【ネット時評 : 田澤由利(ワイズスタッフ)】
日本はテレワーク大国になれる!――米国視察で見えた確信と課題

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 新しい年の始まりにあたり、私が最近得たひとつの確信についてお話したい。それは「日本はテレワーク大国になれる!」である。
 

 2008年11月、私はアメリカ国務省のプログラム「インターナショナル・ビジター・リーダーシップ・プログラム(以下IVLP)」の招待を受け、3週間かけてアメリカ各地を訪問した。過去には、海部俊樹元首相や小池百合子元防衛大臣、作家の村上春樹氏など、政治家やジャーナリストが、若き日に招待されている歴史あるプログラムだ。今回のIVLPに私を選んでいただいた理由は「LUCKY」という言葉でしか語れないのだが、この機会を逃すほど、私は遠慮深くない。訪問テーマを、この10年取り組んできた「テレワーク」をメインに設定し、アメリカにおけるテレワークの現状をこの目で見てきた。

 こうして貴重な旅を終え、私は冒頭の確信を持つことができた。アメリカのテレワークを知ることで、乗り越えるべき課題が見えてきたからである。


3週間で、全米5都市40カ所以上の企業や団体、個人を訪問

 IVLPでは、アメリカの大都市だけではなく大小さまざまな都市を訪問する。今回、私が3週間で訪問した都市は、ワシントン(連邦政府の中枢都市)、カラマズー(地方都市)、シカゴ(全米3位の大都市)、ダラス(地方の商工業都市)、シアトル(ITの先進都市)の5カ所。それぞれの地域のボランティアが、私の目的に応じたプログラムを作り、訪問先のアポをとり、そのアテンドまでしてくれた。ボランティア団体の活動の素晴らしさもアメリカならではである。


<図1>
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3週間のIVLPで、アメリカの都市5カ所を訪問した


<図2>
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訪問先は、個人から中小企業、大企業など40カ所を超えた


私が感じた、アメリカと日本のテレワークの違い

 2006年度に日本テレワーク協会が総務省請負事業として実施した「テレワークの推進のための調査研究」によると、2002年時点のアメリカにおけるテレワーク人口は24.6%。一方、日本におけるテレワーク人口は2005年時点で10.4%(国土交通省調査)。政府は、2010年に20%という目標をかかげ、テレワーク人口倍増アクションプランを推進中である。

 この数字だけ見ると、アメリカは「テレワーク先進国」であり、日本はそれを追いかける形となっている。しかし、実際はどうなのか。それを自分の目で見てくることが、私の大きな目的でもあった。個々の訪問の報告は膨大になるので、今回の旅で私が感じた「アメリカと日本のテレワークの違い」を図にしてみた。


<図3>
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IVLPの視察で感じた「アメリカと日本のテレワークの違い」


 アメリカのテレワークと日本のテレワークの現状を、あえて(極端に)表現してみると、以下の通りだ。

・アメリカは「石橋を叩かずに、渡っている」

・日本は「石橋を叩いてばかりいて、なかなか渡れずにいる」

まさに対照的だ。ここはいいとこ取りをして「石橋を叩きながら、渡る」のが、理想ではないかと感じた。


テレワーク普及のための2つの重要課題

 テレワークは、「場所や時間に縛られない働き方」である。

 「場所」が自由になることで発生する問題点は、従来「同じ場所にいる」ことで実現できていたコミュニケーションがとりにくくなることだ。これを克服するには、「同じ場所にいなくても」コミュニケーションがとれる道具や環境を用意する必要がある。

 一方、「時間」はどうだろうか。「時間」が自由になることで発生する問題点は、時間で労働を評価できなくなるということだ。これを克服するには、「時間に応じた報酬」という考え方ではなく、「業務成果に応じた報酬」にする必要がある。

 このような理由で、テレワーク普及のためのポイントは、以下の2点ではないかと、以前から考えていた。

【1】仕事の進め方
【2】労働の評価方法

 そして今、IVLPの旅でアメリカと日本のテレワークの違いに触れ、それは確信に変わった。

 まず、アメリカにおけるこの2つのポイントについて考えてみよう。

【1】仕事の進め方
アメリカでは、「ジョブディスクリプション(職務記述書)」が浸透している。1人のワーカーの業務範囲が明確になっているため、責任がある分、個人の判断で作業できる。つまり、「離れた場所にいても、仕事を進めやすい」ということだ。

【2】労働の評価方法
アメリカでは、日本では導入が見送られた「ホワイトカラーエグゼンプション(労働時間規制適用免除制度)」を採用している。個人の業務に対する「成果主義」が基本にあり、(最低要件はあるものの)時間に縛られずに仕事が可能な報酬体系ができている。つまり「離れた場所にいても、業務評価する方法がある」ということだ。

 これらの結果、アメリカは、テレワークを導入しやすい背景や環境がすでにあったため、「いざ導入」となったときに、普及しやすかった、と言えるだろう。
             
 一方、日本はどうだろうか。

【1】仕事の進め方
「大部屋主義」という言葉にあるように、日本では仕事の分担が明確ではなく、部課単位で協力し合い、相談し合い、1つの仕事を進めていく傾向がある。また、相手の表情や口調から本意を読み取ったり、他の人の様子を見ながら臨機応変に仕事を進める。つまり、チームで仕事をすることが多く、仕事を分担しにくい。かつ「実際に会う」というコミュニケーションへの依存度が高い。つまり「離れた場所にいると、仕事を進めにくい」と言える。

【2】業務の評価方法
日本の労働基準法は、労働時間を業務評価の基準としている。1987年の改正で、変形労働時間制、裁量労働制などが導入されたものの、日本の労働者の評価(つまりは報酬)の基本は、労働時間である。だから「離れた場所(時間管理がしにくい)で仕事をしていると、労働の評価がしにくい」ということになる。


日本が「テレワーク大国」になると確信した理由

 ここまで読んだ方は、「日本はテレワークは無理ではないか」と感じられただろう。しかし、私は違う考え方をしている。

 アメリカは、確かにテレワークを導入しやすい背景や環境があったために、導入を進めやすかった。しかし、やりやすい分、本質の「問題点」を認識しないまま導入が進み、その対策はそれほど進んでいないのではないか。
                      
「コミュニケーション? メールで連絡できれば、大丈夫」「情報漏えい? 大事な情報は持って帰らないようにしている」「在宅勤務中にけがをした場合? 会社はPCの前で仕事をすることを指示しているだけ。にも関わらず大怪我をしたら、それは自己責任」「生産性の効率が上がるかどうかは、マネージャー次第」――「まず行動しよう」というアメリカならではの考え方は、日本も見習うべきだと思う。しかし、対策を講じていないと、問題が発生した時に足踏みしてしまう可能性が高い。

 さらに大きな問題がある。アメリカは業務範囲が明確で、仕事は個人の裁量という傾向があるため、労働者が情報やノウハウの多くを保持している。その社員がなんらかの理由(病気による休業、退職など)で、業務継続ができなくなったら、企業は、その個人に蓄積されていたノウハウや情報も失うことになる。特に、テレワークが普及すると、その可能性がより高くなる。

 では、日本における「大部屋主義」はどうだろう。日本では個人の業務範囲が明確でない分、上司と同僚の会話や電話の内容など、常にまわりの様子に配慮し、臨機応変に業務を進める。たとえ、1人の社員が急に仕事を離れることになっても、まわりがフォローできるのだ。

 またアメリカにおけるホワイトカラーエグゼンプションも、「過剰労働」という大きな課題を抱えている。「管理できないから、管理しない」という考え方で、何も対策を実施していかないと、この問題がテレワークの普及と比例してこれからもっと大きくなっていく危険性がある。
               
 日本は、確かに数字上では、まだまだテレワークが普及していない。また、テレワークが普及しやすくなる背景や文化も浸透していない。しかし、それゆえに日本は、テレワークを普及させるための課題の認識や法的・技術的な取り組みは、他国に比べて進んでいると私は思う。

 2007年に、内閣府から「テレワーク人口倍増アクションプラン」が発表されて以来、経済産業省、国土交通省、総務省、厚生労働省が、それぞれの立場から施策を実施している。パナソニック、NEC、サントリーなど大手企業が積極的にテレワーク(在宅勤務制度)を導入しはじめている。ICT関連の企業が、テレワークのためのコミュニケーションツールやセキュリティーシステムを開発、販売を開始している。テレワークという新しい働き方を意識した、法改正も検討されている。

 テレワーク人口比率で先行しているから、という理由で、アメリカのやり方を模倣するだけではだめだ。日本の働き方にあったテレワーク施策を実施すれば、より「安全で」「コミュニケーション度の高い」「情報共有が可能な」日本型テレワークを実現できる。そうすることで、日本は他国に負けない「テレワーク大国」になることができるのだ。


日本が「テレワーク大国」になるための重要ポイント

 では、「テレワーク大国」になるには、具体的にどうすればいいか。答えは、先にあげたテレワーク普及のための2つのポイントにある。

 【1】仕事の進め方――アメリカを見習い「ジョブディスクリプション」を進めることがベストな方策だとは考えていない。日本には日本のやり方がある。「大部屋主義」のメリットを生かしつつ、離れたところで働いていても「大部屋」を実現することが重要なのだ。

 あたかもそばにいるように、日本的仕事の基本である「ほうれんそう(報告・連絡・相談)」コミュニケーションをしっかりととれる環境をネットワーク上に実現させ、チーム業務を「見える化(可視化)」することで、「大部屋主義」のメリットをより高めることができる。さらに頻繁なコミュニケーションは、「仕事をしている」ことの確認にもつながる。

 私は、この大部屋をネット上で実現することを「ネットオフィス」と呼び、この10年、その実践と提案に取り組んできている。詳しくは、2007年に以下の記事を書いているので、ご参照いただけるとうれしい。

「テレワーク導入で、企業の生産性は向上するのか・ネットオフィス型テレワークの提案」

 ただし最近は、日本でも「メール」を業務連絡に使うケースが増えており、たとえ大部屋にいても「隣の席は何する人ぞ」という状況が増えている。これは、IT化の方向性としては、あまり望ましくない。「ITを使った大部屋主義の適切なIT化」は、テレワークに限らず、「企業の生産性向上」の過程で、いずれ必要になると私は予測している。

 【2】労働の評価方法――労働の評価方法については、徐々にでも変えていく必要があるだろう。長引いた少子化により、日本は少なくとも今後20-30年、労働力不足時代となる。現時点でも、日本の労働生産性は、2007年時点でOECD加盟国30カ国中20位と決して高くない(資料:社会生産性本部「労働生産性の国際比較・2008年版」)。このまま労働力不足時代を迎えると、日本はどうなってしまうのか。

 労働者の数が限られる中、生産性を向上させる(あるいは維持する)には、「時間あたりの業務効率をアップさせる」必要がある。しかし、今の日本では、「長く働けば、報酬が増える」。つまり、時間あたりの業務効率をアップさせた労働者は、報酬が減ることになる。これでは、国全体の生産性は向上しない。
                      
 では、どうすればいいのか。私は、労働の評価単位を「時間」ではなく、「業務」にできないか、と考えている。ベースとなる報酬(基本月給のようなもの)を設定した上で、担当した業務単位で評価、報酬を決定するというものだ。1カ月の間により多くの業務をこなした人の報酬が高く、少ない業務だった人の報酬が低くなる。

 これは、業務処理能力に応じた適正報酬という意味はもちろん、個人の事情(出産、育児、介護など)によって業務量の調整ができることもポイントとなる。たとえば、独身で仕事に燃えている時期は、業務を増やしてより多くの報酬を得、子育て期間中は業務量を減らし、子育てが終わったら、また業務量を増やすなど、ワークライフバランスを考えた「柔軟な働き方」を実現するための労働の評価としても、有効と考えている。


最後に

 私は「テレワーク」の推進者であるが、信奉者ではない。テレワークが万能だとは決して考えていない。しかし、日本はさまざまな問題を解決するために、柔軟な働き方ができる社会を目指す必要があり、その中にテレワークという選択肢があるべきだと確信している。

 時間短縮、残業廃止、育児休業の期間延長など、今の日本は、ワークライフバランスのための「柔軟な働き方」を「働く時間を減らす」ことと捉えている節がある。しかし、私はそれだけではないと考えている。「働かない」という選択肢だけでなく、テレワークで「時間や場所に縛られずに働く」ことも、「柔軟な働き方」における重要な選択肢なのだ。

 2009年の始まりは、日本にとって決して明るいものではなかったかもしれない。だが、私たちはその状況を変えることができるはずだ。オバマ次期大統領が熱く語った「CHANGE」は、アメリカの専売特許ではない。働き方を考えることは、個人の生き方の問題だけにとどまらない。経済、社会全体を、そして未来を変える取り組みである。2009年がその大きな一歩を踏み出す年になるよう、日本中の仲間たちと積極的に行動していきたい。「Yes, We Can!」


<筆者紹介>田澤 由利(たざわ ゆり)
ワイズスタッフ代表取締役
奈良県生まれ。上智大学外国語学部イスパニア語学科卒業。シャープ(株)にてコンピュータ関連の技術、企画、販売促進等の業務に従事した後、フリーライターとして独立。以来、3人の娘の出産、夫の5度の転勤による引越しを経つつ、SOHOとして、パソコン関連の書籍や雑誌のライティングをする。98年、SOHOがチームを組んで仕事をする「ネットオフィス」実現に向け、ワイズスタッフを設立。現在では、自社で開発し、2003年1月に発表した『ネット上のプロジェクト運営ツール「Pro.メール」』を活用して、海外を含む全国各地のSOHOスタッフ約100名が50ものプロジェクトを同時に運営している。2005年4月、株式会社ワイズスタッフに組織変更。主な業務内容は、ホームページ制作・メールマガジン編集・マーケティングなど。会社の拠点は、北海道北見市。


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