【ネット時評 : 関根千佳(ユーディット)】
これでいいんかい、国の委員会(その6)

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 昨年夏に「スローなユビキタスライフ」を出版してから、私の人生は大きく変わった。これまで縁のなかった、国土交通省の委員会に呼ばれるようになったのである。

 私は経済産業省や総務省の審議会、委員会に呼ばれることは多かったが、国土交通省系は縁が薄かった。ユニバーサルデザイン(UD)に関しては建築や公共交通の専門家がたくさんいるので私が口を出す余地はなかったし、ITに関しては国土交通省が専門の審議会をもっているはずもなく、遠い世界だったのである。だから突然、国土交通省からお誘いがきたときは、正直に言って焦った。何か貢献できることなんてあるんだろうか?審議会に女性を30%確保するという枠のためだとわかってはいても、まるっきり貢献できない会議に座っているのは苦痛だし、何より自分の時間が惜しい。

 だが、話を聞いているうちに、参加してみたくなった。国土審議会という上部組織ではなく、その下で実際に国土計画を作る部会や、またその中で特に少子高齢化の進む地域を、これからどうやって活性化するかを話し合う分科会への参加だというのだ。UDとITが、日本の地域社会を再生させていくという「スローなユビキタスライフ」の趣旨に、確かに合致している。行くことにした。

 参加しているのは、当然ながら知らない分野の人ばっかりだ。同じ東大でも、工学部の情報系と、土木や公共政策とでは、ずいぶん雰囲気が違うものだなあ。でも、分科会はなかなか楽しい。実際に地域活性化でがんばっている街を訪ねたり、強力なリーダーシップで観光の振興を実現させた「観光カリスマ」の話を聞いたりと、実践を重ねている人たちの発言は大変に面白く、学ぶことばかりである。
 またこれまでまったく知らなかったが、国土交通省の職員は、実に優秀である。う~む、こういう人たちがやはり日本の官僚のトップクラスというものなのか、と思うことも多い。データの集め方、資料のまとめ方など、見習うべきところも多く、やはりこれまで三全総、四全総などと、国家全体の計画をまとめてきただけのことはあると感服した。

 だけど、その上の計画部会は、なんだかなあと思うこともある。まず、会場がでかすぎる。目黒雅叙園とか、フロラシオン青山といった、結婚式用の会場で行われるのである!その中に、国土交通省のみなさんと20名以上の委員が大きなコの字に並ぶ。全部で50人はいるだろうか?向こう側に並ぶ人の表情はよく見えない。距離が遠すぎて、コミュニケーションのできる範囲を明らかに越えている。豪華なシャンデリアが、なんだかとっても不似合いだ。こんなものの下で、数十年以内に関東近辺で大震災の起きる可能性が88%とか話し合っていて、この人たち、怖くないのかしら?
 なんでこんなにでかい会場が必要かというと、この会議、公開が原則だからだ。それは悪いことではない。だが、多くの傍聴者を入れるために会場が大きくなくてはならず、その結果として会議が盛り上がらないというのでは、本末転倒のような気もする。

 会議の進め方も今ひとつなじめない。要するに、議論ではないのだ。各先生方は、自説を披露する。それに他の人が同意することはあるが、反論して議論が沸騰するということはまずない。何かを決めるための会ではなく、意見を言った、という記録を残すための会に思えてしまう。なんだか、ものすごく古いタイプの会議に思える。

 IT利用もまったく進んでいない。まず、こんな大きな会場であるというのに、プロジェクターは一切使わない。プレゼンテーション用ソフトでまとめられた素晴らしいデータは情報として提供されるだけで、実際にはワードで打ち出した書類を説明する。どこを示しているのかときどきわからなくなり、隣の人に聞くこともしばしばだ。論点を整理して議論するための資料ではなく、官僚が作った報告書案を、聞くための会に思える。せめて内容をまとめて、プロジェクターで示せばいいのに。他の省庁ではあたりまえのことなのだが。

 また、可能であれば総務省の審議会のように、インターネットで動画配信してほしい。あの巨大な会場の傍聴者は、半分以上が地方から出てきた自治体職員だと聞く。確かに道州制や圏域をどうするかといった、自治体にとっては大変に関心のある国土計画なのだから、傍聴したいのは当然だ。ならば、国は世界一のブロードバンド大国だと自負し、U-Japanも進んできているのだから、インターネットで流せばいいではないか。オンラインで配信すれば、わざわざ地方から上京することもないだろう。時間も交通費も人件費も、もったいないことだ。それと、委員の間でのメーリングリストも、あまり使われていない。どうやらこの分野では、メーリングリストで事前に問題点を確認し参考情報を共有するというカルチャーそのものが、まだ根付いていないように見える。

 資料もスタッフも会場も、確かに素晴らしいのだが……外資系企業育ちの私には、やっぱりどこか違和感が残るのだ。こんなふうにして、国家百年の計が、決まっていっていいのだろうか?国民の幅広い参画を、と国土形成計画の案はうたっている。ITが、国民と国の間で、寄与できることは、本当はもっとたくさんあるはずなのだが。(私みたいなのが参加しているのがそもそもの間違いで、もっと発言力のある人を出すべきなのではないかなあ――)

<筆者紹介>関根 千佳(せきね ちか)
ユーディット(情報のユニバーサルデザイン研究所)社長
九州大学法学部法律学科卒。日本IBM SNS(スペシャルニーズシステム)センター課長を経て、98年株式会社ユーディット (情報のユニバーサルデザイン研究所)を設立。 WebサイトやIT機器を、多様な人々に使いやすくするためのコ ンサルティングを行う。経済産業省日本工業標準調査会、総務省情報通信審議会、国土審議会計画部会などの各省の審議会・委員会や、多くの自治体でUDやITに関する委員会に参加。美作大学客員教授、東京女子大・金沢大学・東海大学非常勤講師。主な著書『「誰でも社会」へ』岩波書店 2002年、『スローなユビキタスライフ』地湧社 2005年、『市民にやさしい自治体ウェブサイト』NTT出版 2005年 (共著)など。   ホームページ:http://www.udit.jp/

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