【ネット時評 : 谷脇康彦(総務省)】
オープン型プラットフォーム環境の実現に向けて

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 世界最先端のブロードバンド基盤を構築した日本。しかし、ビジネスモデルの多様化やネット上のコンテンツ流通に向けた課題は多い。総務省「通信プラットフォーム研究会」は、通信ネットワーク上に構築されるプラットフォームと呼ばれる機能に着目した施策展開を提言している。本稿では、この報告書案の概要をご紹介したい。
 

プラットフォームとは何か

 そもそもプラットフォームとは何か。例えばネット利用者がコンテンツを購入する場合、コンテンツプロバイダーは購入契約を締結した正当な契約者であるということを確認(認証)し、コンテンツの購入代金を徴収(課金)する。こうした認証・課金などの機能をプラットフォームと呼ぶ。

 最近の事業モデルは、図1のように、IP化の進展にあわせていくつかのレイヤー(事業領域)に分けて分析することができる。レイヤー構造をモバイルビジネスの世界にあてはめてみると、レイヤーを縦断して携帯電話会社が事業展開する垂直統合型の事業モデルが構築されている。つまり、携帯電話会社はメーカーから調達した端末の販売、ネットワークの構築・サービスやインターネット接続(ISP)サービスの提供、公式ポータルに掲載するコンテンツの選択、コンテンツ等の認証・課金などを一体的に提供している。

 事業モデルの多様化を促し、ブロードバンド市場を活性化するためには、こうした垂直統合型の事業モデルに加え、水平分業型の事業モデルの登場が期待される。つまり、各レイヤー間につなぎ手(インタフェース)を入れ、異なるレイヤーを一人のプレーヤーが手がけてもいい(垂直統合型の事業モデル)し、あるいは複数のプレーヤーが得意とするレイヤーを担当し、これを組み合わせて垂直統合型と同じようなサービス提供を行う(水平分業型の事業モデル)こともできる、という市場環境を構築することが望ましい。

 このため、認証・課金機能を含むプラットフォームについても、通信事業者ごとに構築されているプラットフォーム間の相互運用性の確保や、こうした機能の担い手の多様化を図るという観点から検討を行い、「オープン型プラットフォーム環境」を実現していく必要がある。

<図1>
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モバイルビジネスのプラットフォームの多様化

 99年に登場したモバイルインターネットサービス。携帯電話会社は、公式ポータル(携帯電話会社がコンテンツを選択・掲載するポータル)を通じてコンテンツ等に課金することを可能とする世界初の事業モデルを構築し、成功を収めてきた。

 しかし、近年は従来の公式ポータルとそれ以外のポータルの垣根は低くなってきている。これは、公式ポータル以外のポータルにおいてB2B2Cモデル(広告付のコンテンツなど)を採用した人気サイトが多数登場していることに加え、各携帯会社が検索エンジンを搭載することによって、従来のような公式ポータルを出発点にして好みのコンテンツを探し出していくというアプローチが少なくなってきた点も影響しているだろう。しかし、携帯会社自らが提供している認証・課金機能は、基本的に公式ポータル向けに提供されている。

 研究会はこうした現在の仕組みの見直しに向けたプランを示している。具体的には、図2のように、ISPやコンテンツプロバイダーが携帯電話会社の運用する公式ポータルと同じように、自らコンテンツ等を集めてきて自分のポータル(「競争ポータル」と呼ぶ)に掲載する、そして、認証・課金機能は携帯会社のものを利用したり、クレジットカードや電子マネーでの決済も可能にするというもの。そして、研究会は「競争ポータル」構築の具体的な条件の検討を行うため、民間主体のフォーラム「モバイルプラットフォーム協議会(仮称)」を設けることを提案している。

<図2>
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 また、研究会は競争ポータル構築に向けた検討にあわせて、(a)公式ポータル等のコンテンツの掲載基準の一層の明確化、(b)公式ポータルのコンテンツと競争ポータルのコンテンツとの間のリンクアウトの柔軟性の確保、(c)コンテンツプロバイダー等へ位置情報を提供する場合の運用基準の明確化、(d)待ち受け画面でのニュース配信や音楽配信の運用基準の明確化の4点を図ることを提案している。

 そして、これらの検討事項についても、前述の協議会で検討し、検討結果を「標準運用ガイドライン」として09年夏をめどに取りまとめることが望ましいとしている。

 仮に各携帯電話会社の認証基盤の相互運用が実現すれば、最近、新規参入の動きが活発化しているMVNO(Mobile Virtual Network Operator、仮想移動体通信事業者)の事業モデルにも自由度が生まれてくる。

 MVNOは特定の携帯電話会社と「一対一」の関係で事業展開する形が一般的だ。しかし、仮にその枠を越えた認証基盤の相互運用が進めば、複数の携帯電話会社のネットワークを利用(クロスネットワーク環境)したMVNOがサービス可能になり、事業モデルの多様化が更に加速化されることとなろう。


プラットフォームの相互運用性の確保

 今後ユビキタスネット環境になっていく中、固定・移動のネットワークの別を問わず、どのような端末やネットワークからでも共通の認証基盤を介してコンテンツ等に自由かつ簡単にアクセスできる環境の実現が期待される。そして、ここでも認証基盤の相互運用性の確保が重要なポイントとなる。

<図3>
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 そこで、図3のように各認証基盤のIDを個人の属性情報と切り離してバーチャルなIDに変換し、他事業者に提供する仕組みが実現すれば、固定ブロードバンドでダウンロードしたいコンテンツを選択し、携帯端末で認証・課金するといったことも可能になる。また、一つのユーザーIDでネットワークや端末の違いを越えてコンテンツ等に自由にアクセス可能な仕組みの構築も、具体的に視野に入ってくる。

 こうした多様な認証基盤の相互運用性を確保するための技術的な課題の洗い出しや実証実験の実施などを行うため、研究会は民間主体の「認証基盤連携フォーラム(仮称)」を設置することを提言している。


モバイル分野のポータビリティー向上

 認証基盤の連携という観点からは、モバイル分野のポータビリティー向上も検討課題として挙げられる。具体的には、メールアドレスやコンテンツの利用の柔軟性を向上させるための環境整備だ。
 
 メールアドレスについては、PCなどで利用しているISP等のメールアドレスが携帯会社の別にかかわりなく、携帯メールアドレスと同じように利用できるようにすること、つまり、着信の際のプッシュ配信機能の提供などを共通化していくことが考えられる。そうすれば、携帯会社を変更しても携帯メールアドレスと同じ使い勝手で同一のメールアドレスが使える。

 また、携帯電話会社を変更した場合、現在はコンテンツ契約を一旦解除して、変更先で再契約をしないといけない形が一般的だ。携帯端末に蓄積したコンテンツを変更先の携帯電話会社の携帯端末に移行させて楽しむこともできない。携帯電話会社を変更しても、コンテンツ契約の継続や蓄積したコンテンツを継続利用できる環境が望まれる。

 こうしたメールアドレスやコンテンツ利用の柔軟性を向上させるため、研究会は総務省に検討の場を設け、09年中をめどに結論を出すことを提案している。
 
 さらに、携帯端末のAPI(Application Programming Interface)等の互換性の向上も重要な検討課題だ。携帯端末でのアプリケーション等の実行環境については、携帯端末に実装されるAPI、携帯端末の処理速度や画面解像度の違いが互換性を妨げている。しかも、携帯端末上のコンテンツやアプリケーションの移植・検証はコンテンツプロバイダ等が負担している現状にある。
 
 端末API等の互換性向上が図られれば、アプリケーションプロバイダー等にとって作成コストの削減、開発期間の短縮と開発自由度の向上などが期待できる。
 
 そこで研究会は、いわゆる「3.9G」携帯電話の商用サービス開始時期を念頭に置きながら、関係者で構成する既存のフォーラムの活用などを視野に入れつつ、互換性向上の実現に向けた協議を進めることが望ましいとしている。


その他の検討課題

 その他の検討課題として、さらに2点が掲げられている。まず、コンテンツ配信効果の計測の在り方の検討。B2B2Cモデルでコンテンツを配信する場合、コンテンツや広告がどのような属性の利用者に視聴されているか、また配信チャネルごとの視聴数のデータなどを計数的に把握できるという環境の実現が念頭にある。こうした環境が実現すれば、コンテンツプロバイダーや広告主にとって、効果的なコンテンツ等の配信が可能となり、B2B2Cモデルによるコンテンツ市場の拡大が期待できる。
 
 研究会は、コンテンツ配信効果の計測の在り方について民間主体の「コンテンツ配信フォーラム(仮称)」を開催し、配信効果の計測に関する技術的課題や制度的課題の検証、さらに実証実験の実施などにより関係者間のコンセンサス作りを進めることが望ましいとしている。
 
 もう一つの検討課題は個人の属性情報の取扱いに関するもの。昨今、電子マネー、GPS機能など多彩な機能を搭載した携帯端末は、人々の生活に不可欠なものとなっている。このため、パーソナルな情報、つまり自分がどこで活動し(位置情報)、何を購入し(購買履歴)、インタ―ネットでどのようなコンテンツにアクセスしたか(アクセス履歴)といった情報(ライフログ)を取得することが可能となっている。

 このライフログは個人の考え方や好みを知る上で貴重な情報であり、こうした情報を取得・提供・利用して、きめ細かい付加価値の高いサービスを提供したり、状況にあった効果的な広告を配信することなどが可能となる。

 他方、こうした個人情報についてはプライバシーの侵害といった面からの懸念を指摘する声がある。そこで、ライフログを含め個人の属性情報を使って事業展開を行う場合の基本的なルールを検討することが必要だ。このため、研究会は個人の属性情報の取り扱いについて総務省に研究会を設けて、09年夏をめどに一定の結論を出すことを提案している。

                     ◇ ◇ ◇

  
 このようにプラットフォームは事業モデルの多様化を実現するための戦略的な分野だ。この報告書案を契機として、具体的な検討が加速化されることを期待したい。なお、「通信プラットフォーム研究会」は、11月21日(金)まで報告書案について広く意見募集(http://www.soumu.go.jp/s-news/2008/081024_7.html)している。研究会の報告書案は意見招請の結果を踏まえて年内をめどに取りまとめられることとなっている。
(本稿中意見にわたる部分は筆者の個人的見解である。)


<筆者紹介>谷脇 康彦(たにわき やすひこ)
(総務省情報通信国際戦略局情報通信政策課長)
1984年郵政省(現総務省)に入る。OECD事務局ICCP(情報・コンピュータ・通信政策)課勤務等の後、郵政省電気通信事業部事業政策課補佐、郵政大臣秘書官、電気通信事業部調査官、在米日本大使館参事官、総合通信基盤局料金サービス課長、総合通信基盤局事業政策課長等を歴任。2008年7月より現職。主として通信放送分野の競争政策に携わってきている。
著書に「世界一不思議な日本のケータイ」(インプレスR&D、08年5月刊)、「インターネットは誰のものか――崩れ始めたネット世界の秩序」(日経BP社、07年7月刊)、「融合するネットワーク――インターネット大国アメリカは蘇るか」(かんき出版、05年9月刊)。

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