【ネット時評 : 飯盛義徳(慶應大学)】
情報技術で地域を拓く

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 地域情報化は明らかに次のステージに突入している。11月7日に開催された日経地域情報化大賞シンポジウム2008に参加し、この意をさらに強くした。地縁と知縁の相互作用によって、地域の問題解決の糸口が見出せるようになったのだ。これから情報技術で地域を拓くためには、新しいつながりを形成し、人的ネットワーク、知識などの資源をもやい(共有)し、創発をもたらすプラットホームの設計ができるアーキテクト型人材の育成が急務だ。
 

地域情報化は新しいステージへ

 1995年ごろからインターネットの利用人口は爆発的に増加し、新しい「地方の時代」の到来が期待されるようになった。全国の自治体では、情報ネットワーク基盤の整備が急ピッチで進められ、電子自治体の推進も活発だった。2000年前後を境に、ブロードバンドの普及と相まって、地域情報化は新しいステージを迎える。コミュニティー、教育、医療、高齢者福祉、観光、農水産業、伝統産業などの分野において情報技術を駆使し、地域の多彩な主体の新しいつながりを形成することで自治体にも企業にも対処が難しい問題の解決を図る「地域情報化プロジェクト」が各地で勃興しているのだ。

 一定期間継続し、成果をあげているプロジェクトはまだ数少ないものの、ひとつのプロジェクトの中で複数の事業が立ち上がったり、他地域にまで伝播するものも現れている。例えば、1999年、私が故郷・佐賀市で設立したNPO法人の「鳳雛塾(ほうすうじゅく)」。遠隔授業、地域独自のデジタル教材などを取り入れた、社会人、大学生向けの起業家育成事業からスタートし、2002年に小学生、2003年からは高校生を対象としたキャリア教育事業に取り組んでいる。さらに、2004年、富山鳳雛塾が設立され、2005年に藤沢鳳雛塾、2008年には横浜鳳雛塾が立ち上がった。

 新たな動きの中でも最も目覚ましい成果をあげているのが、日経地域情報化大賞2008で大賞を獲得した「OpenSNP地域情報プラットホーム連携プロジェクト」であろう。OpenSNPは、市民ボランティアの手で学校のネット環境を整備する「ネットデイ」の日本における草分けでもある和崎宏氏が、地域のつながり再生を目指して2006年に立ち上げた地域SNS「ひょこむ」(兵庫県)の基盤技術として開発したものだ。昨今では、OpenSNPをエンジンとしている地域SNSは「ハマっち!」(横浜市)、「モリオネット」(盛岡市)、「トーホーMedia Cafe」(福岡県東峰村)など全国20カ所以上に広がりを見せており、各地でまちづくり活動や地域間交流もはじまっている。このように、どこかの地域で生まれ、磨かれていった地域情報化プロジェクトは、他の地域でも問題解決を果たすプラットホームとして機能するようになる。

 鳳雛塾やひょこむのように、新しい事業が次々と生まれるプロジェクトのメンバー構成を見ると、ほぼ毎日連絡を取り合うコアメンバーと、それ以外の一般メンバーとのネットワークが共存している。これは、ネットワーク論で議論されている「強い紐帯(ちゅうたい)、弱い紐帯」が融合した構造ともいえよう。興味深いのは、一般メンバーの中から、新しい事業を生み出すメンバー(サポーター)が登場することだ。サポーターは、通常、人に誘われてなど気軽な理由でプロジェクトに参加する。その後、何かのきっかけで新しい事業の情報をもたらし、リーダーとして事業を担うようになる。後に、サポーターは、社会起業家として活躍することも多い。


地域の「もやい」を取り戻せ

 「おもやいばせんね」(佐賀弁で、仲良く共有しなさいという意味)。幼いころ、おもちゃの取り合いをして兄弟げんかをすると、こう母親に叱られたものだ。「もやい」とは、共同作業、利益の共同分配のことであり、地域においては、乏しい資源を共有し、全体最適を実現するための知恵でもあった。例えば、佐賀県の農村部では、江戸時代中期ごろから始まったといわれる「三夜待」という月ごとの寄り合いが今でも行われている。そのほとんどは、近所同士が親交を深めるために、順番で自宅に招待して会食をする行事であり、近隣との信頼関係を紡ぎ、農作業などの相互扶助を円滑にするための重要な行事として機能している。また、周辺の情報を共有する格好の場でもあり、回覧板がいらないところもあるという。

 しかし近代化の進展によって、ほとんどの地域では地縁のつながりが薄れ、従来までの問題解決の手立てであった相互扶助やもやいの機能が失われつつある。このような状況の中、地域情報化プロジェクトに注目が集まっているのは、情報技術、フェース・トゥ・フェースのコミュニケーションを駆使して、志を同じくする住民、企業、自治体、教育機関などが新しいつながりを創出し、情報、知識の共有、すなわち地域のもやいを取り戻し、問題解決を実現する可能性が見出せるようになったからである。

 ここで注目したいのは、上述のサポーターが口々に語っている「オープン」というキーワードだ。調査の結果、プロジェクトの資源である、技術・ノウハウ、人的ネットワーク、ブランドが誰でも活用できる、積極的に供与されていることがサポーターの事業推進のインセンティブになっていることがわかった。これらは、長年の活動で培われた、希少性があり、簡単に真似のできない資源だ。

 さらに、地域情報化プロジェクトのほとんどは、NPOや任意団体など、企業のように厳密ではない組織によって運営されており、予算は潤沢ではない。資源をオープンにしているからこそ、産官学など多様な主体間でのもやいによる運営が実現できている。それが主体間の互酬性の規範の醸成につながり、ひいては信頼形成に寄与していると考えられる。だからこそ、資源もオープンにできるという好循環につながっている。そして、活動が伝播すると、もやいの範囲は他地域にも拡大し、より高度な問題解決の道が開けるようになる。


アーキテクト型人材育成を急げ

 地域情報化プロジェクトを花開かせ、各地に広めていくためにはどうすればいいのだろうか。私は、人材育成が大切なポイントの一つだと考えている。これを怠れば、地域情報化において画竜点睛(がりょうてんせい)を欠く。

 地域情報化プロジェクトにはいくつも課題がある。萌芽的なプロジェクトがほとんどのため、全国的に知名度が低い。成果をあげていても、地元でもあまり知られていないこともある。さらに、希少性のある資源をオープンにして、もやいを実現するという運営モデルは、競争優位を築く企業とは異なり、ビジネスモデルの構築は容易ではない。また、地域情報化プロジェクトは、地域の問題解決を図るという社会的使命が重視されるボランタリーな活動が中心のため、メンバーに与えるインセンティブには制限がある。何かの権威にもとづく強制、命令なども難しい。

 日経地域情報化大賞2008シンポジウムにおいて、前述の和崎氏、西千葉の地域SNS「あみっぴぃ」を運営する虎岩雅明氏は、つながりを形成し、参加者が何かの活動をはじめるための秘けつは、主催者が何も手を下さないことだと断じた。指示をしてしまうと参加者の主体性が失われ、長期的にはマイナスだという。すなわち、地域情報化プロジェクトの効果的運営には、いかにして信頼を形成し、インセンティブを与え、継続的に協働、創発をもたらすことのできるプラットホームを設計するのか、アーキテクトとしての視点をもった高度なマネジメント能力が要求されることを示唆しているといえよう。

 では、このような人材を育むにはどうすればよいのだろうか。注目したいのが大学の役割だ。私が勤務している慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスでは、大学院生などを対象とした地域情報化論という授業を2007年度に開講した。2009年度からは、大学院社会イノベータコースを設置し、個益と公益の両立を実現できる高度なマネジメント能力をもったプロフェッショナルの養成を行う。さらに2008年度、地域情報化に関する実践知を形成するための拠点「地域情報化研究コンソーシアム」も設立した。

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福岡県東峰村における地域情報化プロジェクトの様子

 また、2006年度から私の研究室では、実績のある地域情報化プロジェクトを移植し、地域活性化を目指すという研究プロジェクトを福岡県東峰村で実践している。成果を語るには早過ぎるものの、学生諸君の活躍によって、東峰村でも新しいつながりが形成され、地域資源をコンテンツとして発信する活動が自発的に立ち上がり、地域活性化を担う複数のリーダーが誕生した。高倉秀信村長からは「奇跡が起きた」との言葉をいただいた。

 今後は、プロジェクト実践、理論研究、教育の相乗効果によって、地域情報化をリードする人材育成を通じて、地域から日本を元気にする大きな流れをつくりたいと念願している。多くの方々のご理解、ご支援を賜りたい。


【参考文献】
・飯盛義徳「地域にふさわしいアントルプレナー育成モデルを目指して」日本ベンチャー学会『Japan Venture Review』No.6、2005年2月、pp.63-70
・飯盛義徳「地域情報化プロジェクトにおける事業創造のマネジメント」情報社会学会『情報社会学会誌』Vol.2, No.2、2007年6月、pp.20-33
・飯盛義徳「地域のつながりを取り戻す」国際大学グローバル・コミュニケーション・センター『智場』No.111、2008年4月、pp.46-54
・國領二郎、飯盛義徳編著『「元気村」はこう創る』日本経済新聞出版社、2007年
・丸田一、國領二郎、公文俊平編著『地域情報化 認識と設計』NTT出版、2006年

<筆者紹介>飯盛義徳(いさがい よしのり)
慶應義塾大学総合政策学部准教授 兼 政策・メディア研究科委員
1964年佐賀市生まれ。1987年松下電器産業入社。富士通出向などを経て、1992年慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程入学。1994年同校修了(MBA取得)後、飯盛教材株式会社入社。1997年常務取締役。2000年佐賀大学理工学部寄附講座客員助教授。また、アントルプレナー育成スクール「鳳雛塾」を設立。2001年(有)EtherGuy設立、代表取締役。2002年慶應義塾大学大学院経営管理研究科博士課程入学。2007年同校修了、経営学博士。2005年慶應義塾大学環境情報学部専任講師。2008年同大学総合政策学部准教授、現在に至る。専門は、地域情報化、まちづくり、地域イノベーション、経営情報システムなど。2003年度、鳳雛塾は、日経地域情報化大賞日本経済新聞社賞を受賞。総務省・地域情報化アドバイザー、総務省・過疎問題懇談会委員、総務省・地域力創造有識者会議委員、(財)全国地域情報化推進協会普及促進委員会地域情報化人材育成ワーキンググループ主査、福岡県・新ふくおかIT戦略会議委員などを務める。論文多数。主著に『「元気村」はこう創る』(日本経済新聞出版社、2007年)ほか。

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