【ネット時評 : 土屋大洋(慶應義塾大学大学院)】
ツイッターで発見「ふつうの人がおもしろい」

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 SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)のブームは一段落した感があるが、現在大きな注目を集めているのがミニブログ「Twitter(ツイッター)」だ。イラン大統領選をめぐる抗議デモの参加者も情報交換に利用したことが話題になった。たった140文字の書き込みしかできないツイッターに、世界中の情報がなだれ込んでいる。
 

つぶやく人、のぞく人

 「twitter」とは「さえずり」という意味で、ブログよりも手軽にすばやく書き込みができ、日本語でニュアンスが近いのは「さえずり」というよりも「つぶやき」である。ツイッターのユーザーは、文脈も気にせず、今いる場所や、していることについて勝手につぶやいている。

 そのつぶやきが、読む側にはおもしろい。狭い友人関係の中だけで閉じたコミュニケーションもできるし、有名人になれば大勢の人に「フォロー(追っかけ)」されている。政治家によるツイッター利用も新しいトレンドの一つだ。バラク・オバマ米大統領は175万人以上から追っかけられている。

 しかし、ネット社会がツイッターによって発見したのは、有名人だけでなく「ふつうの人」もおもしろいという事実だ。ブログ、SNS、動画共有サイトなど、いろいろなアプリケーションが出てきて、それを有名人が使うと話題になる。しかし、ブームを下支えしているのはふつうの人たちである。ふつうの人たちの日常がおもしろいからコンテンツの再生産が起きる。

 筆者の同僚である熊坂賢次(慶應義塾大学環境情報学部教授)は「ネットは露出とのぞき」だと常々言っている。SNSの日記でおどろくほどプライベートな情報を書き込む人たちは、一種の露出行為をしていることになる。それを読む、見る人たちはのぞきをしているようなものだ。他人の日常をのぞくのは好奇心をそそられる。有名人のブログなどが人気を博するのも、そうした人たちの日常が垣間見えるからだろう。

 インターネットの最大の貢献は、情報へのリーチャビリティ(アクセス可能性)を高めたことである。インターネットがなくてもわれわれは生きていけるだろうが、しかし、世界はちょっとつまらなくなる。インターネットを検索すれば、知りたいことのほとんどは分かる。無論、その質は玉石混淆だが、たいていのことには事足りる。

 その筋のプロが書いたコンテンツもおもしろいが、ふつうの人たちも場合によってはプロ顔負けの情報を持っており、検索エンジンにひっかかれば誰かの役に立ったり、好奇心を満たしたりできる。大声で叫ぶアルファブロガー(影響力の強いブロガー)も、小声でつぶやく人たちも、「ネット時評」を書く専門家も、ネットの中ではほぼ平等である。


政治のネット利用がもたらす本当の意味

 さらに、ネット世論という声なき声は政治も動かす。選挙結果で混乱しているイランについて言えば、2007年から2008年にかけてイランのブログの盛り上がりが注目され、米国のカンファレンスでもたびたび言及されていた。韓国や中国でのネット世論の盛り上がりとよく似ているし、2008年の米国大統領選挙でもネットの力は大いに発揮された。

 日本でもいよいよ総選挙だ。「べからず法」ともいわれる公職選挙法。今回もネット利用は認められず、選挙期間中は候補者によるネット利用に著しく制限がかかる。そもそも「選挙期間」が存在するのは日本独特のものらしい。しかし、ふつうの人たちのつぶやきは選挙期間中にも広がっていくものだ。

 選挙におけるネット利用解禁は時間の問題だろう。本来、政治はプロだけが担うものではない。行政府にはプロが必要だが、国民主権の下では、立法府はふつうの人たちの代表によって担われるべきである。選挙におけるネット利用解禁は、ふつうの人たちの力をさらに引き上げることになるのではないか。

<筆者紹介>土屋 大洋(つちや もとひろ)
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 准教授
1970年生まれ。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程修了。博士(政策・メディア)。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)助教授などを経て現職。専門は国際政治学、情報社会論。主著に『情報による安全保障―ネットワーク時代のインテリジェンス・コミュニティ―』(慶應義塾大学出版会、2007年)、『ネットワーク・パワー―情報時代の国際政治 ―』(NTT出版、2007年)等。2008年4月から2009年3月まで、マサチューセッツ工科大学国際関係研究所客員研究員。

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