【ネット時評 : 尾花紀子】
子どもといっしょに考えたい、安心・安全なインターネット──「避けることを考えず、真正面から次世代の大人たちを育てる試みを!」

尾花紀子


 「お箸の持ち方や道路の渡り方を教えない親はいませんよね。でも、ネット上のコミュニケーションの方法を子どもたちに教えてあげる大人はほとんどいないのです。みなさんの子どもの頃とは違い、これからは、インターネットや携帯電話をお箸や道路と同じくらい日常的な道具として使っていく時代なのですよ!」
 子どもを持つ親たち、生徒を抱える先生たちに、私は常にこう投げかけている。

道具との接し方を伝えるのは大人の役割

 幼い子どもに箸の持ち方を教えず「ハイ、食べなさい!」という大人も、一人でようやく歩けるようになった子が遊びに行くとき「車に気をつけるのよ!」と玄関で見送るだけの親も、きっといないはず。にもかかわらず、インターネットや携帯電話という道具となると「さあ、自分で工夫して使いなさい」と放りっぱなしにしてしまう傾向がある。
 それはなぜか。「パソコン」「インターネット」「ケータイ」という新しい道具については、自分が子どもの頃に使い方を教えられた経験がない。そのため、技術的なノウハウに自信のない大人たちは、「教え方を知らない」と結論付けて逃げてしまう。

 だが実際には、ITやパソコンに詳しくなくても“大人だからこそ”手助けをしてあげられることが山ほど存在する。人生経験が少なくまだまだ未熟な子どもたちに対し、物事の善悪や危険を判断する方法を伝えることができるのは、身近にいる大人なのだと考えてほしい。たとえば、情報の判断の仕方や、知らない人とのやり取りで注意をすることなど、子どもたちの何倍も生きてきた経験豊富な大人だからこそ教えられることがたくさんあるのだ。
 「パソコンの使い方より、インターネットのアクセス方法より、そんなことが大事なの?」と疑問に思う人もいるかもしれない。でも、答えは「of course(もちろん)!!」だ。

邑智中学校での講演

 構想から1年と数カ月、共著で書かせていただいた『子どもといっしょに安心インターネット(岩波書店)』の全3巻がようやく勢ぞろいした10月末、島根県の山間の町・美郷町の邑智中学校で講演を行った。翌日の学園祭準備に精を出していた全校生徒たちも参加しての、PTA講演会だった。

Q.ケータイに「今週のヒット曲ベスト10の中から、1曲だけお好きな曲を無料でゲットできます。ダウンロードしますか? はい/いいえ」というメールが届いたら、あなたはどうしますか?

 まず最初に、こんな質問を生徒たちにしてみた。「どの選択が正しいかを答えるのではなく、実際にケータイに届いた時、自分ならどうするかを素直に答えてほしい」とお願いした結果、「はい」が4分の1程度、「いいえ」が半数近く、残りの4分の1強が「どちらもクリックしない」だった。子どもたちのうちの大半は「はい」がNGであることを知っているが、素直に答えてくれた結果がこうなった。
 「いいえ」をクリックするのも、相手に「このメールアドレスはきちんと使われている有効なものです!」と伝えていることになるから、どちらも選ばずメールを削除するのが正しい危機管理の方法だと、そう伝えた。そういうメールにアクセスをすると、有効なメールアドレスとして裏で売買の対象になり、迷惑メールの洪水になるのだということも、仕組みと共に話してみた。

 朝から学園祭の準備をした後の、お腹一杯な昼食後の時間だったにも関わらず、寝るどころか、一人としてウトウトする生徒すらいなかったのが印象的だった。話をさらに続けた。

 東京に行く時、お願いだから歌舞伎町のあたりをフラフラしないでね──という親は多いだろう。でも、これは風俗店の淫靡な看板写真を見せたくないから「行くな」と言うわけではなく、そこで起こる危険を考えて止めているはずだ。
 同様に、18歳未満禁止のアダルトサイトは決して「エッチだから見ちゃいけない」のではない。そこに出入りすることによって起こるかもしれない≪危険≫や≪トラブル≫を避けるために、興味本位に見るのではなく、うっかり表示してしまったらブラウザーを閉じるほうが懸命。フィルタリングで見せないようにすることで、子どもたちを守っているように思うのは大人たちの錯覚。なにが危険なのかを知らなければ、自ら身を守る術はいつまでたっても身に付かない。
 写真や映像を表示している間に、裏側でウィルスやスパイウエアが送り込まれてくる可能性もある。また、一度でも「見ちゃった」という記憶があれば、振り込め詐欺のメールが来るたびに「あの時のことかなぁ」と不安を感じなければならなくなる。18歳未満禁止のサイトには裏側に罠が沢山あり、それを確実に回避する判断力に乏しい子どもたちは「見ないのが一番」ということになる。

 また、渋谷あたりで道を聞きたくなったら、知らない人には声をかけず交番かお店の人に──と言う親もいるだろう。これも、知らない人とのコミュニケーションの先に起こるかもしれない“危険”を考えての助言ではないだろうか。出会い系サイトでのコンタクトも、これと全く一緒だと思って欲しい。

 こんな「現実の世界との比較」をたくさん用いながら、話を進めていった。全ての話をここでご紹介することはできないが、「ケータイ料金は保護者である親が払い、高額になったら使用を止めることを約束して購入しよう」というようなアドバイスも入れながら、子どもたちに、親や先生たちに、それぞれの立場へのアドバイスを「お互いに聞かせる」ように交互に語りかけていくという、初めての講演スタイルを試みた。

大人も子どもも同級生

 講演の最中、何度も繰り返し話したのが、この言葉だった。インターネットやケータイがごくごく一般的に利用されるようになって、10年足らず。だから、人生では大先輩の大人だってネットの世界では「10年生」となる。また、中学生はみな生まれているわけだから、子どもたちも「10年生」だ。
 大人も子どもも同級生なのだから、どちらが教えて、どちらが学ぶ、という立場ではない。大人たちの経験が生きるところは、経験の浅い子どもたちにアドバイスをしてあげればいいし、子どもたちがその感性や興味で得たことは、大人たちに教えてあげればいい。親だから、先生だから、上に立って教えなきゃいけないと思うことが間違っている。そうは思いませんか?と。

 後日、PTAの役員の方からメールが届いた。翌日、学園祭で声をかけてくれた参加者からの言葉が綴られていた。

  • 自分が携帯を買い与えるにあたって言いたかったことを、ぜ~んぶ言ってもらった。
  • 講演の日の夜、家族で携帯やネットのことについて話が盛り上がった。ネットに関してはみんな同級生という感覚で、楽しく会話が弾んだ。
  • 自分は携帯でもパソコンでもインターネットを使わないのでネットのことはまるでわからなかったが、基本は人と人っていうことにあらためて気づくことが出来た。

……などなど。子どもたちも「とてもわかりやすくて楽しい話でした!」と言ってくれて、企画者冥利(みょうり)に尽きるという内容。これを読んだ私が、講師冥利に尽きると感じたのは、言うまでもない。

リアルなコミュニケーションが鍵

まとめ インターネットもケータイも、デジタルなツール。だからこそ、アナログな感覚で使わないととんでもないことになる。使うための技術的な方法論は二の次三の次、大人と子どもが上手にコミュニケーションをしながら、「ネットを使う際の最低限のお行儀と判断力」を養っていくことこそが、もっとも重要だ。
 コミュニケーションを滞らせる原因は、たいてい大人にある。作ったブログのURLを教えた途端、「学校でそんなことしたわけ?」「こんなこと書いたらみっともないでしょ」などと細かいお小言を頂戴するようになれば、子どもたちは自然と口を閉ざすようになる。本当に子どもの安全を願うのなら、大人とのコミュニケーションをしたくなくなるような言動は慎んでほしい。
 過剰反応せず、「自分があの年齢だったら、そんなこともあったなぁ~」と大きく構え、危険やトラブルへの流れを感じ取った時にフォローをしてあげる。そんな「安心のために大人に相談しよう!」と思える環境を作ってあげてこそ、子どもたちは、小さな怪我も含むいろんな経験をしながら、いつの間にか私たちを超えることができるのだろうと、そんな風に思っている。

 技術は子どもたちを守れない。
 人の経験や判断そしてコミュニケーションこそが、子どもたちを守り育ててくれる。

<筆者紹介>尾花 紀子(おばな のりこ)
ビジネスコンシェルジュ
1984年に入社以来、日本IBM(株)にて各種プランニングやアドバイス等、お客様サイドに立ったビジネスのサポートに従事し、IBMの教育ソフト「カルロシリーズ」開発にも寄与。プロバイダー出向時には、広報宣伝総括、Webコンサルティング、コンテンツ・プロデュース、TVとのメディアミックス等を手掛ける。IBMの経営・管理者向けセミナー唯一の女性講師としても評価は高く、その後、IBMビジネスコンサルティングサービスのコンサルタントに。
2005年日本IBMを退職。長年培ってきた最前線での多種多様なビジネス経験をベースに、IT、情報提供、マーケティング、プロモーション、教育等の分野によって寸断されない「一連のきめ細かなサービス」を提供するため、フリーに。コンサルタントではなく、あえて“ビジネスコンシェルジュ”を肩書きとする。
著書『子どもといっしょに安心インターネット』全3巻(岩波書店/共著)
<関連リンク>
ホームページ http://www.frey.jp/

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