワーク)への利用が期待される。

【マルチメディアサービス】
簡易かつ安価なテレビ会議システムとセットで、NGN上でテレビ会議や映像の送受信等ビジュアルな情報交換が展開される。

【FMC(固定電話と携帯電話の融合)】
携帯電話と固定電話を融合させて従来よりも通信コストを低減し、社内外のコミュニケーションをスムーズにするという点で、FMCの利用可能性は大きい。

 料金面、保守・運用面で、新たな負荷や障害が発生しなければ、既存の公衆系のブロードバンドサービスやIPベースの専用系サービスからNGNへの移行は進むであろう。上記のNGNの特徴的なサービスに関しては、その内容に見合った適正な料金であること、かつビジネス活動全体に対しての効果が見出せることが利用促進の鍵を握ると思われる。


地方の中小企業こそNGNを

 NGNのビジネスユースに対して肯定的な意見を述べてきたが、私は、地方の中小企業こそ、NGNの利用効果が期待できると感じている。

 地方の中小企業は、少人数で俊敏な機動力を駆使した広範囲な企業活動が求められる。そのためには、取引先・顧客とのネットワークを多用した円滑なコミュニケーションや、各種ICTシステムの活用が必要である。同時に、遠方の取引先・顧客との通信費やICTシステムの維持・運用コストの節減、ICT専門人材不足といった課題もある。NGNの特徴的なサービスを利用することによって、テレビ会議、画像情報によるプロモーション、テレワーク、各種ASP・SaaSなど外部の専門的なICTサービスの安定的利用等が可能になり、課題解決に寄与するものと思われる。

 しかしながら、地方には、いまだにブロードバンドサービスが提供されていないエリアで事業を営んでいる企業がある。例えば、茨城県では多くの工業団地で、民間通信事業者のADSLやFTTHのブロードバンドサービスが利用できず、64kbpsのISDNの利用を余儀なくされているとのことである。ブロードバンドが利用できなければ、取引先との情報交換だけではなく、電子申請、電子入札にも支障をきたすことになる。

 このような状況をサポートすべく、茨城県は、県庁と市町村庁舎等を結ぶ公共ネットワーク「いばらきブロードバンドネットワーク」(IBBN)を一般のビジネスユーザーにも提供している。民間の通信事業者のブロードバンドサービスが利用できないブロードバンド不利地域の事業所でも、いばらきブロードバンドネットワークのアクセスポイントまで光ファイバーを引けば、1.5Mbpsから1Gbpsの高速な通信サービスが比較的低価格で利用できる。すでに、この方式でブロードバンド環境が整えられた工業団地もあるという。従来、やむなく紙でやりとりしていた情報が、電子データのまま、ネットワークを介して瞬時に交換可能となり、工場、本社、顧客との連絡が効率化、緊密化するといった効果があがっている。


地域の活力アップに期待

 先ごろ、総務省は「デジタル・ディバイト解消戦略会議報告書」案をまとめた。その冒頭に「特に過疎地等の条件不利地域等においては、ブロードバンドや携帯電話が、地方出身者のUJIターンによる定住促進や企業誘致等の地域活性化に必要不可欠な社会インフラであるとの認識が高まりつつある」と記載されており、地方のビジネスユーザーにおけるブロードバンドの有用性を示している。

 しかしながら、ブロードバンド・ゼロ地域解消の目標値は、「利用可能性世帯率ゼロ」という個人ユーザーの利用を示す指標で表わされており、ビジネスユーザーのブロードバンド利用可能率は明示されていない。冒頭で示したように、光回線やADSL等のブロードバンドサービスは、規模を問わず多くのビジネスユーザーにとって欠くことのできない通信サービスとなっている。現に、独自の光ファイバー網を敷設してブロードバンド不利地域から脱した中山間部の自治体で、ビジネスユーザーに対して個人世帯よりもやや高い基本料金で同じインターネットアクセスサービスを提供し、着実に契約数を獲得しているところがある。

 ビジネスユーザーの有効活用が期待できるNGNも、個人ユーザーと同様のブロードバンドサービスが利用可能なエリアであることが前提条件になると思われる。各地域の活力を高めるのは個人だけではない。地域の中小規模の事業者が、創意工夫やICTのサポートを得て、規模、立地、人材面等でのハンディキャップを解決しながら機動力の高い事業を営むことが地域の活力アップにつながる。そのためにも、個人世帯だけではなく事業所=ビジネスユーザーの利用も含めて、ブロードバンド・ゼロ地域解消策の推進を願いたい。同時に、採算性を優先しつつも、こうした新しいサービスのビジネスユースが拡大することを期待している。


<筆者紹介>片瀬 和子(かたせ かずこ)
未来工学研究所 情報通信研究センター長 主席研究員
民間のシンクタンク勤務等を経て1991年未来工学研究所入所。「豊かな社会を実現するために、どのように新しい技術を活かすべきか」という視点から、情報通信関連の調査研究に従事。最近の主な調査研究分野は、サイバー・コミュニティ活動及び関連ビジネス、ブロードバンド関連サービス、欧州・韓国におけるブロードバンド・ICTの利活用。教育機関・行政機関の情報ネットワーク化。デジタルコンテンツ関連ビジネス等。

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