【ネット時評 : 加藤幹之(富士通研究所)】
ネットの国際管理「インターネットガバナンス」議論の行方

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 「インターネットは誰が管理するのか?」
 インターネットの利用者や用途が拡大する中、セキュリティーや不正使用、スパム、不健全なコンテンツ等々、社会的問題も急増している。インターネットの管理、すなわちインターネットガバナンス(IG)とはどこまでの範囲を指すのか。誰が責任を持って、国際的に管理するのか。そして誰に管理権限があるのか――。

 こうした一連の問題について話し合うために、日経デジタルコアでは昨年4月、「インターネットガバナンス研究会」を発足した。4度の研究会を経て、昨年8月30日には「世界情報通信サミット ミッドイヤーフォーラム(注1)」を開催し、その後中間報告を行った。(注2)

(注1) http://it.nikkei.co.jp/internet/special/midyear04.aspx参照。
(注2) http://www.nikkei.co.jp/digitalcore/governance/report/index.html参照。
 
 中間報告では、国連のワーキンググループ(WGIG)が昨年11月に発足、11月23日に最初の会合を行うことも報告した。以下、WGIGの活動と報告書を中心に、インターネットの国際管理議論の行方を紹介したい。
 
WGIGの発足と活動

 2003年12月の第一回世界情報社会サミット(WSIS)において、国連事務総長に対して、基本宣言の形でWGIGの設置が要請された。WGIGは、
 
(1) インターネットガバナンスの定義の構築
(2) IGに関する公共政策的課題の特定
(3) 先進国・途上国の民間セクターと市民社会、既存の政府間組織、国際組織、その他のフォーラムや政府のそれぞれの役割と責任に関する共通の理解の促進
(4) 2005年11月にチュニス(チュニジア)で行われるWSIS第二次会合での検討及び適切な行動のために報告書を準備
 
などを目的としていた。
 
 WGIGは、ニティン・デサイ前国連事務次長を議長とし、前述のミッドイヤーフォーラムにも参加したマーカス・クマー氏(元スイス外務省の外交官)が事務局長を務め、議長を含め総勢40名の組織で活動してきた。
 
 昨年11月の会合以降、今年2月、4月、6月と4回の会合を行い、それらの会合の機会にメンバー以外の意見を聞く公開会合も開催してきた。また、今年2月には、WSISサミットの第2回準備会合も開催された。

 7月になって公開されたWGIGの報告書を受け、9月には第3回WSIS準備会合が開催される。そして、11月16日から3日間の予定で行われるWSISに臨むことになる。

WGIG報告書のポイント
 
 WGIGの報告書は、メンバーリストや用語集を入れても24ページ、本文は20ページ足らずの比較的短い内容(注3)であり、別途76ページの背景報告書が出されている。
 
(注3)http://www.wgig.org/docs/WGIGREPORT.doc参照。
 
 (1)まずIGの定義は、「インターネットの展開と利用を形成する、共有化された原則、標準、規則、意思決定手続き、そしてプログラムを、政府、民間セクター、市民社会がそれぞれの役割において開発し適用すること」としている。特に注釈として、IGの議論はICANN(ドメイン名の管理など、インターネット資源を調整する非営利法人)が取り扱うドメイン名とIPアドレスの問題に限定されないことを述べている。
 
 (2)IGの公共政策的課題については特に優先度が高いものとして、(i)ルートゾーンファイルとシステムの管理、(ii)相互接続費用、(iii)インターネットの安定性、セキュリティーとサイバー犯罪、(iv)スパム、(v)国際的な政策策定のための意味ある参加、(vi)人材開発、(vii)ドメイン名の割り当て、(viii)IPアドレス、(ix)知的財産権(IPR)、(x)表現の自由、(xi)データ保護とプライバシーの権利、(xii)消費者の権利、(xiii)多言語化、が特定されている。さらに、融合、次世代ネットワーク、貿易、電子商取引というような他の重要な問題もあることを指摘している。
 
 これらの多くは、これまでもインターネットや電子商取引の制度問題として議論されてきた項目である。特に、インターネットに対する接続費用と言うこれまで規制されてこなかった問題が入ったことや、「参加」や表現の自由、消費者の権利と言うような市民社会からの要請が前面に出されたことが興味深い。
 
 (3)これまで民間主導で発展してきたインターネットであるが、政府、民間セクター、市民社会のそれぞれの役割に関して、政府の役割や市民社会の役割が広く明確に特定されていることが注目される。
 
 (4)WGIG報告書は、重要な2つの「提言」を行っている。ひとつは、IGの議論を今後も継続する「フォーラム」を設けることである。これは、上記(2)で指摘されたような公共政策的課題を国際的に議論する対話の場であり、国連の組織にリンクすることが望ましいが、形態は今後の検討課題だとしている。
 
 もうひとつは、国際的な公共政策に関する監督(オーバーサイト)の機能に関するものである。報告書では、政府、民間セクター、市民社会、国際機関の全てが参加する形態で監督することが必要であると指摘している。そしてこれらを受け、今後のガバナンスのモデルとして4つの違ったモデルを提案している。それらのモデルは、国連機関が直接ICANNを監督するものから、今のICANNの形態はそのまま残した上で全く別の議論の場としてフォーラムを設けるものまで多様である。

WSIS後も継続して議論、主導権を握るのは
 
 WGIGは、メンバーの半数が発展途上国出身であり、政府と市民社会代表者が大半で民間セクターは5分の1しかいない、ということもあり、これまでの米国発、民間主導のインターネットに批判的な意見が多かったようである。
 
 一方で、国連のような組織がインターネットを直接管理しICANNの監督を行うことになる可能性もあるために、米国政府はWGIGの動きに懸念を表明している。 
 
 6月30日に米国政府は、(i)米国政府は、インターネットの安全や安定性に関する懸念から、ルートゾーンファイルの変更権を放棄しないこと、(ii)米国政府は現在のICANNの活動を支持すること、等、4項目からなる基本原則を表明した。(注4)
 
(注4)http://www.ntia.doc.gov/ntiahome/domainname/USDNSprinciples_06302005.doc参照。
 
 産業界にも動きが見られる。例えばICC(国際商工会議所)は、WGIGの提言がインターネットへの過度の規制につながらないよう、積極的に意見表明を行っている。
 
 11月のサミットにおいては、WGIG報告書を受けて、IG問題の今後の検討体制が議論の焦点となると思われる。この会議をもってIG問題の議論が終わることは無く、その後も国際的に継続して議論が進んでいくことになると予想される。
 
 問題は、誰がどういう形で今後の議論の主導権を取って行くかだ。国連のICTタスクフォースを推進していたグループ、ITUのメンバー、市民活動グループ等いろいろなグループが、興味を示しているようである。
 
 デジタルコアの中間報告で表明した見解は、今もその重要性を失っていない。IGの問題が、「米国対途上国」というような国際政治の力学で議論されると、問題の本質を見失う恐れがある。WGIGも、IG問題は現在のICANNの運営問題に限られないと考えている。すでに多くの組織でそれぞれ議論し、解決しつつある問題を蒸し返すことも良くない。せっかくこれまで発展してきたインターネットを、規制によってかえって台無しにすることのないように望みたい。今後の議論の行方が注目される。
 

<筆者紹介>加藤 幹之(かとう・まさのぶ)富士通 経営執行役 法務・知的財産権本部長兼安全保障輸出管理本部長
1977年3月東京大学法学部卒業。同年4月富士通に入社し、海外関係の法務案件に従事。84年6月ミシガン大学ロースクール留学(法学修士)。87年7月サンフランシスコ駐在(法律事務所にて紛争処理担当)。89年8月同社ワシントンD.C.事務所開設に伴い、ワシントンD.C.に駐在。02年6月、15年ぶりに帰国し、04年6月より現職。 富士通の法務、知的財産権、輸出管理等の問題を広く担当。ワシントン時代から継続して、インターネットや電子商取引、知的財産権、独禁法、科学技術政策等の制度議論に参加し、国際的に活動中。Internet Law & Policy Forum (ILPF)名誉会長や、Global Information Infrastructure Commission (GIIC)電子商取引委員長、Internet Corporation for Assigned Names and Numbers (ICANN)のアジア太平洋豪州地域代表理事等を歴任した。米国(ニューヨーク州、ワシントンD.C.)で弁護士資格を持ち、専門分野での論文や講演も多数。

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