【ネット時評 : 徳力基彦(アジャイルメディア・ネットワーク)】
「5つの自由」で広がるネット動画広告の可能性

tokuriki3.jpg
 
 インターネット上のマーケティング手法は、技術の進歩や様々なサービスの登場により影響を受けながら、日々進化を続けています。
 
 その中でも、いま特に大きな進化の要素を秘めていると考えられるのが動画を活用したマーケティングです。
 

テレビCMのコピーだけが動画広告ではない

 もちろん動画の活用と言っても、そのパターンは様々です。

 一般的に、動画広告というと多くの人が思い浮かべるのはテレビCMでしょう。テレビCMは、広告市場における市場規模としても、インパクト的にも、広告の王様と呼ぶべき存在です。

 当然、テレビCM自体をそのままインターネット上の広告枠に表示するという手法も存在します。

 ただ、テレビのように番組視聴中にある程度強制的に画面を占有してCMを表示させることができる媒体と異なり、インターネットにおいては利用者が能動的にページを移動してしまいますし、動画広告を表示できる枠の場所やサイズによってはあまりきちんと表示されないことも多いため、テレビCMと同じ効果を求めるのは間違いです。

 そういう意味で、インターネットの動画CMはあまりメリットがないという印象を持っている人も多いかもしれません。しかしネット動画を活用したマーケティングは、むしろそういったテレビCMのフォーマットにとらわれない、自由さがメリットと言えるのです。そのメリットを具体的に考えていきましょう。


(1)ネット動画は時間枠が自由

 テレビCMにおいては一般的に動画の時間は15秒です。

 そのため、ネット動画広告の際にも、この時間枠にとらわれてしまっているケースが多く見られるようですが、当然ネット動画広告の場合には、時間の縛りはありません。5秒の動画でも構わないですし、5分の動画でも、1時間の動画でも問題ありません。

 英蘭ユニリーバのヘアケア・スキンケア用品ブランド「Dove」のバイラル動画(主にネット上での口コミで視聴が広がっていくことをねらう動画)として有名な「Dove Evolution」は1分15秒程度という長さですし、独BMWが著名な映画監督や俳優を起用して作成し話題になった「BMWFILMS.com」のショートムービーは6、7分。広告枠の長さを気にして動画を作成する必要はないのです。


(2)内容ももちろん自由

 また、動画広告というと、どうしてもCMに代表される宣伝的な内容をイメージしてしまうかもしれませんが、極端な話、どんな動画でも製品やサービスの宣伝にはなり得ます。

 例えば旅行代理店が、海外のおすすめ旅行スポットの紹介を30分程度の動画にまとめてサイトに掲載することで、顧客の旅行欲を促進したり、オプションツアーの検討をさせることも動画を使ったマーケティングの一つになりえます。ソフトウエアの使い方を説明した動画自体が話題になったという面白いケースもありました。

 ロングテールというキーワードに表現されるように、マーケティング手法についても代表的なパターンに頼らず、多様な動画を作成してそれぞれが少ないなりにファンを連れてきてくれる、というやり方があるわけです。


(3)構成も自由

 これは内容の話とも重なりますが、インターネットの動画の一つの特徴は、利用者の行動を反映するという構成が容易な点です。

 例えば利用者が入力した言葉に反応するニワトリの着ぐるみを使った動画「サブサービエント・チキン(従順なニワトリ)」は、2004年に米バーガーキング社が展開し大きな注目を集めました。利用者の属性や反応によって動画の展開を変更することができるというのは、これまでのテレビCMではほぼ不可能。インターネットならではのアプローチと言えるでしょう。
 
 最近でもインテルが、鳥のキャラクターの一日を、複数のカメラから撮影した動画を利用者に選択させるという「セントリーノ氏の優雅な週末」というキャンペーンを展開していましたが、こういったアプローチは今後も様々なバリエーションが登場すると思われます。


(4)誰が制作するかも自由

 さらに、動画広告は必ずしも企業が作る必要はありません。

 単純な例で言うと、動画広告を企業自身ではなく、ファンや一般利用者に作ってもらうという手法があります。

 動画共有サイトのYouTubeに代表されるように、今では動画の撮影・編集に必要な機材や環境のコストも非常に安くなっており、もうプロだけの世界ではなくなりつつあります。

 もちろん、素人が撮影・編集した1つ1つの動画のクオリティはそれほど高くないかもしれませんが、当然制作コストも安く済むことになります。利用者が自発的に動画広告を作成してくれれば、無料で済む場合もあるわけです。

 テレビCMでも利用者の撮影した素材を利用するケースがありますが、インターネットにおいては、そういった利用者の力をもっと多様な形で活用できると言えるでしょう。


(5)掲載場所までも自由

 また、動画広告というと掲載場所は広告枠の中というイメージを持つかもしれませんが、ネット動画の掲載場所には多様なパターンがあり得ます。

 分かりやすい例で言えば、YouTubeなど動画共有サイトの仕組みを活用したバイラル動画のケースがあります。

 動画共有サイトには、それぞれの動画をブログやSNSの日記などに貼り付ける機能があるため、利用者は自分が気に入った動画をブログやサイトに掲載することができます。

 つまり、動画広告がいわゆる広告枠に表示される「広告」ではなく、コンテンツとして利用されるようになるわけです。

 さらに、最近増えているケースでは、ブログパーツというブログのサイドバーなどに貼り付けるパーツで提供するものがあります。

 ブログの書き手はブログパーツを自分のブログの飾りや、コンテンツの一部として活用する形になるため、それが仮に広告目的だったとしてもいわゆる広告枠ではない場所に長い間掲載され続けるということがあり得るわけです。

 このように、いわゆるネットを活用した動画広告と一口に言っても、テレビCMを前提にした発想からはとても思いつかないような形が実現できるのが、インターネットの最大の魅力と言えるでしょう。


UNIQLOCKの成功
 
 このインターネットならではの動画活用の可能性を、具体的に表現した事例としてご紹介したいのが、ユニクロが展開したUNIQLOCKキャンペーンです。
 
 UNIQLOCKは、女性ダンサーが踊る動画と時計を交互に表示するブログパーツです。

 ユニクロの衣服自体の単純なアピールではなく、それを着て踊るダンサーを中心にした動画にするという点もユニクロらしい独特な広告手法ですが、24時間表示され続けることで時間の制限から解き放たれている上に、動画の掲載場所として時計のブログパーツという非常に長く利用してもらえるツールを選択した点がポイントです。

 当然利用者には、動画広告ではなくブログを飾るのお洒落なブログパーツと受け止められ、非常に人気が出た事例です。

 その拡がりも驚異的で、ブログパーツは87カ国で合計3万5千人以上の方が利用し、累計の閲覧数は1億を軽く突破しています。

 もちろん、その影響力をテレビCMと単純に比較することはできません。ただ、一口に動画広告と言っても、インターネットにおいてはテレビCMと全く異なるアプローチでチャレンジできる選択肢が無限にある、ということを是非知っておいていただければと思います。
 
 

<筆者紹介>徳力基彦(とくりき もとひこ)
アジャイルメディア・ネットワーク取締役、ブロガー
NTTにて法人営業やIR活動に従事した後、IT系コンサルティングファームを経て、2002年にアリエル・ネットワークに入社。情報共有ソフトウェアの企画や、ブログを活用したマーケティング活動に従事。2006年からは、ブログネットワークのアジャイルメディア・ネットワーク設立時からブロガーの一人として運営に参画し、2007年7月に取締役に就任。ITmedia BizID「デジタルワークスタイルの視点」の連載など、最新のネットツールや仕事術に関する複数の執筆・講演活動も行っている。
個人でも「tokuriki.com」や「ワークスタイル・メモ」等の複数のブログや、ブログコミュニティの「FPNニュースコミュニティ」を運営するなど、幅広い活動を行っており、著書に「デジタル・ワークスタイル」、「アルファブロガー」等がある。


トラックバック

このエントリーのトラックバックURL
http://www.nikkeidigitalcore.jp/cgi-bin/mt/mt-tb.cgi/272

コメント一覧

メニュー