【ネット時評 : 三淵啓自(デジタルハリウッド大学院)】
メタバースの今とこれから(下)――協会発足と仮想空間の未来

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 3次元仮想世界(メタバース)に関する日本市場や国際的な動きを踏まえて、7月の中旬に「メタバース協会」が発足し、私も常任理事に就任しました。日本でのメタバースに対する期待が下がっている時期なので、国内の市場だけを考えるとあまり必要性がないようにも感じますが、世界的視点や将来的な可能性を考えると、重要な役割があります。
 

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メタバース協会の理事長に就任し、記者会見に臨む
杉山知之デジタルハリウッド大学学長(中央)ら
 
 
協会発足の意義

 インターネットが普及し始めた90年代前半においては、回線の遅さ、ブラウザーやインターネットプロトコル(TCP/IP)設定の煩わしさなどから、一般的な普及には否定的な人がほとんどでした。その後設定が容易になり、ブロードバンドのような技術革新によって可能性が広がってきたのです。電子商取引や検索エンジンなど、多種多様のサービスがそこで展開し、もはや社会的インフラのひとつに成長してきました。現在は携帯電話においてもインターネットインフラが必要不可欠になってきています。

 メタバースについても同じように、将来は社会的なインフラに成長していくであろうと考えています。その前兆として、メタバースの普及につながる技術革新が日々報告されています。たとえば、ユーザーの参加障壁であるパソコンのスペックやビューワーの設定に関しては、インテルが量産型のGPU(グラフィック用の演算素子)を2008年度末に導入すると言われています。マイクロソフトもすでに動き始めていますので、ビューワーがOSに組み込まれる日も、そう遠くないかもしれません。また、ウェブの既存技術によって体験できるメタバースのビューワーも多数開発されています。

 日本も、ユーザーの減少や市場としての未成熟を理由にメタバースに関する研究や開発に力を入れないと、インターネットの時の二の舞になりかねません。検索エンジンの分野では、日本にも優秀な技術があったにもかかわらず、法的整備の遅れや国内の市場性を中心に評価するあまり、出遅れてしまいました。実はメタバースの一般サービスには、2000年初めに日本の大手企業が参入していました。コミュニケーションの実験やバーチャルコマースの実験など、とても興味深いものがあったのですが、日本市場になじまず、残念なことにセカンドライフが日本に参入する前に消えていってしまったのです。

 メタバースに限らず、情報産業やコンテンツ産業で国際的に競争力を持ち、主導権を握れるような技術・サービスの育成には、産官学の情報共有組織が必要不可欠であると感じています。そこで、メタバースの可能性を感じ、その普及に貢献しようとする企業や研究者が率先して立ち上げたのがメタバース協会です。

 日本は漫画、アニメ、ゲームに代表されるすばらしいコンテンツが山ほどありますが、言語の壁や、市場の壁に阻まれてその多くが国内にとどまっているのが現状です。しかしながら、メタバースにおいては言葉だけでなく、三次元のオブジェクト、ジェスチャー、環境、世界観といったように、豊富なコミュニケーション手段を使うことができます。日本ならではの文化、コンテンツの海外への普及には適しているのではないでしょうか。さらに、デジタルコンテンツの普及には著作権の問題やメディア配給のコストなどさまざまな問題点が指摘されていますが、それらの解決策の一つとして、メタバースの活用を提案しています。協会では、法的な整備、市場の活性化、コンテンツ業界のメタバース参入支援など、世界市場への参入を視野に入れて活動していきたいと考えています。


仮想世界の進展に向けて

 メタバース関連業界と、他の業界との情報交換も盛んに行われるようになってきました。既存のウェブや携帯電話などとの連動だけでなく、テレビやラジオといったメディアとのコラボレーションが始まっているのです。仮想世界は、法律、経済、社会、文化など、多様な視点で立体的に考えていくべきものです。仮想世界が現実に近づくことで、アバターの人格や権利などの問題も発生してくるでしょう。

 現在のセカンドライフの中のコミュニティーは、実態の薄いゲームコミュニティーに近いものから、現実を巻き込んだ、仮想組織に発展しているものまでさまざまで、中には小さな都市国家を思わせるような地域まで生まれてきています。しかし、個々のコミュニティー間の情報格差が生じ、孤立するところも出てきたので、業界や研究者を中心に「市民ネットワーク」というセカンドライフ内の住民主体の団体も組織し活動しています。メタバースの成長には、技術面だけでなく、住民の視点からのアプローチが欠かせないからです。研究者のグループとコミュニティーのネットワーク、そして政府のような公的機関などとの密接な連携を通じて、メタバース全体の進むべき方向性を模索していくべきです。

 こうした活動の先には、世界中に数多くの3次元仮想空間が存在する未来が見えてきます。人間の欲求や趣味、生活の多様化に対応して、さまざまな形のメタバースが形成される。これがマルチバース(Multiverse)の仮想世界です。そして、これらがゆるやかに連携することにより、インターバース(Interverse)へと進化していくのです。そうなると、公共性の高いインフラ的仮想空間の需要も生まれてくると考えられます。3D-MPEGの標準化の動きや、リンデンラボ社とIBMによるメタバース共通化の動きなどはその萌芽であると言えるでしょう。セカンドライフが公共的なインフラに発展するかどうかは分かりませんが、現段階で一番近い位置にいるのは確かかもしれません。

メタバース協会
http://www.metaverse-association.jp/

<筆者紹介>三淵 啓自(みつぶち けいじ)
デジタルハリウッド大学院教授
1961年東京生まれ。スタンフォード大学コンピューター数学科修士卒業後、米国オムロン社にて人工知能や画像認識の研究に携わる。退社後、米国でベンチャー企業を設立。その後日本で、日本ウェブコンセプツ、米国で3U.com 社を設立。ユビキタス情報処理や画像認識システムなど、最先端のWebシステムの開発を手がけている他、2005年デジタルハリウッド大学・デジタルコンテンツ科専任助教授に就任、2006年、デジタルハリウッド大学院、メディアサイエンス研究所・セカンドライフ研究室長に就任、現在に至る。

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