【ネット時評 : 城所岩生(国際大学GLOCOM)】
「ネットも本も」覇権握るグーグル(上)――図書館プロジェクトで著作権者らと和解

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 グーグルは08年10月、昨年の7月に本コラムで紹介した「ブック検索」をめぐる訴訟で、作家協会などと和解したと発表した。ブック検索は書籍の全文を検索して、ユーザーの興味にあった書籍を見つけ出すサービスで、ウェブ検索サービスの書籍版と考えればよい。グーグルは、図書館や出版社から提供してもらった書籍をスキャンし、デジタル化している。訴えられたのは図書館から書籍を提供してもらう図書館プロジェクト。ハーバード大、スタンフォード大、ミシガン大、オックスフォード大、ニューヨーク公共図書館という英米の5大図書館が参加して2005年にスタートした。わが国からも昨年、慶應大学の三田キャンパスにある慶応義塾図書館が加わった。
 

図書館プロジェクトをめぐる訴訟

 図書館プロジェクト開始直前の05年9月、作家協会(Authors Guild)は著作権侵害を理由にグーグルを訴えた。グーグルはミシガン大などの図書館から提供されたパブリック・ドメイン外の書籍を、自社のウェブサイトの閲覧者を増やし、広告収入を上げる計画にもとづいて、著作権者の許諾を得ずに複製することによって、大規模な著作権侵害(massive copyright infringement)を行ったと主張した。翌10月、全米出版社協会 (Association of American Publishers)も、主要会員であるマグロウヒル社など5社の代理として、同趣旨の訴えを提起した。06年10月、ニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所のSprizzo判事は、両協会による訴訟を統合した。両協会の訴えに対してグーグルは、これは「フェアユース(公正な利用)」であると抗弁した。

 わが国の著作権法では、著作権が制限される場合を個別具体的に定めている。たとえば、第30条は「私的使用のための権利制限」について規定しているが、そうした個別の権利制限規定に該当しなければ、どのような行為も著作権侵害となる。対照的に米国著作権法は、そうした個別の権利制限規定に加えて、著作権者の排他的権利に対する一般的な例外条項として、フェアユースを認めている。裁判所が著作権法に定める4要素(使用目的、著作物の性質、引用の量と質、市場に与える影響)を判断してフェアユースであると認めれば、著作権侵害にならない。このようにフェアユースは、原告の著作権を侵害するとの主張に対する被告の抗弁として用いられる。
 
 08年10月、わが国の知的財産戦略本部は「デジタル・ネット時代における知財制度の在り方について」(報告案)をとりまとめた。3章からなる報告案の中に、「権利制限の一般規定(日本版フェアユース規定)の導入」が盛り込まれている。導入が本決まりとなって、条文化する際には当然米国のフェアユース規定を当然参考にすると思われる。


ケーススタディー:もし、和解していなければ?

 ブック検索は結果的には和解で決着がついてしまったが、フェアユース規定についての格好のケーススタディーを提供してくれた。新技術に対して、フェアユースの抗弁を認めた有名な判決としては1984年のソニーベータマックス最高裁判決がある(映画会社ユニバーサル・スタジオが家庭用ビデオによる録画が著作権を侵害しているとしてベータマックス機を米国で売り出したソニーを訴えたが、1984年に最高裁はベータマックス機が著作権を侵害してないとの判決を下した)。最高裁まで行けば、同判決の再来かと思わせるようなケースでもある。そこで、もし仮に裁判が続行したら、グーグルはフェアユースで抗弁できたかどうかについて考察してみたい。


ブック検索の概要

 ブック検索の仕組みはこうだ。ホームページ(http://books.google.co.jp/)を開くと、ウェブ検索のページと同様、ロゴマークの下に検索語句を挿入する枠があるだけのすっきりした画面が表示される。枠の下には「検索ユーザーと書籍の新たな出会い」というキャッチフレーズが表示される。

 ユーザーはウェブ検索と同じように検索語句をタイプする。検索語句と一致する内容を含む書籍が見つかると、その書籍へのリンクが表示される。リンクをクリックすると、書籍についての情報が表示されるが、表示方法は、書籍の著作権の有無、著作権のある場合は出版社との契約内容によって主に3つの類型がある(同サイト内「Googleブック検索について」のページより)。

(1)全文表示
 著作権が消滅している場合や出版社もしくは著者の許可のある場合は、書籍の任意のページを自由に閲覧できる。

(2)スニペット表示
 出版社もしくは著者の許可のある場合は、定型の書籍基本情報とともに、検索語句を含む文章の一部がスニペット(抜粋)表示される。

(3)プレビューなし
 出版社もしくは著者の許可のない場合は、「プレビューを利用できません」と表示されるが、書籍の基本情報は表示される。

 そして、書籍の購入、借用も手助けしてくれる。借りる場合は、「図書館(英語)でこの書籍を探す」という表示をクリックして、地名を入れると、所蔵している近くの図書館がリストアップされる。ただし、「図書館(英語)で……」という表示のとおり、現時点では検索、結果表示とも英語である。

 購入方法は二通りある。街の書店から購入する場合は、「地域の書店を探す」という表示をクリックして、地名を入れると、Googleマップ上に書店の場所が表示される。将来的には在庫状況も表示する予定という。これにより、実物を見て購入するかどうか判断したいというユーザーや一刻も早く読みたいというユーザーの要望に応えられるわけだ。

 もう一つの方法はオンライン書店からの購入である。書籍の情報が表示されるページに張られているリンクをクリックすれば、アマゾンほかオンライン書店のサイトに行ける。オンライン書店で本を探す場合との決定的な相違は、検索語句が書籍名に含まれていない場合でも、本文内に存在するかどうか確認できる点にある。完全に補完関係にある街の書店と異なり、オンライン書店にとってブック検索は一見脅威のようにみえるが、検索語句が書籍名にない場合でもブック検索が拾ってくれる、と考えれば補完関係にあるともいえる。


両者の言い分
 
 作家協会や全米出版社協会の言い分はこうだった。図書館プロジェクトでまだ著作権が切れていない書籍が提供された場合、ブック検索による表示方法は前述の(2)「スニペット表示」となり、検索ワードを含む数行の引用がなされるだけだ。しかし、両協会はそもそも図書資料をスキャンすることが著作物の複製にあたる、すなわち著作権が切れパブリックドメイン(公共財産)になったわけでもないのに、書籍の複製を著作権者の同意なしに行うことが、著作権者の複製権を侵害すると主張した。著作権法は一般的にユーザーに使用許可を求めることを要求している。にもかかわらず、Googleはこれを逆転させ、著作権者が許可しない旨を表明(オプトアウト)しないかぎり、図書館の蔵書をデジタル化しようと試みているのを両協会は問題視したのである。

 著作権法に挑戦状をつきつけるような試みでもあるが、グーグルは図書館の資料をデジタル形式で複製、蓄積し、その一部を閲覧できるようにすることは、著作権法上認められたフェアユースにあたると反論した。多くの図書館の個々の蔵書の著作権者の許可を得ることは現実的ではないし、禁止的でさえあると主張した。

 もっとも出版社から本を提供してもらう出版社プログラムに対しては、両協会とも訴訟を提起していない。グーグルと著作権者との契約にもとづいて実施されているので、著作権は侵害していないからである。さらに全米出版者協会の訴訟に加わっている出版社の多くは、出版社プログラムに参加している。デジタル化により検索可能にすることは、ユーザーが書籍を発見する機会を増やすので、契約にもとづいてデジタル化することはむしろ歓迎しているのだ。


フェアユースは成り立つか?

 グーグルによるフェアユースの抗弁の成否を占う手がかりは、ウェブ検索、すなわち画像検索や文書検索に関する判例である。米国の裁判所は、画像検索サービスについての2件の判例および文書検索サービスについての1件の判例で、検索エンジンのフェアユースの抗弁を認めている。まず、それらの判例を総括する。

(1)使用の目的および性格

 画像検索については、検索エンジンによる画像使用は確かに商用目的だが、縮小されたサムネイル画像は原告の写真の目的(芸術的表現)に新たな目的(ネット上の情報)を加えるものなので、原作品に取って代わるものではなく、変容的使用といえる。この変容的使用が商用目的を上回るので、被告有利と判定。

 画像検索、文書検索を問わずウェブ検索では、ウェブサイトを検索されたくなければ、除外してもらう(オプトアウトする)業界共通の方法を用意していた。また、検索結果を表示するページに出てくるリンク先をクリックしても、サイトが削除や閉鎖などの理由で閲覧できず、「ページを表示できません」というメーセージが返ってくることがままある。いわゆるリンク切れである。そうした場合に「キャッシュ」という表示をクリックすると、クローラーとよばれるウェブサイトを巡回するロボットが最後にサイトを訪れた時に一時複製(キャッシュ)した情報を表示してくれる。キャッシュはもともと検索用の索引作成のために必要な作業なのだが、それをリンク切れ対策にも利用したわけである。検索エンジンはこうした新たな目的を付加していることから、文書検索サービスについても原作品に取って代わるものではなく、新たな目的を加えるものであるとして、被告有利と判定。

(2)著作物の性格

 原作品に著作物性は認められるので、原告に有利であることは確かだが、ネットに公開しているので、若干有利であるにすぎないと判定。

(3)使用部分の量および実質性

 ホームページ全部を複製していることは原告に有利に働くが、全部複製しないと検索サービスが成り立たないこと、検索サービスの社会的効用が高いことなどに鑑み、原告、被告のどちらに有利に働くともいえない(中立的である)と判定。

(4)市場への影響

 原作品の市場に悪影響をもたらすような事実は認められないとして、被告有利と判定。
 
 裁判所は4要件を総合してフェアユースを判定するが、以上を総合すると、第1、第4要件が被告有利、第2要件が原告若干有利、第3要件が中立なので、被告によるフェアユースの抗弁を認めた。

 これをブック検索にあてはめて考えてみよう。

(1)使用の目的および性格

 文書検索では、ユーザーがリンク切れで原作品にアクセスできない場合にも、キャッシュ機能がウェブサイトのコンテンツにアクセスできるようにしていることから、原作品に取って代わるものでなく、新たな目的を加えるものと認定された。ブック検索も絶版になった書籍にアクセスできるようにしている点では、キャッシュ機能に類似した目的を付加している。相違点は、ウェブサイトの情報はたとえリンク切れになっていてもほとんどの場合はつい最近までアクセスできたコンテンツであるのに対し、ブック検索では絶版になって何年も経ったコンテンツも多いことである。それらは原作品に取って代わるおそれは小さく、今まで入手困難だった書籍をアクセス可能にするものなので、間違いなくグーグルに有利に働く。

 問題はオプトアウトである。ウェブ検索ではオプトアウトが業界的に確立していたが、ブック検索ではそうではなかった。その前にまずブック検索サービスが決してグーグルの専売特許ではない点について説明しておく必要がある。

 Google図書館プロジェクト開始直前の2005年10月、検索サービスでグーグルを追うヤフー、マイクロソフトとも相次いで図書館構想を発表した。ネット上の情報量をはるかに上回るオフライン情報の主要部分を占める書籍情報までカバーすれば、検索サービスのアクセス数を飛躍的に増加させ、そこから新しいビジネスチャンスが生まれる可能性は十分ある。

 米国内のウェブ検索市場では、現在グーグルが60%のシェアを占め、20%のヤフー、10%のマイクロソフトは大きく水を空けられている。書籍情報独占を許せば、ウェブ検索でもグーグルの一人勝ちは避けられない。ヤフー、マイクロソフトとも追随する以外の選択肢は残されていなかったのである。そこで2社はグーグルのサービスとの差別化を著作権に対するスタンスに求めた。著作権者の反発を招かないよう、著作権が切れ、パブリック・ドメインとなった書籍や著作権者が明確に許諾した作品のみを対象としたオプトイン方式を採用したのである。ブック検索については、オプトアウトはグーグルのみが採用する方式で、ウェブ検索のように業界として確立された方式とはいえなかった。しかし、図書館の書籍のうちの60~70%は絶版になっているか市販されていない書籍だとされる。それらをカバーできるオプトアウト方式のメリットは計り知れないので、採用しているのがグーグル1社だけでも原作品に新たな目的を加えるものと認定される可能性は十分ある。となると、この要件についてもウェブ検索同様、グーグル有利の判定が下りる可能性は十分ある。

(2)著作物の性格

 書籍については、原作品の著作物性は言うまでもなく十分認められる。ウェブ検索の場合は著作権者が自発的にコンテンツをデジタル化してネットにアップロードしているから、ウェブ検索ではこの要件は被告に不利であるとしても若干不利に働くにすぎない、ということになった。しかしブック検索ではこれらの作業をグーグルが実施していて、著作権者は何もしていないので、この要件はグーグルに明らかに不利に働きそうである。

(3)使用部分の量および実質性

 絶版の書籍をアクセス可能にしてくれるなど、ブック検索もウェブ検索に勝るとも劣らない社会的効用をもたらす。書籍全体をスキャンしなければそのサービスは提供できない。以上から、この要件はウェブ検索同様、どちらに有利とも判定できない(中立的である)。

(4)市場への影響

 原作品の市場を奪うどころか、ブック検索サービスがなければ、世の中に知られなかった絶版の書籍などの市場を開拓する可能性があることからグーグル有利と判定される。

 以上4要件を総合して考えると、グーグル有利、という答えが導き出される。

 グーグルのように資金力豊かな企業は、不利な判決が下りそうな訴訟は和解に持ち込める強みがある。かといって、和解金目当てにグーグルを訴えるのもリスクが伴う。

 確かにウェブ検索の3つの判例は西部の州の裁判所が出したもので、今回提訴されたニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所に対する拘束力はない。しかし、同地裁は全米でも最もフェアユースの抗弁を認める連邦地裁でもある。

 こうみてくると、裁判に持ち込んだとしてもグーグルに勝算はかなりある。にもかかわらず和解の道を選んだのはなぜか。


グーグルの思惑

 第1の理由は「時間」である。グーグルはこのプロジェクトを「われわれにとっての月ロケット打ち上げ計画」と位置づけ、10年以内の実現をめざしている。1961年にケネディ大統領は、60年代のうちに人類を月面に着陸させると宣言した。目標達成期間もそれになぞらえているのである。目標実現に向けて、すでに世界で30の図書館がプロジェクトに参加し、700万冊の書籍をデジタル化した。ところが、訴訟の方は提起されてからすでに3年経過しているにもかかわらず、事実審理すら始まっていない。証拠開示などに時間がかかっているのだろう。グーグルとしては、まだ地裁判決も出ていない裁判の結果を待つよりも、和解によってプロジェクトのゴーサイン、特に争点となっているオプトアウト方式に対するお墨付きが得られれば、ブック検索でも優位に立て、その結果ウェブ検索のシェアをさらに拡大できる。ネット市場では先に市場をおさえた者が一人勝ちする(Winners take all)傾向がある。先手必勝のためには「時は金なり」なのである。

 第2の理由は「和解内容」だ。和解金の総額は1億2500万ドル(125億円)とされている。年商200億ドル(2兆円)の1%にも満たない額と引き換えにグーグルの勝ち取ったメリットは計り知れない。その具体的な内容について、次回解説する。


<筆者紹介>城所 岩生(きどころ いわお)
成蹊大学 法学部教授/米国弁護士

東京大学法学部卒、ニューヨーク大経営学修士・法学修士。1965 年NTT入社、1986年から米国現地法人の幹部を歴任した後、1994年退社。米国弁護士、国際大学グローバル・コミュニケーションズ・センター客員教授を経て、2004年から現職。専門は情報通信法、アメリカ法。著書:「米国通信戦争」(1996年、日刊工業新聞社)、「米国通信改革法解説」(2001年、木鐸社)


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