【ネット時評 : 土屋大洋(慶應義塾大学大学院)】
本当にユビキタスな情報社会へ向けて

tsuchiya2.jpg
 
 今、気になる研究テーマが、情報化の環境へのインパクトである。確かに情報化によってエネルギーはかなり節約されているだろう。テレワークが可能になったことでガソリンの消費が減っているかもしれない。しかし、逆に世界中で無数のサーバーが24時間365日稼働しているし、ブロードバンド常時接続の家庭はパソコンもつけっぱなしのことが多い。情報化は一方でエネルギーを節約しているが、他方で浪費しているに違いない。トータルで見たとき、情報化の環境へのインパクトはどうなっているのだろう。

次のブレークスルー

 D4DRの藤元健太郎社長とある研究会で一緒になったとき、アップルのマッキントッシュはコンピュータを個人に解放し、ネットスケープはネットワークを個人に解放し、Googleは知を個人に解放したと指摘していた。その次は何なのか。
 私はエネルギー、特に電力の解放ではないかと思う。われわれのIT機器は電力に依存している。電気がないところではパソコンは使えない。パソコンのバッテリーはまだ数時間、長くても二日程度しかもたない。ラップトップを持ち歩く人はもう珍しくないが、常にバッテリーのことを気にかけてしまう。喫茶店では無線LANにアクセスできることも重要だが、電源コンセントがあることも同じくらいに重要である。電源コードすら持ち歩かなくて済めば楽になるのにと思う。重さもさることながら、忘れたらどうしようという心理的なプレッシャーも大きい。自分のいくところすべてに予備の電源コードを置いておく人もいるが、効率的とは思えない。
 解決策の一つはバッテリーの持続時間が飛躍的に長くなることだろうが、いずれにせよ充電した電気は尽きる。それよりも、どこでも、それこそユビキタスに電源にアクセスできるようになるほうがいい。USBケーブルのような簡単なケーブル一本でどこでも電源が手に入るようになって欲しい。
 さらにいいのは、自分で発電できるようになってしまうことだ。自家発電式の時計があるように、パソコンの消費電力が格段に小さくなれば、歩くだけで充電できるようにならないだろうか。MITのニコラス・ネグロポンテ氏らが作ろうとしている100ドル・パソコン(別名Google PC)は、発展途上国でも使えるように発電用のハンドルがついている。ぐるぐる回すと使えるようになるわけだ。これは先進国でも取り入れたいアイデアだ。発電機がいたるところにあって、いつでも発電が可能で、10分も頑張れば3時間ぐらい持続するエコロジカルな情報社会は滑稽だろうか。

ユビキタスな環境へ

 そもそも、ディスプレーやキーボードのようにみんなが使うものをそれぞれが持ち歩かなくてはいけないのもおかしい。液晶ディスプレイが安くなってどこにでも置いておけるようになれば、持ち歩くのは大容量のメモリー・スティックだけで良いことになるだろう。例えば、飛行機の座席にはエコノミー・クラスでも個人用ディスプレイが付くようになってきた。ハードディスクに入った映画を見ることもできる。そのディスプレイを大きくして、キーボードをつけ、ユニバーサルにいろいろな言語が扱えるソフトウェアが入っていれば、バッテリーを気にすることなく機内で仕事ができる。足踏みしながら発電ができれば最高だ(エコノミー・クラス症候群対策にもなる!)。もちろん、ファイルや通信のセキュリティを確保しなくてはいけないことは、言うまでもない。
 ユビキタスにエネルギーを浪費し続ける情報社会は危険だ。エネルギー効率の改善が、情報社会の大きなブレークスルーになるはずだ。聞くところによると、交流100ボルトという電気システムは、ITにはあまり効率的ではないそうだ。情報機器の電力環境をグローバルに標準化できれば、かなりのエネルギー効率の改善が見られるのではないだろうか。
 どんな形でもいい。エネルギーを浪費しないITプラットフォームを作ることができれば、人類にとって多大な貢献である。これが可能になれば、本当にユビキタスな情報社会がやってくる。ここに日本の出番がある気がしてならない。

<筆者紹介>土屋 大洋(つちや もとひろ)
慶應義塾大学 総合政策学部助教授
1970年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部助教授。1999年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程修了。博士(政策・メディア)。1999年、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)講師・主任研究員。2001年から2002年までフルブライト研究員、安倍フェローとして渡米、メリーランド大学客員研究員、ジョージ・ワシントン大学客員研究員を兼任。2002年、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター助教授・主任研究員。2004年1月、富士通総研経済研究所客員研究員を兼任。2004年4月から現職。専門は国際政治学、情報社会論。主著に『ネット・ポリティックス-9.11以降の世界の情報戦略-』(岩波書店、2003年)、『情報とグローバル・ガバナンス-インターネットから見た国家-』(慶應義塾大学出版会、2001年)、『ネットワーク時代の合意形成』(共著、NTT出版、1998年)等。

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL
http://www.nikkeidigitalcore.jp/cgi-bin/mt/mt-tb.cgi/81

コメント一覧

メニュー