【ネット時評 : 片瀬和子(未来工学研究所)】
少子高齢化時代のICT利活用への期待

katase2.jpg
 
 昨年、明治以降続いてきた人口の自然増加がはじめて減少に転じることが明らかになった。日本は、人口減少が進む少子高齢化社会に本格的に突入したのである。日経デジタルコアの坪田代表幹事も、1月14日の日経ネット時評の冒頭で「日本が直面している最大の課題は少子高齢化」と述べている。

 また、1月11日に公表されたNHKの世論調査(全国の20歳以上の男女を対象として、RDD法により1月7日~9日の3日間実施。回答数1,127)でも、わが国の人口減少に対して75%が何らかの不安を感じていることが明らかになった。このように、少子高齢化はわが国にとって非常に大きな課題である。この課題にどのように対処し活力ある未来社会を築くべきか、考え直すべき時期に来ている。

 私の所属する(財)未来工学研究所では、昨年より少子高齢化社会のあり方について検討を始め、「slimジャパン」(http://www.iftech.or.jp/Slim_Japan_2.pdf,「slimジャパン」は(財)未来工学研究所が商標登録申請中)を提唱している。ここで掲げている“slim”とは、s: sustainable =持続する、l: livable =住むに値する、i:innovative =革新的な、m: matured =成熟した の頭文字である。単なる人口規模の減少だけに目を奪われず、(1)環境やエネルギー面でsustainableであること、(2)日々livableな生活が送れる社会であること、(3)技術や制度・システム面では常にinnovativeであること、(4)文化・社会としてmaturedであること――を目指す社会がslimジャパンなのである。

 slimジャパンを念頭に置きながら、昨秋(2005年10月)、住宅情報化推進協議会の委託により、「住宅情報化のユーザー実態・ニーズ調査」を実施した。主な調査事項は、住宅情報化の進展状況、住生活の課題、ICTの利活用による効果と今後の期待である。(「住宅情報化のユーザー実態・ニーズ調査」の詳細と結果に基づく提言は、住宅情報化推進協議会の会員専用Webサイトにアップされている。)

 この調査の回答者は、20歳以上のインターネットユーザー(オンラインアンケートサービスの会員)1,000人強で、その大半がADSLやFTTHといったブロードバンドユーザーである。年齢構成は2000年の国勢調査の年齢階級別人口構成比に準じたものとなっている。具体的な年齢別の回答者割合は、20代16.9%、30代17.2%、40代15.4%、50代18.6%、60代15.6%、70代以上16.3%で、60代以上を合算すると3割以上が高年齢層で占められており(全人口ではなく、20歳以上の成人に占める割合)、すでに2000年の段階で高齢化が進展していることを示している。

 上記調査の中で明らかになった、インターネットユーザーが持つ「日常生活におけるICT利活用の効果と問題解決への期待」の主な特徴を紹介したい。

生活の質的充実求める

1.ブロードバンドを日常的に利用している20代~50代の現役世代において、ICTを生かした在宅ワークへの期待が高かった。
2.20代~40代までの比較的若い世代は、ICTの利活用により家事等を効率的にこなし、在宅ワークも実践しつつ、安全・安心でゆとりのある豊かな生活を志向している。
3.いわゆる団塊の世代を含む50代は、ICTの利活用による「生きがい」の発見への期待が高かった。このことから、リタイア後に向けてインターネットなどを使いながら生きがいを見つけ、豊かな心持ちで、安心・安全な暮らしを実現したい意向があることが見出された。在宅ワークを志向し、仕事の面でもゆとりと充実を求めている人がみられた。
4.60代以上の高年齢層のインターネットユーザーは、他の世代に比べて「知識や知恵の体得」、「生きがい発見」、「個人の活力アップ」にICT利活用の効果を感じている人が多い。しがたって、ネットを活用しながら、家族や友人とのコミュニケーション、趣味・レジャーなどに生きがいを持って充実した生活を送ろうとしている高齢者の存在が浮き彫りになった。その多くは、今後、より一層健康に配慮し、安心・安全な環境の下で生き生きとした生活を送ることを志向している。

 これらをまとめると、「日常生活でインターネットを活用している人々は、ICTを生かして在宅ワークなどデジタルワークを実践し、生活の質的充実を図ろうとしている」ということができる。

ICTで活力と創造力を高める

 2月23日に開催された世界情報通信サミット(GIS)で、猪口邦子少子化・男女共同参画担当大臣は、少子高齢化社会におけるデジタルワークモデルのキーワードとして、「Enpowerment 能力を高める」、「Equality 平等性を活かす」、「Enrichment of life生活を豊かにする」を掲げていた(参照:http://www.nikkei.co.jp/summit/2006/)。偶然であるが、これらのキーワードは、前述した住宅情報化推進協議会「住宅情報化のユーザー実態・ニーズ調査」で明らかになったICT利活用への期待と合致している。その他、マサチューセッツ工科大学のトマス・マローン教授の基調講演をはじめ、この会議でのスピーチやプレゼンテーションには、slim時代の理想的なワークスタイルやライフスタイルを考える上で生かされるべき言葉が散りばめられていた。

 私は、slim化が進む社会で生活の質的充実をもたらす原動力となるのは、インターネットなどICTの利活用による各個人の活力アップと、日々の生活を起点とした創造力の高揚であると思っている。先日のアンケート調査から、高年齢層のインターネットユーザーは、すでにこれを実践し、その効果を体感していることは分かった。日常生活にICTを生かしている高年齢層の方々は、すでにslimジャパンの一翼を確実に担い始めているのである。

 少子高齢化社会においては、少子化の歯止め、労働力不足への対応など解決すべき課題は非常に奥深く、冒頭で紹介したように、国民への不安感も広がっている。このような社会的課題に臆することなく立ち向かい、不安を払拭するためにも、日常生活でICTを活かしつつ、社会全体の質的向上がもたらされなければならない。そして、高齢者に留まらず様々な年代の人々が、ICTの効用により活力を高め、互いに助け合い、創意工夫しながら生活を営むことによって、子どもを生み育てながら働きやすい社会に向かうことを期待したい。

 1月19日に決定された「IT新改革戦略」においても、少子高齢化社会を前提に様々な改革の推進が提案されている。これらの改革がslimジャパンの実現をけん引することを多いに願っている。

<筆者紹介>片瀬 和子(かたせ かずこ)
未来工学研究所 情報通信研究グループ リーダー
民間のシンクタンク勤務等を経て1991年未来工学研究所入所。「豊かな社会を実現するために、どのように新しい技術を活かすべきか」という視点から、情報通信関連の調査研究に従事。最近の主な調査研究分野は、サイバー・コミュニティ活動及び関連ビジネス、ブロードバンド関連サービス、欧州・韓国におけるブロードバンド・ICTの利活用。教育機関・行政機関の情報ネットワーク化。デジタルコンテンツ関連ビジネス等。

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL
http://www.nikkeidigitalcore.jp/cgi-bin/mt/mt-tb.cgi/86

コメント一覧

メニュー