【ネット時評 : 吉岡正壱郎(日立コンサルティング)】
続・イントラSNSは何を生み出すか?Q&Aコミュニティーの評価分析

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 今年3月、本欄にて、日立製作所がコミュニケーション活性化を目指して運営している、グループ会社向けイントラSNS(組織内ソーシャルネットワーキングサービス)「COMOREVY(こもれび)」と、その中に立ち上がった「応えて、こもれびー」という名の全員参加Q&Aコミュニティーについて紹介した。本稿では、この全員参加Q&Aコミュニティーのその後の活動状況を見ながら、イントラSNSのさらなる活用について考えてみたい。なお、本稿で参考にしている情報は、「こもれび」運営事務局の許可を得たものである。
 

「こもれび」とQ&Aコミュニティー

 詳細は前回の記事(http://www.nikkeidigitalcore.jp/archives/2009/03/post_188.html)に譲るが、最初に日立グループのイントラSNS「こもれび」と、今回の話題であるQ&Aコミュニティーについて、簡単に紹介しておく。

 「こもれび」は、2008年1月に日立グループ全体を対象として運用開始されたイントラSNSである。本年7月末時点で10,000名を超える参加者がいる。基本は招待制だが、自己申告もOKであり、毎月4~500名のペースで参加者が増えている。

 いわゆる社会人の常識を守る限り、記述内容に制限はない。様々なコミュニティーも立ちあがっており、業務的色彩の濃い「業務、知識・情報」に分類されるものが約55%、それ以外の「生活、組織、運営等」に分類されるものが約45%という状況である。

 その中で、全員参加Q&Aコミュニティー「応えて、こもれびー」は、昨年12月に開始された。目的は、イントラSNSという場を活かして、参加者からの質問に参加者全員が応え、それを通じて日立グループ内の情報、知識などを共有し、活用することである。開始から8カ月間で170件を超す質問が寄せられている。本稿では、これらの質問と回答を分析し、また、3月に実施された利用者アンケートの結果も参考にしながら、イントラSNSの可能性について考察してみたい。


大半の質問に業務との関連

 質問の内容を、業務とのかかわりの程度と求める回答の性質とを軸にして9つに分類してみる。それを示したのが図1だ。業務とのかかわりでは、業務に直接に関係するもの、直接ではないが関連性のあるもの、業務とは関係しないものがある。また求める回答の性質では、回答が一意に決まるもの、社内各部門の状況など複数の事実や回答を求めるもの、広い範囲から意見を求めるものに分けられる。

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図1.質問の分類と主な内容


 具体例で見てみよう。まず業務に直接関連する質問では、旧製品に関する情報を尋ねるものや、ある業種を担当する顧客営業窓口を尋ねるものなどがその一例である。会社生活や会社全般に関する質問では、過去の販促イベントに関連する質問や各部署での経費削減の工夫を聞くものなどがあげられる。一方、直近の業務に関係しない分類でも、外字(JIS規格などに含まれない漢字)の取り扱いに関する相談やTV会議システム活用アイデアの募集など、汎用的な内容でありながらも、業務での活用を想定していると考えられるものが見受けられる。

 回答が一つに決まる質問では、当然ながら答えが得られた時点でトピックが終わる。一方、複数の回答が想定される質問の場合には、情報や意見が出尽くすまで、もしくは期限が来るまで書き込みが続く。特定商品の取り扱い部署を尋ねるような質問では回答は一つだが、現場の従業員との情報共有施策の実態を尋ねるものなどでは、複数の会社や部署から回答が寄せられる。

 質問内容を業務関連に限定している訳ではないが、何らかの形で業務にかかわる質問が大半を占める結果となった。その中でも、業務関連性の強い質問が全体の約4割を占める。また、上記の9分類で少し特徴的なのは、「業務に関する情報提供依頼」と「専門的、一般的な事実確認」の区分が、他と比べて2倍程度質問数が多いことである。


管理職が積極的にQ&Aコミュニティーを利用

 下記の図2は、「応えて、こもれびー」で質問をした人、回答をした人の職位区分比である。参考のためにSNS「こもれび」参加者全体の職位区分比も掲載したが、明らかに、部課長以上の管理職によるQ&Aコミュニティーの利用が活発である。このことは、管理職の人たちが、組織内のコミュニケーションに加え、知識や情報の共有・活用に関して、より関心が高く、積極的であることを示している。

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図2.「応えて、こもれびー」活用者の職位区分比 


 質問は、短ければ1日、平均して1週間程度で迅速に解決する。質問者が知己をたどってひとつひとつ処理をしたのでは到底この期間では解決しない。

 各質問には平均して十数件の回答が寄せられる。回答者もバラエティーに富んでいる。日立製作所のみならず多様なグループ会社の社員から、また総務や経理を含む多様な業務部門からも回答が寄せられる。さらには入社間もない社員から経営幹部に至るまで、幅広い職位から回答が集まるケースも少なくない。

 実際に活用された事例を見てみよう。

 「日立グループ内では、工場など現場の従業員(直接員)に対して、会社からの情報伝達と共有をどのように行っているか知りたい」という質問があった。これに対し、質問から約30分後に最初の回答が寄せられ、5日間で様々な組織、職種、職位の人から14件の回答が寄せられた。

 この事例では、質問内容である情報伝達に関して、経営者、総務部門、被伝達者である直接員、そして同一情報を共有するが直接員ではない社員(間接員)という四つの視点があり、それぞれの立場からの意見があるという事が、短時間のうちに明らかになった。これは、担当部門から上位管理職に至るまでの多様な階層と、普段は交流の少ない関連会社を含む様々な事例情報が集まったことによる。

 詳細は省略するが、仮にこの情報をSNS以外の手段で集めようとすると、多様かつ適切な相手を見つけ出し、メールや電話でヒアリングする必要があり、その作業を積み上げると約2日分の作業量に相当すると試算している。

この他にも多くの事例がある。30年以上前の製品に関し、現在の取り扱い会社と部署を尋ねるもの、統合システム運用管理ツールで、3000台以上の端末管理をする際の経験事例を問い合わせるものなどでは、どちらも2時間程度で最初のレスポンスがあり、約3日で解決している。

 これらのケースでは、個人的な人脈だけではなかなかたどりつけない部署や関係者へ、SNSを起点とする人脈のネットワークによって素早く情報が伝わり、積極的な情報提供や協力が得られている。


質問者はほぼ満足、有用情報の共有も進む

 今年3月に、Q&Aコミュニティーの利用者への選択式アンケート(複数回答可)が実施された。その結果を見てみよう。

 質問者の「質問理由」では、「このコミュニティーなら回答が得られると思った」「情報共有をしたいと思った」「日立グループ特有の情報が知りたかった」という回答が上位となっている。これは、日立グループという企業グループ内での『有用情報の共有と活用』という当初の目的に、まずはかなった結果が出たと言えるだろう。「回答の役立ち度」では、「とても役立った」と「少し役立った」の合計が約9割という高評価となっている。

 回答者には「回答理由」を、質問も回答もしていないがQ&Aコミュニティーを訪れ、その内容を読み、利用した人には「読もうと思った理由」を聞いている。

 「回答理由」では、「自分の知識が役立つと思った」「同じ仲間だから」という理由が上位を占めた。このコミュニティーが、組織としての一体感を醸成するとともに、組織内ではありながらも、個人に蓄えられている様々な有用情報の共有化を、少しずつだが推進する手段になっていることを示すものだろう。

 「読もうと思った理由」では、「自らの業務に関連する内容であった」が8割以上の読者から選択されている。これは、業務との関連性が、このような形での情報活用の動機の一つとなりうる事を示しているが、その前提として、先に述べたように、本コミュニティーに寄せられる質問の多くが、直接的、間接的に業務に関係していることがあげられよう。

 「こもれび」運営事務局の遠藤浩子IT戦略統括推進本部部長代理は、「意図したことではあったが、直接的、間接的に業務に関連する質問が多く寄せられ、集まった内容をさらに業務視点で活用するという好循環が、幸いなことに早期に確立された。これには、多様な職種、職位の方々で構成されたボランティアの協力が大きい」と述べている。

 自由記述の感想では、良かった点として、「回答が早く得られた」「組織や職位、職種の壁を越えて情報が得られた」「知識の共有が図れた」「誰に聞けばよいか分からない時に使えた」「実際に打合せができた」などがあげられている。

 一方、改善要望としては、「検索機能が弱い」「質問が埋もれる」「終了・未終了が分かり難い」「カテゴリー分けが不十分」「質問や回答の仕方が不統一」「マナーが悪い人がいる」などがあがっている。


実証された「異事業部門交流と職位を超えたネットワーク」

 約3カ月分の質問と回答から、質問者と回答者の属性を分類し、職位の差を「職位の広がり」、所属の違いを「職場の広がり」として両者の距離を数値化してみた。その特徴をまとめたのが図3だ。一つの質問に複数の回答がある場合は、全回答の平均値を採用した。

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図3.回答の分布(約3カ月分)

 これを見ると、「職場の広がり(W)」では、質問者と回答者が「異なる事業部・研究所」に属することを示すW=3から「異なる会社」に属することを示すW=5の間に集中が見られる。また、「職位の広がり(P)」では、質問者と回答者が「同職位」を示すP=0から「5つ以上職位が離れている」P=5の間に広く分散しているが、「職位が一つ異なる」P=1前後に集中が見られる。これらは、異なる事業部など、離れた職場の近い職位(同世代?)からの回答が多い、という特徴を示している。

 もう少し詳しく見てみよう。

 職場の広がりに関しては、質問者と回答者が「異なる事業部門や事業グループ」に属することを示すW=4近辺が多いことがわかる。「異なる課」や「異なる部」を示すW=1や2に質問がないということは、近い部署間で解決できるような課題は、わざわざ全社的なSNSに質問を投げるまでもなく解決しているからだと考えられる。従って、自然と所属する事業部門以外からの回答が必要となる質問が多くなったのであろう。自分の近くで解決できないからこそ、このような横断的な仕組みのメリットが出てくるのだと言える。

 職位の広がりでは、主任と課長などの隣り合った職位差を示すP=1前後に大きな集団がある一方、三つ以上職位差があるP=3以上のところにもいくつか特徴的な質問が見られる。これは、会社幹部や本部長等の上位職位からの質問に、下位の職位からも幅広く回答が寄せられた結果である。


確認されつつあるイントラSNSの有用性

 「1年以上にわたる『こもれび』の活動にあって、昨年末に立ち上げた『応えて、こもれびー』の活動と成果は、『こもれび』が日立グループ全体での情報共有や活用、コミュニケーションの拡大に果たす役割と効果をより明確にしてくれた」と事務局の遠藤浩子氏はQ&Aコミュニティーの成果を評価している。

 「こもれび」の開始時には、4つの狙いがあった。①悩みの相互解決(ギブ&テイク)、②組織や制度を超えた協力体制の実現、③異業務交流と人的ネットワークの拡大、④従業員の「やる気」を刺激すること、である。これらに関して、少しずつではあるが、効果が現れてきていることも事実のようだ。

 「こもれび」は、従業員同士の人的ネットワークの形成やモチベーションアップに役立っている。さらにQ&Aコミュニティー「応えて、こもれびー」では、業務における情報収集、知識共有、人的ネットワークの形成と拡大が実現されていると言ってよいだろう。

 少々乱暴ではあるが、このSNSの効果を金額に換算してみよう。

 「こもれび」の効果を実現するベースとなっているのが、毎日2000件ほどにもなる従業員の自発的な「書き込み」である。この「書き込み」の価値を、その中の5%が1万円相当と仮定して計算すると、1日あたり約100万円、年間で約2.4億円の価値が蓄積されることになる。

 一方「こもれび」内では、従業員同士がお互いを励まし合ったり、時にはオフライン会合を開くなどして自発的に交流を行っている。この代替手段として、年に1度、参加者を集めた会合を開くと考えてみよう。準備も含めて1人当たり8000円の費用が必要だと仮定し、「こもれび」のアクティブユーザー率である約13%の社員が集まるとすれば、1回あたり約1000万円が必要になる。

 この数字は皆さんの感覚と合っているだろうか。数値の大小はともかく、用途や目的をよく考え、活用方法を工夫することで、相応の価値を生み出せるだけの情報がこの中にはある、と言えるのではないだろうか。


新しい業務支援ツールとしての可能性が向上

 「応えて、こもれびー」では、開始から1カ月半が経過して以降、質問件数増加のペースがあがった。初期の段階において、運営事務局やボランティアが緩やかに支援し、質問には必ず適切な回答が付くという安心感を参加者に与えたことが寄与し、自律的な循環が確立したと考えられる。開始当初は、ボランティアによる回答も多かったが、徐々に一般の参加者からの自発的な回答に替わっていった。これは、どのようなコミュニティーにも共通するが、立ち上げ時の支援体制が極めて重要であることを示している。

 「数か月経過した時点では、質問の投稿数は1日1~2件と定常化し、回答数も充実してきた。さらに、24時間以内に回答が行われるものが約9割と、問題解決の迅速化も図られた。質問者の9割以上が回答に満足している。質疑応答の内容も、当初の目標通り業務に関係するものが大半を占めている。これにより、適切に運用すれば、「こもれび」を業務で効果的に活用できることが確認できた」と遠藤浩子氏は自信を持つ。

 多様な部門、多様な職位の従業員の参加と、話題を限定せず自由な質問ができる雰囲気づくりが質問や回答の多様性にもつながっていると思われる。また、通常では交流が難しい異なる業種や職種のメンバーとの情報交換という、多くの関連会社を持つ日立グループ横断SNSならではの特徴が、参加者の好奇心や関心を刺激していることも事実のようだ。

 職位を越えた交流も活性化した。特に、部課長以上の管理職の関心が高いことや、会社幹部自らが質問した事例は、若い参加者に勇気を与えたと言えるだろう。このような人的ネットワークの形成を通じて、通常の交流では入手が相当困難な情報や知識が共有され、活用されていくことが期待できる。

 これらの活動とその成果によって、イントラSNSは組織内コミュニケーションの「基盤」の一つを形成できることが確認できたと言える。そして、その上に形作られる「応えて、こもれびー」のようなQ&Aコミュニティーは、業務における疑問や悩みの相互解決と情報の共有、組織を越えた協力体制の実現などが、イントラSNSの活用によって可能となることを示すものと言って良いだろう。


さらなる活性化には内容の充実と正しい認知がポイント

 本稿では、日立の「こもれび」を例に、イントラSNSの可能性について見てきたが、利用者アンケートでの指摘にも見られたように、解決に至らず埋もれてしまう質問や、質問者、回答者のマナー向上、書き込みルールが不統一といった、適切な対策をとるべき課題はまだまだ残されている。

 また、Q&Aコミュニティーの活性化と継続的発展のためには、質問者数と回答者数を増やすことも重要である。読者、すなわち発言はしないが情報は利用する参加者からのフィードバックも、入手、反映させていけると良いだろう。使いやすさの向上や使いたくなる工夫によって、効率や快適性を改善していくことも必要だ。

 公開情報ベースであるが、イントラSNSを導入している企業の事例を見てみると、普及率が高いケースでは相対的に活性度が低く、逆に活性度が高いケースでは普及率が低いという二極化がみられる。ここでは、1日にアクセスする利用者数あたりの書き込み数を活性度とした。日立の「こもれび」は、1日の平均アクセス者数が1000人強、1アクセスあたりの平均書き込み数は約2件と、利用者の情報発信に対するモチベーションが高い。しかし、普及率の面では成長途上にあり、今後、活性度を維持しつつ利用者拡大を図ることが必要である。

 普及についてはデリケートな問題もある。情報共有と活用のための情報発信の推奨は、裏返せば、参加者に対して、イントラSNSに費やす時間を増やしてほしいと依頼していることに他ならないからだ。これを是とするには、イントラSNSの利用が業務活動の一環である、という認識を広めていかねばならない。そこで、イントラSNS内に有用な情報が蓄積されていくことが重要になる。

 イントラSNS内の有用情報の充実と、業務活動としての正しい認知はニワトリと卵の関係だ。「こもれび」の例のように、ボランティアによる支援や運用上の工夫によって最初の壁を乗り越えれば、自律的な循環と活性化の基礎が確立していくことになるだろう。

 SNSは一般的にプライベートでの利用が中心であるため、企業に導入された当初は、業務外の「タバコ部屋での会話」に例えられるようなコミュニケーション基盤として位置づけられることがほとんどだった。しかし、多くの企業がSNSを導入し始めて数年が経ち、現在では、イントラSNSは単なる一つのコミュニケーション基盤ではなく、新人教育や営業ツールなどとして、様々な形で業務への利用が始められている。

 近い将来、有用情報の充実と、業務ツールとしての認知を梃子(てこ)として、イントラSNSに代表されるWeb2.0系の技術が、積み上げられてきた企業文化のさらなる発展に活用されていくことは間違いないであろう。

<筆者紹介>吉岡 正壱郎(よしおか まさいちろう)
日立コンサルティング ディレクター
京都大学大学院理学研究科卒業。1982年日立製作所システム開発研究所に入社し、大型汎用機のオペレーティングシステム、高信頼化機能の設計や並列化機能の開発を経て、分散オブジェクト、SOAやXML、Webサービス等の草創期の研究に取り組む。1998年より研究企画業務を兼務し、米国大手企業、独GMD、仏INRIA等との共同研究、OMG標準化活動などを推進。2000年10月、情報通信グループの戦略企画部門に移り、事業戦略策定、新規事業開発、研究管理制度改革、ブランドデザイン等を推進。2002年、事業コンセプト「情報ライフライン」を起案。この間、国内外での共同事業、アライアンスを多数推進。2004年10月、WTOシンポジウムにおいて日本代表として発表。  2004年、コンサルティング部門に異動後は、日立の幅広い業容をベースとした事業戦略策定、新事業開発、イノベーションマネジメント、ナレッジマネジメント等のコンサルティングに携わる。日本人の性格や日本独自の文化、社会、価値観などを強みとする経営戦略に関心がある。

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