【ネット時評 : 金 正勲(慶應大学)】
デジタル新時代を設計・実行――コンテンツ学会誕生

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 去る10月11日(土)、日本のポップカルチャーの「聖地」秋葉原において、コンテンツ学会が設立された。会長に堀部政男一橋大学名誉教授、副会長に杉山知之デジタルハリウッド学校長、中村伊知哉慶應義塾大学メディアデザイン研究科教授、玉井克哉東京大学先端科学技術研究センター教授、和田洋一スクウェア・エニックス社長の4人が就任した。筆者は、本学会の事務局長を務める。本稿では、コンテンツ学会の設立における問題意識、設立経緯、そして主要活動について紹介する。
 

コンテンツは価値創造のエンジンに

 まず、本学会設立の問題意識について。コンテンツが生み出す価値は経済的なもののみならず、芸術的、文化的、社会的なものも含む。特に、近年のデジタル化やインターネットといった一連の技術革新は、誰もがコンテンツを創造、加工、共有、流通、利用することを可能にした。消費活動において感性的な要素がますます重視されるに伴い、コンテンツが社会経済システムの中で占める比重も高まっている。

 日本でいうコンテンツ産業は、今は映画、アニメ、マンガなどエンターテインメント系のコンテンツと関連する産業を主な対象とするが、これからのコンテンツは教育、医療、小売、金融などあらゆる社会、経済、文化活動の中に組み込まれ、価値創造をけん引するエンジンになっていくことが予想される。コンテンツ産業という狭い捉え方ではなく、人々を感動させ、生活を豊かにするエンジンとしてこの分野を今まで以上に大事にしていく必要がある。コンテンツ学会がそのカタリスト(触媒)としての役割を果たしていきたい。


コンテンツ学会の活動内容

 次に、具体的な活動について。幅広い領域からコンテンツ関連のキーパーソンを招いた講演、研究会、ディスカッションを実施し、その成果を取りまとめて、日本のコンテンツ産業の基盤となる体系的なプラットフォームを構築する。表現、技術、産業、政策の4つの要素が調和・統合することで、コンテンツの社会・文化・経済的な価値が向上するとの観点で、各種企画を立案する。

 また、産業的視点だけでなく、教育、医療、文化・芸術、都市行政といった幅広い分野へのコンテンツの波及効果についても議論を戦わせる場にしたい。そのプロセスを全てオープンにすることを重視している。具体的には、1年間毎週、計48回の設立記念講演研究会シリーズの開催を予定している。余談であるが、年会費1万円で日本のどこのコンテンツ系大学院よりも充実した教育を受けられる場だと思う。

 他にもコンテンツに関連する複数の「民間審議会」の設置も予定している。ここではオープンな議論を行い、その成果を基に政策提言を行う。現在、ネット利用の権利調整法を検討する審議会の設置を準備しており、来年3月に政策提言することを予定している。コンテンツ立国というスローガンの下で様々な振興政策を推進して来た日本。省庁関係者が一生懸命に問題解決に努めてきたが、縦割り構造の中で出来ることは限定されており、また審議会等においても利用者中心とは言いながら、関連産業の関係事業者の利害調整が中心になり、結果的に利用者不在の結論になるケースが多かったのではないか。問題をさらに深刻にするのは、そうした政策決定プロセスに対するウォッチング機能が日本では十分果たされていない。これはアカデミック側の怠慢としか言いようがない。

 アカデミックは政府の議論に都合良く組み込まれるのではなく、独立性や社会を代弁する使命感を持つべきである。コンテンツ学会は行動を通じてそれを実証していく。誰とでも協力でき、誰とでもけんかできる自律した組織にしていきたい。大学や企業、行政など特定の組織色を排除し、コンテンツに対して意欲のある人が自由に発言・活動できる中立的、透明性の高い組織として機能させる。特に政策については、経産省、文化庁、総務省、内閣知財本部などコンテンツ関連の管轄省庁が錯綜するなかで、政策の調整機能が果たされているのかを見定め、政策プロセスの監視、政策評価、そして政策提言機能を担っていく。


IT分野全般をカバー

 本学会では、コンテンツが作られ、流され、使われる一連の過程と関連した表現・技術・産業・政策問題を考えていくため、実質的に全ての情報通信分野がカバー範囲になっていく。なので、例えば政策問題でいえば、いわゆるコンテンツ振興政策や著作権政策だけではなく、通信・放送の融合法制、電波政策、ネットワーク中立性、競争政策、プライバシー、セキュリティ、表現の自由と青少年保護などの問題もカバー範囲の中にある。


創造社会の時代へ――学会名称に込めた思い

 「コンテンツ学会」という名称にしたのは、コンテンツを取り巻く複雑化する環境のなかで、今一度コンテンツをその原点から考えることを意識したからである。「コンテンツ産業学会」でも、「デジタルコンテンツ学会」でもないのはそうした理由からである。これからは人間の創造性が価値創出の源泉となる創造社会の時代である。

 創造性には、表現面、技術面、産業面、そして政策面の創造性がある。それらが調和・統合してはじめて価値が生み出される。コンテンツ学会はその調和・統合の在り方を考える産官学のオープンプラットフォームになる。

 今後、コンテンツが切り開くデジタル新時代を設計し、実行することをミッションに精力的に活動していく予定である。志を共にする方であればぜひ参画頂き、一緒に考え、行動していきたい。

コンテンツ学会のホームページ
http://www.contents-gakkai.org/

<筆者紹介>金 正勲(Junghoon Kim)慶應義塾大学 デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構 准教授
韓国生まれ。1999年から2002年まで米国インディアナ大学テレコミュニケーション学部アソーシエイトインストラクター、『情報社会論』、『情報通信産業経営論』等を担当。知的財産研究所外国人招聘研究員、ドイツ連邦防衛大学標準化研究部門客員研究員、欧州共同体(EU)標準化教育プロジェクト・エキスパートパートナー、英国オックスフォード大学知的財産研究センター客員研究員。主な研究分野は、メディア融合論、デジタルコンテンツ産業論、技術標準化と知的財産権等。2004年から慶應義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構准教授。

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