【ネット時評 : 谷脇康彦(総務省)】
通信・放送の総合的な法体系の見直し――ICT政策の現場から(下)

taniwaki2009.jpg
 
 絶え間ない技術革新や新しい事業モデルの登場によって、構造が大きく変わりつつあるブロードバンド市場。その発展を促していくためには、規制の絶え間ない見直しが不可欠だ。総務省の情報通信審議会は、08年2月から、通信・放送分野の法体系の見直しに向け、「通信・放送の総合的な法体系に関する検討委員会」(以下「検討委員会」)において議論をしている。計19回の審議を経て、去る6月19日に公表された答申(案)の内容についてご紹介したい。(文中に述べた意見は筆者の個人的見解です)
 

統合化するブロードバンド市場

 日本のブロードバンド市場は世界で最も進んでいる。低廉な料金で最高速のブロードバンドサービスを利用できる。固定系ブロードバンドサービスの契約者数は既に3千万を越えた。携帯電話加入者も1億1千万加入、その約93%が第三世代携帯電話だ。

 ブロードバンド化やIP化が進展する中、市場構造は統合化の方向に向かっている。具体的には、ネットワークとサービスの一対一の関係が崩れ、音声、データ、映像などの各サービスがネットワークの別を問わず、IP網の上を自在に流通している。

 また、固定通信と移動通信の垣根も段階的に取り払われていく。FMC(Fixed Mobile Convergence)と呼ばれるシームレスネットワークへの移行。ヒト対ヒトだけでなく、ヒト対モノ、モノ対モノの通信なども今後増加し、本格的なスマート・ユビキタスネット社会へと移行していく。

 さらにIP化によって、旧来の電話時代に存在していた地域、長距離、国際といった「距離」の概念もなくなりつつある。インターネットの普及やクラウドコンピューティングの登場によって、ボーダーレスな市場環境も現実のものとなっている。

 こうしたネットワークとサービスの自由な組み合わせが可能な環境は、ブロードバンド市場の「水平的統合」と言うことができる。

 もう一つの流れはブロードバンド市場の「垂直的統合」だ。かつて音声通話のみしか存在しなかった時代には、伝統的な電話会社がひとつの端末から別の端末まで、エンドエンドベースで音声というコンテンツを伝送していた。しかし、近年の市場構造においては、ネットワーク、伝送サービス、認証・課金機能などのプラットフォーム、そしてコンテンツやアプリケーションという複数の事業領域に分かれ、こうした領域を一社単独で提供する場合もあれば、複数社が連携して提供する場合もある。このように、縦方向に伸びる事業モデル、これが市場の「垂直的統合」である。

 こうしたブロードバンド市場の「水平的統合」や「垂直的統合」が進む中、2011年7月には地上テレビジョン放送のデジタル化が完了し、伝送ネットワークの完全デジタル化が実現する。この完全デジタル化は、コンテンツを劣化させることなく、多様な配信経路を通じて利用者に届けることができるようになることを意味する。

 2007年時点の日本のメディア・ソフト市場の規模は約11.4兆円。その中でマルチユース市場は2.5兆円(全体の約22.3%)を占める。また、パソコンや携帯電話などを通じて流通するコンテンツのネットワーク流通市場の規模は約9千8百億円(前年比約11.5%増)に達し、1兆円の大台まで間近となっている。

 こうした市場の統合化やコンテンツのネット流通市場の成長などが進む中、通信・放送関連市場を対象とする法制度も、市場の発展を阻害しないよう、また新産業の創出を促す方向で見直しをしていく必要がある。

 日本の通信・放送関連の法律は9本ある。具体的には、伝送設備関連の基本法が2本〔有線電気通信法、電波法〕、通信事業関連で3本〔電気通信事業法、NTT法、有線放送電話法〕、放送関連で4本〔放送法、有線テレビジョン放送法(CATV法)、有線ラジオ放送法、電気通信役務利用放送法〕ある。

 しかしながら、冒頭述べた市場の統合化が進展する中、通信と放送の境界領域的なサービスも多数登場してきている。例えば、IP網を伝送路として利用するIPTV、携帯電話などで放送コンテンツの視聴やダウンロードが可能な携帯端末向けマルチメディア放送などが挙げられる。

 こうした状況を踏まえ、現行9本の法律を再整理する。検討委員会は、通信・放送の融合・連携型の新しいサービスの登場を可能にするため、通信、放送、CATVなどのサービス形態ごとに個別に構築されてきた、いわゆる“サイロ型”の規制体系を改め、「伝送設備」「伝送サービス」「コンテンツ」という3つの事業領域に整理し、制度の集約・大括り化を図る方向性を打ち出している。

jihyo090713.jpg


動き始めた先進諸国

 諸外国の動きはどうか。まず欧州では、欧州委員会(EU)が「電子通信規制パッケージ」(02年3月)や「視聴覚メディアサービス指令」(07年12月)において、新しい法制度の枠組みを決定した。具体的には、「電子通信ネットワーク」「電子通信サービス」「視聴覚メディアサービス」という三層構造で枠組みをとらえている。つまり、「伝送設備」「伝送サービス」「コンテンツ」という今回の答申案と類似の整理学を採用しているのだ。

 ただし異なる部分もある。「視聴覚メディアサービス」に該当するコンテンツに適用される規律については、ビデオオンデマンド(VoD)など受信者(利用者)側で送信のタイミングを決定する「ノンリニアサービス」、放送番組など番組提供者が送信のタイミングを決定する「リニアサービス」の2つに分けられている。そして、「リニアサービス」の場合、名誉毀損が生じた場合の救済措置、未成年者への配慮など、コンテンツの内容まで踏み込んだ規律が適用されている。

 なお、EU指令はあくまで欧州レベルの方針であり、英国やフランスをはじめとするEU加盟各国において、現在、国内法制化の作業が進められている。

 お隣の韓国でも、08年8月、放送通信委員会が通信・放送に関する法体系の見直しに着手することを発表。現行の通信・放送関連法を整理・統合し、「放送通信発展基本法」と「放送通信事業法」という、基本法と個別法の2本立てによって、水平的な事業領域にあわせた法体系の大括り化に向けて作業を開始した。ただ国会における関連法案の審議は遅れており、現時点で最終的な姿を見通すことはできない状況にある。

 なお、米国の連邦通信法は通信分野も放送分野も含め1本の法律であるが、各章ごとに、情報サービス、通信サービス、放送サービス、CATVサービスなどの規律がまとめられた「オムニバス法」の体裁をとっており、通信・放送の融合・連携に向けて法体系を再整理しようという議論はない。

 しかしながら、異なる事業領域間の公正競争を確保する観点から、ネットワークを保有する事業者がコンテンツ・アプリケーションなど上位の事業領域に対して差別的な取扱いを行うことを禁止する「ネット中立性」の原則を法定化すべきかどうかという議論が、今後俎上(そじょう)に載る可能性がある。


総合的な法体系はなぜ必要か?

 ここまで見てきたように、ブロードバンド市場が大きく変化し、新たな事業モデルが多数登場してきている中、サイロ型の規律から水平軸で事業領域を再整理し、法体系全体について、制度の集約・大括り化を図り、全般的な規制緩和の実現、制度全体の透明性の確保、経営の選択肢の拡大などを実現する必要がある。

 また、制度の大括り化を進めていく上で、情報通信の安全性・信頼性の向上や、利用者・受信者の利益の保護が図られるような環境整備も重要だろう。

 このあたりを踏まえたうえで、今回の答申案の主なポイントについて紹介していきたい。


<ポイント1 電波利用の柔軟化>

 有限希少な国民共有の財産である電波。その有効活用は、デジタル新産業を創出し、日本経済を持続的な安定成長軌道に乗せていくための重要な政策課題だ。

 現在の法制度では、通信用の無線局は放送に使えない。逆に、放送用の無線局は通信用に使えない。答申案では、通信・放送の双方に利用可能な無線局の免許制度を整備することが提言されている。

 これにより、例えば、通信事業者がブロードバンド無線網を用いて放送サービスを提供することが可能になる。また、放送時間の一部をコンテンツのダウンロード配信に利用したり、放送用の周波数を使ってデジタルサイネージへのコンテンツ配信を行うこともできるようになる。

 電波利用に関して、もう一つの課題はホワイトスペースの活用だ。例えば放送用の周波数(チャンネル)は地域ごとにすべてのチャンネルを使用しているわけではなく、空きチャンネルが存在している。しかし、空きチャンネルは各地域とも同じではない。そこで、移動しながら、空きチャンネルを検知して途切れることなく通信に用いること(ホワイトスペースの活用)ができれば、周波数の有効活用になる。このため、答申案では、ホワイトスペースの活用について、関係者による検討の場を立ち上げ、具体的なニーズ、利用形態、周波数を共用する際の技術的条件などについて技術的な検証を行い、その活用可能性を踏まえ、技術基準の策定などの制度整備を行うことを提言している。

 ホワイトスペースの活用について、一歩先を行くのが米国だ。昨年11月、FCC(連邦通信委員会)は、ホワイトスペースの開放を認めた。だがその米国においてすら、技術的検証には何年もかかっている。米国と比べて無線局が稠密(ちゅうみつ)に設置されている日本の場合、とりわけ、この技術的な検証をしっかりとしなければ放送用周波数との干渉を起こし、視聴者の利益を損ないかねないという点には留意が必要だ。

 その他、電波利用の柔軟化を実現する観点からは、無線局の免許を必要としない小電力の無線局の対象範囲の拡大という規制緩和措置のほか、迅速で透明な技術基準策定プロセスを確立するため、技術基準策定について広く提案を求める制度の整備、技術基準策定の予見可能性を高めるための技術基準策定計画の作成などが提言されている。


<ポイント2 伝送サービス規律の制度の大括り化による規制緩和>

 次に、伝送サービスについて、答申案では電気通信事業法を核として制度の大括り化を図ることが提言されている。

 現在の電気通信事業法において、伝送サービスは「電気通信設備を他人の通信の用に供するサービス」とされている。外形的に、この定義に該当し得るサービスとしては、例えば衛星放送の受託放送がある。

 受委託放送の場合、受託放送事業者は委託放送事業者の放送番組を送信しているが、受託放送事業者は国の認定を受けた委託放送事業者のみに対する役務提供義務があり、それ以外の者からの申し込みを受けたときは承諾してはならないと規律されている。

 だが電気通信事業法の場合、伝送サービスを提供する通信事業者は役務提供義務があり、特定の者だけに役務提供を行うことは制度上認められていない。受託放送の場合、受託側に特別な規律を課しているのは、国の認定を受けた公共性の高い放送を確保するためである。このため、現行法では受託放送役務は電気通信事業法の適用除外とされている。

 答申案では、国の認定を受けた放送を確保するため、受託放送役務に対する規律に準じた制度を基本的な枠組みとして整備することとしている。このため、受託放送役務を伝送サービスの一つと捉えつつも、一般の伝送サービスの規律のすべての規定を適用するのではなく、個別の規律ごとに適用の是非を判断することが適当としている。

 その他、CATV事業におけるチャンネルリース制度(有線放送業務を行おうとする者へのCATV施設の使用の申し込みを受けたときは、原則として承諾しなければならないとする制度)や有線放送電話法について、電気通信事業法を適用すれば足りると判断し、これらを廃止することを提言している。


<ポイント3 CATV事業(施設設置)の許可制の廃止>

 次に、CATV事業の参入規制(施設設置)については許可制の廃止を提言している。

 現行のCATV法は、CATVの施設が地域独占の傾向に陥りやすい傾向にあることから、許可制によって一定のカバー率を確保することを求めるなど、地域独占の中で、より広範な視聴機会を視聴者に対して保証してきた。

 しかし、ブロードバンド化が進展し、通信ネットワークを使ったCATV事業、つまり、自らは設備を持つことなく有線放送の業務を行うことも、電気通信役務利用法の枠組みの下で可能となっている。

 このため、CATVの施設すべてが地域的独占に陥りやすいとは言えないことから、答申案はCATVの施設設置に関して許可制を廃止することが適当であるとした。


<ポイント4 放送の名称・概念は維持しつつ法体系を大括り化>

 今回、大きな議論となったのは、地上テレビジョン放送などに適用されているコンテンツ規律を、インターネットによる一斉同報のような放送類似の通信サービスまで拡大するかどうかという点であった。

 このため、従来の放送の概念が拡大する可能性を念頭に置き、「メディアサービス」という概念に基づいて、これまで議論が進められてきた。しかし、検討委員会での関係各方面からのヒアリングや意見招請の結果、「メディアサービス」という考え方には批判的な意見や慎重な意見が多かった。

 検討委員会は、放送の持つ特性として、社会的な影響力の大きさや有限希少な周波数を占用するという放送の特性は変わらないとし、「放送」という名称・概念を引き続き維持することが適当であるとした。

 その上で、事業領域ごとの制度の大括り化を図るという目的に沿って、現在の放送法を核として、放送関連4法(放送法、電気通信役務利用放送法、CATV法、有線ラジオ放送法)の制度を大括り化することを提言している。


<ポイント5 放送分野の基本計画の策定>

 放送の果たすべき役割を全国的・地域的に確実に確保していくためには、現在の放送普及基本計画のような枠組み(基本計画)を設けることが必要となる。このため、地上放送と特別衛星放送(BS放送及びCS110度放送)を、こうした基本計画の対象とすることが適当としている。

 また、放送対象地域(県域放送)の在り方を含め、必要に応じて柔軟な見直しを進めることが適当であると指摘している。


<ポイント6 放送事業における経営の選択肢の拡大へ>

 今回の答申案の特色の一つは、放送事業における放送施設の設置(ハード)と放送の業務(ソフト)の両方を単独の事業者が行うか、複数の事業者で分担して行うかについて、事業者自らが選択して申請できる制度の整備を提言していることにある。

 衛星放送のように、受託放送の制度の下で受託放送事業者(ハード)と委託放送事業者(ソフト)を別にすることを基本とする仕組みもあれば、地上放送のように、ハードとソフトを一体で運用することを前提とする仕組みもある。

 また、CATVについては、CATV法ではハード・ソフト一致が原則である一方、電気通信役務利用放送法の枠組みの下では、通信事業者のネットワークを利用して放送の業務のみを行うことも可能だ。

 そこで答申案では、放送事業においてハードとソフトの組み合わせについて自由度を高め、経営の選択肢を拡大する(ハードとソフトの行政手続きを別にする)ことが提言されている。

 これにより、ハード・ソフト一致しか選択肢のなかった地上放送において、ハードは一定の資本関係や取引関係を有する別の法人に担わせたり、ハード・ソフト分離しか選択肢のなかった衛星放送において、ハード事業者がソフト事業を兼業することも可能となる。

 ただし、地上放送については、これまで放送施設の設置者自らが放送の業務を行うという前提の下で、多数の無線局を長期間かけて整備し、管理・運用することで放送の確実な実施が確保されてきた。このため、ハードとソフトの行政手続を別にするに際しても、放送施設の整備のインセンティブが損なわれることを防ぐことも必要だ。

 このため、ハード事業者がソフト事業を行うことを希望する場合、その希望が優先される措置を講じることが適当としている。また、マスメディア集中排除原則についても、関係者からの具体的な要望等に基づいて、必要に応じて見直しを行うことが提言されている。


<ポイント7 再送信制度は維持>

 さて、放送番組を全国どこでも視聴できるように努める観点から、放送関連法には再送信制度が設けられている。具体的には、受信障害地域において地域のテレビジョン放送などをCATV事業者に送信することを義務付ける義務再送信制度がその一つ。もう一つは、CATV事業者が放送事業者の同意を得て、放送番組を再送信する同意再送信制度。再送信同意が得られない場合は総務大臣に裁定を求める裁定制度がある。

 このうち、義務再送信制度については、これまで受信障害地域の指定(義務再送信制度の適用)がなされたことはないが、難視聴解消に向けた有効な手段であることから、答申案ではこの制度を維持するとしている。また、裁定制度についても、答申案では、受信者の利益を確保する観点から、引き続き維持することを提言している。


<ポイント8 ネットコンテンツ分野は民間の自主的な取り組みを尊重>

 検討委員会では、ネット上の掲示板などのように公然性を有するコンテンツ(“オープンメディアコンテンツ”と呼ばれる)について、違法・有害なコンテンツへ対応するための新たな規律の導入の是非についても検討してきた。

 こうした中、議員立法で昨年6月に成立した「青少年インターネット環境整備法」が、本年4月施行された。この法律は、違法・有害コンテンツ対策として、民間部門による取り組みを推進することとし、国はこうした民間部門の活動を支援することとしており、新たな規制を導入するものとはなっていない。また、この法律では、施行後3年以内に施行状況について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講じることとされている。

 今年1月に公表された総務省の「インターネット上の違法・有害情報への対策に関する検討会」最終報告書においても、インターネット上の違法・有害情報対策について、「当面は、(民間部門の)自主的取組の進展及びその成果を見守」ることを提言しており、今回の答申案でも新たな規律の導入は提言していない。


<ポイント9 利用者・受信者保護の強化>

 総合的な法体系の在り方を巡る議論の中では、利用者・受信者の保護という観点もきわめて重要だ。今年10月には消費者庁が設置されるなど、政府部内においても消費者行政の積極的な展開が望まれている。今回の答申案では、有料放送サービスについて、提供条件の説明義務、苦情処理義務、事業を休廃止する場合の事前告知義務など、通信事業者には既に導入されている規律の導入を提言している。

 近年、放送中止事故が発生している。07年5月、NHK及び民間放送連盟は、地上放送関係設備の「安全・信頼性基準ガイドライン」を策定するなどの取り組みを進めているが、状況は大きく変わっていない。

 また無線局が技術基準に適合していない場合、電波の発射停止命令や無線局の運用停止命令などの制度があるが、これは「業務の継続」か「業務の停止」の二者択一の仕組みだ。そこで、答申案では、放送について安心・信頼性を確保する観点から、設備の維持義務等を整備するとともに、技術基準に合致していない場合、技術基準適合命令を総務大臣がかけられる制度を設けることを提言している。

 さらに、テレビジョン放送事業者は、その公共的な役割にかんがみて、教養番組、教育番組、報道番組及び娯楽番組の調和を保つことが求められる番組調和原則を守る必要がある。しかし、どの番組種別のものがどのくらいの時間放送されているのかというデータは公表されておらず、視聴者に情報提供がなされていない。答申案では、放送番組の種別、具体的には、教育、教養、報道、娯楽、広告、その他といった種別ごとに放送時間と各分類の基本的な考え方を公表する制度の導入を提言している。

 なお、どの番組をどの種別に分類するかという点は、あくまで放送の自主自律の原則にのっとって放送事業者が自ら判断することが必要だが、いわゆるショッピング番組をどう取り扱うかという点については、関係者間での議論などを注視しつつ、更に検討を深める必要があるだろう。


多岐にわたる検討項目

 このように、答申案では多岐にわたる項目について検討を行い、総合的な法体系の骨格を描いたものとなっている。これまで紹介したものの他に、最後に2点、挙げておきたい。

 まず、紛争処理機能の強化。ブロードバンド市場においては多数の市場参加者が関与するマルチステークホルダー環境になってきており、これに伴い、国の紛争処理機能を強化することは、ブロードバンド市場の健全な発展のために不可欠と言える。

 このため答申案では、通信事業者間の紛争処理を担っている電気通事業紛争処理委員会の機能を強化し、コンテンツプロバイダーと通信事業者間の紛争や、再送信同意に関する放送事業者とCATV事業者との間の紛争などに対象範囲を拡大することも検討するよう提言している。

 また、制度の大括り化を図っていく中、特殊会社法であるNTT法や特殊法人であるNHKに関する法律の規定をどうするかという点も議論された。答申案では、NTTの組織問題について、ブロードバンドの普及状況などを見極めた上で2010年の時点で検討される予定であり、NTT法は今回の大括り化の対象にしないとしている。

 NHKについては、放送メディアの多元性の根幹の一つと位置づけられることから、法体系としてはコンテンツ規律に一元化することを提言している。また、コンテンツ規律において、放送施設の設置(ハード)と放送の業務(ソフト)の手続きが別になることを踏まえ、NHKにおいても両方の手続をしなければならないとしている。さらに、放送用無線局の他目的利用を可能とすることについては、NHKが特殊法人であることから、いたずらに業務範囲を拡大するべきでなく、慎重に検討する必要があると提言している。

                   ◇             ◇

 今回の答申案については、7月21日まで意見募集を実施している。検討委員会では、意見招請結果を踏まえて、最終的な答申に向けた検討を行うこととしている。また、総務省としては、2010年の通常国会への法案提出に向けて作業を進めていくこととしている。

※本稿は答申案のポイントを紹介したものであり、答申案の提言すべてを網羅しているものではない点をお断りしておきたい。


<筆者紹介>谷脇 康彦(たにわき やすひこ)
(総務省情報通信国際戦略局情報通信政策課長)
1984年郵政省(現総務省)に入る。OECD事務局ICCP(情報・コンピュータ・通信政策)課勤務等の後、郵政省電気通信事業部事業政策課補佐、郵政大臣秘書官、電気通信事業部調査官、在米日本大使館参事官、総合通信基盤局料金サービス課長、総合通信基盤局事業政策課長等を歴任。2008年7月より現職。主として通信放送分野の競争政策に携わってきている。
著書に「世界一不思議な日本のケータイ」(インプレスR&D、08年5月刊)、「インターネットは誰のものか――崩れ始めたネット世界の秩序」(日経BP社、07年7月刊)、「融合するネットワーク――インターネット大国アメリカは蘇るか」(かんき出版、05年9月刊)。

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL
http://www.nikkeidigitalcore.jp/cgi-bin/mt/mt-tb.cgi/329

コメント一覧

メニュー