【ネット時評 : 片淵仁文(総務省)】
企業力強化にテレワーク活用を

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 昨年秋の金融危機に端を発する世界同時不況が進む中で、わが国の企業経営や雇用環境を取り巻く状況は厳しさを増している。企業力の強化が求められているこういう時こそ、ICT(情報通信技術)の有効活用による経営強化や、ICTを活用した働き方であるテレワークの導入について検討する絶好のタイミングではないかと考える。これまで、テレワークの導入について考えたこともない方も、知ってはいるが自分の会社には関係ないと考えている方も、世界最高水準にあるブロードバンド環境を含めたICTの利点を生かす方策として「テレワーク」の可能性について、ぜひ考えていただきたい。
 

 テレワークは、ICTを活用した場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のことである。自宅を就業場所とする在宅勤務や、いつでもどこでも仕事が可能なモバイルワークなどがある。さらに広く言えば、SOHOなどの独立自営の形態も入るが、ここでは、企業で働く人を対象にしたものを取り上げることとする。ICT技術の活用を図る先進的な企業や、社員のワークスタイルの変革に積極的な企業を中心にテレワークの導入が進められてきているが、多くの業種や職種、また特に中小企業などでは、まだまだ導入が進んでいない。未導入の企業から話を聞くと、様々な理由が挙げられるが、これには、誤解や思い込みも多いように思われる。

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本当にオフィスにいないと仕事にならないか

 「職場にいないと仕事にならない」「目の前にいないと本当に仕事をしているのかわからない」といった声や、「なんとなく大部屋で仲間といっしょに仕事をした方がよいのでは」といった日本特有の就労感覚に基づくような声を耳にすることも多い。しかしながら、ブロードバンド環境や様々なコミュニケーションツールを活用すれば、電話やメールでのやりとりはもちろんのこと、いつでもテレビ電話による打ち合わせをしたり、WEBを使って会議をしたり、さらには、メンバー相互の執務風景を共有することも可能である。最近では、離れた状態でもタイミングよく仕事を行うために「プレゼンス機能(自分の状態を表示する)」を活用する例も見られる。実際にテレワークを経験した人に聞くと、在宅勤務の場合、通勤に伴う負担軽減や時間の有効活用だけではなく、集中的に仕事ができ効率的だったなどの意見も多い。

 また、オフィスでの業務を効率化し、顧客との接点をできる限り増やそうという流れは、今回の景気悪化を通じてさらに強まるのではないかと考えるが、モバイル技術を活用することによって、こうした顧客主義のワークスタイルが次々と現実になりつつある。オフィスに帰ってくる時間があったら少しでも長くお客さんと接する時間に充てる、移動時間を活用してオフィス業務を行う、組織力を高めるためのコミュニケーションを、オフィス内に限らずタイムリーに、状況に応じて柔軟に行う――こういったことが、テレワークの活用により可能となる。


「新型インフルエンザ」にも・テレワークの様々な効果

 最近では、フリーアドレス(座席を固定しない)を採用している企業も増えつつある。テレワーク導入企業の例を調べると、テレワーク導入に伴う業務やオフィスの見直し、ペーパーレス化による効果として(業務等の見直しやペーパーレス化の結果としてテレワークを導入する場合もあるが)、スペースや紙などオフィスコストの削減や、通勤手当の削減効果などがみられる。そして、テレワークのシステムは非常災害時の対応にもつながる。特に最近では、アメリカなどで新型インフルエンザ対策としてテレワークを導入する企業が増えており、日本でも災害時の事業継続の確保の観点から導入を検討する企業が増えつつある。なお、企業が一層の取り組みを求められているCO2の排出削減についても効果があると考えられている。最新の調査結果では、就職を希望する人は、テレワークを導入している企業に対して、「ワークスタイルの変革に取り組んでいる企業」「ワーク・ライフ・バランスに取り組んでいる企業」「ICTを活用している企業」「柔軟な風土を有する企業」「先進的な企業」など高いプラス・イメージを示しており、テレワークの導入は、会社の将来を担う優秀な社員の確保にもつながる。

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テレワークへの誤解を解く

 テレワークについて多少知識のある方の中には、出産や子育て中の女性のために、ワーク・ライフ・バランスや少子化対策として実施するものと思っている人も少なくない。確かに、出産や育児と仕事の両立を図る人にとって有効なものであるし、そういう人を対象に導入している企業もある。最新の調査結果でも、育児期の就労継続・育児時間の確保のために、テレワークを希望する人は多く、他の社内制度(短時間勤務制度、フレックスタイム制、所定外労働時間の免除制など)と比べても、就労時間の自由度、肉体的・精神的な疲労の低減といった点でテレワークにメリットを感じる人も多い。そしてこのことは、育児だけではなく、介護の場合も当てはまる。

 しかしながら、そういうイメージを前提として、自分の会社ではワーク・ライフ・バランスを進めるゆとりはない、と考える経営者の方が多いのは、これまで述べたようなテレワークの多様な効果について認識が不足しているとともに、そもそもワーク・ライフ・バランスについての誤解があるように思われる。こうした「誤解」と「正しいとらえ方」を下記にいくつか列挙しておく。こうした点も認識した上で、ワーク・ライフ・バランスの観点からもテレワークについて考えてほしい。

▽「少子化対策である」→社員の子育て支援だけでなく、子育て期も仕事を辞めずに仕事を継続することを希望する社員に対して仕事と子育ての両立を支援すること、つまり、社員のキャリア継続支援と考える。また子育て期だけではなく、すべての社員についてワーク・ライフ・バランスを考えることが大事。

▽「従業員のための福祉施策である」→単なる福利厚生施策ではなく、人材を確保しその社員に意欲的に仕事を取り組んでもらうために必要な人材活用上の施策である。

▽「ほどほどの働き方を推奨している」→ほどほどの働き方への転換ではなく、メリハリのある効率的な働き方の実現を図るものである。

▽「仕事重視のライフスタイルを変えるべきである」→「仕事中心」のライフスタイルを否定するものではない。多様な価値観やライフスタイルを受容できる職場とすることである。

 「製造業では困難」「中小企業では必要ない」という声もよく聞くが、テレワークについて正しく認識していただいた上での、工夫や発想の転換が望まれる。製造業でも、企画・設計や営業等の業務があるので、こうした取り組みやすい部署や対象者を特定して行うことも考えられる。中小企業についてもやり方次第で導入できるし、人材活用の重要性や効果は、むしろ中小企業の方が大きいといえる。


税制上の支援策も

 以上のように、テレワークは様々な効果が期待されるものである。利用するコミュニケーションツールは進化しており、今回は説明を省いたが、情報セキュリティーへの配慮や、より簡便な方法など、ニーズに応じて多様化しつつある。もちろん、導入する形態や対象等によって効果は異なってくるし、実際に導入する場合は、それぞれの企業や仕事の違い、職場の状況等に応じて考えることが重要である。

 繰り返しになるが、企業力の強化が求められる中で、ICTの利点を経営に生かす方策の1つとして導入を検討してほしい。総務省では、テレワーク導入のための税制上の支援策等を行っている(具体的な要件等は下記ホームページを参照されたい。なお、税制措置は22年度まで延長する予定です)。

総務省のテレワークに関するホームページ
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/telework/index.htm

<筆者紹介>片淵 仁文(かたふち ひろふみ)
総務省情報流通行政局情報流通振興課情報流通高度化推進室長
2003年厚生労働省政策統括官付労政担当参事官室室長補佐、2005年同省雇用・均等児童家庭局短時間・在宅労働課調査官、2006年同省沖縄労働局長。2008年より現職。

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