【ネット時評 : 藤元健太郎(D4DR)】
ローカルサーチが生み出すマイクロビジネスの可能性――地域情報化のあらたなるアプローチ

fujimoto2.jpg
 
グーグル登場のインパクト
 
 グーグルが次から次へ繰り出すサービスが話題になっている。今やマイクロソフトの最大のライバルと目されることも多いグーグルは、かつてのネットスケープやAOLといった、アプリケーションやISP(インターネット接続事業者)、コンテンツサービスを提供する企業と異なり,ばく大な知識情報の流通業として、世界中のあらゆる情報の流通ハブとなりつつある。

 そしてその集積させた情報と検索された情報をマッチングすることで、これまで情報の非対称性が大きかったことで起きていた「パレートの法則」と呼ばれる「商品は2割の売れ筋が全体の利益の8割を稼ぐ」という法則を壊し始めた。いまや「ロングテール理論」と呼ばれる、今まで“死に筋”に近かった8割(統計手法であるABC分析などでグラフにすると長い尾のようになるのでロングテールと言われている)の商品でもビジネスが成り立つ、という現象が生まれつつある。
 
 例えばグーグルにはアドワーズという広告商品があり、自分の商品に関係するキーワードを成果報酬で購入できる。これを使えば、1万円程度の予算しか要さずに、地方の小さな商店が扱う鯖寿司や仏壇などにインターネットユーザーからの注文が入るようにすることも可能だ。
 
 これは、グーグルのような検索エンジンが「情報流通の最適化」を実現したことで、マイクロビジネスの集積がより大きなビジネスを生み始めていることを示している。
 
 そうしたグーグルがさらに大きなインパクトを持って提供を始めたサービスが、世界中の地図情報を提供する「グーグルマップ」と、それを応用したグーグルローカル(http://local.google.co.jp/)である。これまで一部の特別な企業でしか利用できないと思っていた地図や衛星写真を、誰もが自分の机の上のパソコンで簡単に利用できるようになったことだけでも驚きであったが、そのAPI(アプリケーション・プログラム・インタフェース)が公開され、インターネットを通じて誰もが自分のサービスやアプリケーションに利用できるようになっていることがより大きな衝撃を与えた。実際日本の企業やベンチャーがこれを自社のサービスに取り込んで活用したサービスをすでに提供し始めている。
 
 これまでGIS(地理情報システム)といえば膨大なデータベースを構築するために大変なコストと時間がかかるものだった。それをインターネットらしく、多くの人々がひとつのプラットフォーム上に参加して構築していくというアプローチがあり得ることを、グーグルは示してくれたと言えるだろう。
 
 また、グーグルはGooglePrint(http://print.google.com/googleprint/library.html)という図書館の書籍をデジタルデータ化し,検索できるサービスも提供し始めた。この動きは従来、官公庁や第三セクターが担うと考えられていた。しかし外国の一民間企業が、日本でもサービスをできてしまっている事実が、新しいインターネット時代の情報流通プラットフォームの作り方の発想転換に大きな目を開かせてくれている。
 
地域経済活性化のためのローカルサーチ
 
 インターネットにより、地域の小さな企業が大都市圏の人達に向けたビジネスをする環境はすでに生まれている。しかし、グーグルローカルのような地図データと組み合わせたサービスの利用はやはり地元中心であると言えるだろう。地域にどのような資源があり、どのようなサービスがあるのか。ひとつひとつは小さくても、集積することで利用効果もあがり、ビジネスのスケールも生まれるのがロングテールの時代である。
 
 A9(http://yp.a9.com/)というアマゾンが提供している検索エンジンでは、全米主要都市の街の「通り」のデータを蓄積しており,目的の会社を探すとその通りに他にどんなビジネスがあるか,風景はどうなのかを知ることもできる。これについて言えば、日本国内にもベースになりうるデータはすでに存在している。NTT番号情報が提供しているiタウンページ(http://itp.ne.jp/)は実に8000もの業種から店舗を検索することが可能で,「からし蓮根」など地域密着の特産と呼ばれるようなビジネスから街の中華料理屋までも調べることができる。確かにもともと紙の時代から、地域のライフライン情報を載せた電話帳は小規模の引越会社とか、鍵の店など、マイクロビジネスの人々には重要なメディア(一番最初のページや目立つところを奪うために社名をAやアにしたりと、ある意味SEO=検索される率を高める工夫もやっていた)であった。インターネットに情報が載れば、その活用可能性は数倍にもなっていると言えるだろう。
 
 こうなってくると、ローカルデータは新しい地域の公共財と言える。ひとつのサービスだけでなく,これらを様々な形で利用できるように環境整備することは産業振興の観点からも重要である。これまでも、税金や補助金などでそうしたデータベースが構築されることは多かったが、活用されず死蔵されているケースも少なくない。今後、こうしたタイプの公共財を創造するためには、民間企業と多くの地域ベンチャー、一般市民の協業により、官に可能な限り依存しない方法論が必要になる。  
 
 大規模な工場誘致の時代が去った今、多くの小さなマイクロビジネスを多数生み出すために必要なことは、図書館に本を集積させることではない。インターネット上に、様々な形で再利用可能な状態で地域情報を集積させ、全ての人がそれぞれのニーズで検索できる体制を構築する。それが知識社会における産業集積のモデルのベースと言えるのではないだろうか。
 

<筆者紹介>藤元 健太郎(ふじもと けんたろう)
D4DR社長
1993年からサイバービジネスの調査研究、コンサルティングに従事、日本初のビジネス実験モール「サイバービジネスパーク」のトータルプロデュースを行う。99年5月、8年間在籍した野村総合研究所を離れSIPSを手がけるフロントライン・ドット・ジェーピーの代表に就任。2002年にD4DRを設立し,広くITによる社会システムや,ライフスタイル,企業戦略の変革のコンサルティングや調査研究,プロデュースを行っている。デジタルコンテンツグランプリなど各種審査委員も兼ねる。

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL
http://www.nikkeidigitalcore.jp/cgi-bin/mt/mt-tb.cgi/75

コメント一覧

メニュー