【ネット時評 : 三淵啓自(デジタルハリウッド大学院)】
メタバースの今とこれから(上)――セカンドライフ失速でも成長続ける仮想空間

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 2007年前半は、3Dインターネットや3次元仮想世界(メタバース)などの言葉が、数多くマスコミに登場しました。特に米リンデンラボ社の「セカンドライフ」は、登録者数1000万人を越え、大手企業の参入や、イベントなどについてのニュースが続々と伝えられました。しかしながら、2007年の後半から熱が徐々に冷めてきて、最近は撤退する企業も珍しくありません。リンデンラボ社から提供されている日本のアクティブユーザーの数も、2007年7月をピークに下降線をたどり、今年6月にはピーク時から40%も落ち込んでいます。
 

 日本におけるユーザーの活動や話題性は下降線でも、海外に目を向けてみると、教育、医療、マネジメントなどの分野で100以上の大学がセカンドライフ内での研究や実証実験を始めたり、セカンドライフ以外のメタバースサービスが急成長していたり、という現象が見て取れます。メタバース関連事業に資金を投入している企業は数多く、公的機関も参加しています。

 このままでは、日本のメタバース関連の市場や技術的な主導権も海外勢力に握られてしまう状況になりかねません。セカンドライフを経験したことで、日本でのメタバース普及に向けた課題なども見えてきました。このコラムでは、2回に渡りこうしたメタバースの現状と今後について、解説したいと思います。


アバターをABO式で分類

 ここで、セカンドライフの日本人ユーザーが使うアバター(ネット上の分身)の分類をしてみたいと思います。まずアバターの活動目的を解析していくと、大きく3つのタイプに大別できることが分かりました。私たちは、それらをA型、B型、O型と分類しています。

 A型は、現実の自分の拡張としてメタバースを活用することにより、ビジネスやアイディンティティーを拡大することを目的としたアバターです。形状や服装もリアリテイー(実在性)を重視し、質感や、実物などにこだわったものが多いのが特徴です。反対に、B型は非現実的なファンタジーを求めて作られるアバターです。なので、服装も形状も多様性に富み、インパクトや独自性が重視されます。A型、B型が能動的であるのに対し、O型は受動的で、アバターでの表現に対してあまり気にしていないユーザーのものです。そのためデフォルトアバター(登録時に割り振られるもの)もしくは、容易に入手できるアバターが多く含まれます。なおアバターは複数持てるので、AB型、AO型、BO型なども観測されています。


セカンドライフ日本人ユーザーの変遷

 2005年後半から2006年前半までは、MORPG(複数参加型ロールプレイングゲーム)やMMORPG(大人数参加型ロールプレイングゲーム)などのオンラインゲームや関連のブログなどで情報を得たアーリーアダプターたちが主要なユーザーでした。従って、ゲームの特徴の一つである、役を演じることを目的としたB型のユーザーが多数を占めていました。

 2006年中ごろから、ビジネス面が注目を浴び、私たちデジタルハリウッドでもセミナーを開催するようになりました。海外におけるビジネスでの活用事例が紹介されたことを受け、早期参入利益を目的とした、A型のユーザーがこのタイミングで流れ込んで来ました。そして2007年に入ると、テレビや雑誌で紹介されるのみならず、「セカンドライフの歩き方」(アスキームック)など専門の書籍も発売されるようになります。リンデンラボ社による日本語公式サイトも開設され、SNS、ブログを通じ交換される情報も充実したので、A型、O型のユーザーが急増しました。2007年7月のピークはこれらの要因で起きたと解析しています。

 しかしながら、A型ユーザーが目指したビジネスモデルは、広告や販促、情報ポータルの開設や参入支援などで、メタバースならではの特性を活用・研究するというよりも、一般的なWebにおけるビジネス手法をあてはめたものが大変を占めました。それらのモデルは、一般ユーザーの増加や積極的な活動に支えられて成長する手法です。ところが、一般のユーザーがセカンドライフを始めるのには、いくつかの障壁があります。パソコン、特にグラフィックボードのスペック、回線スピード、ビューワー・ソフトの導入、心理的要因(3D認識能力、3D酔い)といった障壁が新規ユーザーの増加を阻止したり、目的意識の低いユーザー離れを招くことになりました。

 私たちも2007年初頭、そうした事情から市場的にはそれほど成長しないのでないか、という予測をしていました。これは、新しい技術や、新しいサービスが市場に浸透していくときには起こりやすいミスマッチ現象で、インターネットの黎明期と状況がよく似ています。
 
 結果として、2007年前半に参入した、ビジネスを目論むA型ユーザーの撤退や、頻繁に他のゲームやメタバースに移動する傾向にあるB型ユーザーの“移住”などで、ユーザー数が落ち込んできたのではないかと推測できます。他のユーザーに対し情報やサービスを提供して活動しているA型ユーザーが減少すると、提供しているサービスの低下によりO型ユーザーの減少も招きます。日本人のO型ユーザーは、サービスに対する期待が海外に比べて高いので、充実したサービスを受けられないとすぐにやめてしまう傾向にあるようです。こうして考えていくと、アクティブユーザーがピーク時に比べ40%減少というのは、納得のいく数字だといます。

 一般的に、ある事象に対して能動的に行動する人は、20%以下であるとも言われています。ですから、A型+B型の人数は、セカンドライフの潜在的ユーザーの20%ぐらいで、残りがO型であると考えられます。O型ユーザーがメタバースに入る十分条件、必要条件となりうるサービスの出現や、参加障壁の改善が市場の拡大につながっていくでしょう。現在セカンドライフは、至れり尽くせりのサービスを提供するものではないので、日本においてはA型・B型の人が主に活動していますが、海外ではO型が多いのに驚かされます。海外では、コミュニケーションやコミュニティーだけでも、メタバースに入る十分条件になるのかもしれません。


海外の状況

 海外では、必ずしもセカンドライフが最大のメタバースではありません。フィンランドからスタートした「Habbo Hotel」はユーザー登録数が1億人に達しています。セカンドライフの特徴と言われる、UGC(ユーザー作成コンテンツ)、RMT(リアルマネートレード)、3次元の空間共有などを実現しているメタバースは他にも数多くあります。最近では、グーグルやマクドナルドが仮想世界サービスを始めたり、米玩具最大手マテルが手がける女児向けの「バービーガールズ」や、カナダ発の子供向け仮想空間「クラブペンギン」など、ティーンを対象にしたサービスも人気を博しています。

 またIBMやマイクロソフト、グーグルなどの大手企業はメタバースへの研究開発に投資していますし、米国や中国の政府も動き出しています。そしてこれらメタバースの標準化の動きも活発化しています。ヨーロッパを中心にメタバースの世界基準として、MPEG-Vなどの提案や機論が始まっていますし、米国ではIBMとリンデンラボがセカンドライフグリッドのオープン化の動きを進めています。オープンソース化されたセカンドライフのクライアントソフトをベースに、やはりオープンソースとして開発が進むOpenSIMも普及しつつあります。

 日本でのセカンドライフの沈滞と相反するかのように、海外のメタバース関連の動きはかなり活発になってきているのです。

 日本でも、独自のメタバース参入が相次ぎましたが、消費者に対するサービスモデルが不明瞭だったり、ゲームの延長線的なものが多く、それほど順調なサービスはまだ少ないのが現状です。つい最近も「東京0区」の事業再検討のニュースがあったばかりです。また、海外では急成長しているティーンの市場も、日本ではゲーム専用機や携帯の普及が、パソコンを使うコミュニケーションの普及を妨げているようです。

 視点を変えると、3次元のオンラインゲームはメタバースの一種であると考えることもでき、参加する目的が明確なゲームからのアプローチは市場拡大に貢献する可能性があります。家庭用ゲーム機からのメタバースへの誘導をすでに開始したサービスもあります。ただし、それらの3次元仮想世界では、ユーザー制作のコンテンツやその販売などは残念ながら提供されていません。コンテンツ提供型のビジネスモデルが主流で、ユーザー参加型のモデルに対しては否定的な意見も多く聞かれます。コンテンツ提供型は利益が大きい反面、開発コストも高く、安定した事業運用が困難です。質の高いコンテンツ提供を続けるには膨大な資金が必要になるため、新しいゲーム市場やメタバースのような新しい世界を普及させるのは現状では厳しい、という判断が一般的かもしれません。B2Bのモデルを導入して、コンテンツの提供を複数の企業間で分散する試みもありますが、参加企業へのメリットを明確にするのが難しいと思われます。

 次回は、これらの動きをふまえて7月に発足した「メタバース協会」について解説します。
 

<筆者紹介>三淵 啓自(みつぶち けいじ)
デジタルハリウッド大学院教授
1961年東京生まれ。スタンフォード大学コンピューター数学科修士卒業後、米国オムロン社にて人工知能や画像認識の研究に携わる。退社後、米国でベンチャー企業を設立。その後日本で、日本ウェブコンセプツ、米国で3U.com 社を設立。ユビキタス情報処理や画像認識システムなど、最先端のWebシステムの開発を手がけている他、2005年デジタルハリウッド大学・デジタルコンテンツ科専任助教授に就任、2006年、デジタルハリウッド大学院、メディアサイエンス研究所・セカンドライフ研究室長に就任、現在に至る。

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2009-1-03 22:15

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