【ネット時評 : 田澤由利(ワイズスタッフ)】
「ネットで働ける」社会は本当に来るのか?――「教育」「管理」「仕事」のスパイラル

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 「ネットで働ける」社会を夢見て、7年半前に起業。地方に居ながら、コツコツがんばってきた。「今年こそは『ネットで仕事』元年に」と息巻いたこともあったが、なかなかそうはいかないようである。兆しを感じつつも、本格的な波が起こらない理由を自分なりに考えてみた。

「教育」 ~母子家庭の在宅就労支援モデル事業から~

 平成17年度、北海道による「在宅就労支援モデル事業」を担当した。母子家庭の母親を対象に、モニターを選定、在宅で働く環境を整備し、研修を実施。その後在宅での就労を行い、その調査結果を報告するというものだ。

 この事業の一番の難関は、「教育」だった。モニター条件は、「北海道在住の母子家庭の母親」「メールやネットサーフィンなどができる」「在宅で仕事をしたいという思いが強い」ことだけ。地域も、生活環境も、社会経験もさまざまなモニター20名を対象に、ネット上での研修が始まった。自宅でできるから簡単、なんてとんでもない。働くマインドから、ツールの使い方、そして、ジャンル別・業務別の実務研修が毎日続く。しかし、お母さんたちは頑張った。

 家計を支えるために昼間は仕事をしつつ、夜は遅い時間までパソコンの前に座る。彼女たちの根性と強い意志には、私も含め、スタッフ全員が感動した。

 そして、11月からの4カ月間、実際に受託した在宅の仕事を、彼女たちは見事にこなした。仕事の内容は、「サイトチェック」「画像加工」「商品調査」「メルマガ記事執筆」などだ。この事実は、私たちの会社にとっても大きな自信となった。「ある仕事をするためだけの、ノウハウと技術を教える」というピンポイント教育ができれば、もっともっと「ネットで働くことができる」ようになるに違いない。

「管理」 ~管理されることで生かされる能力の存在~

 弊社では、100名以上の在宅スタッフと共に、常時50以上のプロジェクトが動いている。各プロジェクトでは、チーフの進行管理のもと、複数のスタッフが協力しながら仕事をしている。仕事でやりとりするメールは、1日で100を超
えることも珍しくない。ネット上で、限りなく(リアルな)会社と同じ環境を実現することが目標だ。しかし、新しい形態であるがゆえに試行錯誤も多い。そんな中で、私が見つけたキーワードがある。「管理」だ。

 SOHO、フリー、在宅ワーカーなど、ネットで働くことを目指す人は、企業から飛び出し、自立しようとしている人のイメージが強い。しかし実際には、企業に属することで能力を発揮できるのに、なんらかの理由(出産・子育て・介護・地方への移転・定年退職など)で、企業を去った人の方がはるかに多い。そして、その人たちは、ネット上で管理されることで、その能力を生かすことができるのだ。

 そうなると重要なのは、「管理」する手法である。遠隔地にいる複数のスタッフを管理し、複数の仕事を遂行するのは簡単なことではない。これらのノウハウは、一個人や一企業のものとするのではなく、手法として確立され、広く公開されるべきである。いや、さらに進んで、学問の1つとして研究されても良いぐらいの価値があると私は思っている。

「仕事」 ~IT業界の製造業的な仕事は確実に発生している ~

 ある日テレビでニートの特集を見た。その中で、働きたくても仕事がない、若者たちの現実が語られていた。昔は、学歴にかかわらず技術を身につければ働ける場があった。たとえば、製造業の生産ラインなどだ。しかし、近年のオートメーション化、中国やインドへの生産移行により、この種の仕事が減り、「学歴がないと仕事がない」という状態になったことも、ニート問題が拡大した要因の1つだ、といった内容だった。

 しかし、「技術を身につければ働ける場」は本当に無くなってしまったのだろうか。その舞台が変わってきているだけではないのだろうか。企業のIT化が進む中、企業内では処理しきれない、単純で大量のIT業務が新規に発生している。たとえば、先のモデル事業でモニターが担当した2万件近くの「サイトチェック」業務。キーワードで自動分類しても、最終段階では人の目と判断が必要になる。その他、データ入力、画像処理、ソフトチェックなど、「IT業界の製造業的な仕事」は、確実に発生している。そして企業は、これらの大量業務をコストの高い社員ではなく、安心して発注できるアウトソーシング先を求めているのだ。

 このニーズに対し、「その仕事をするための教育」を行い、「その仕事を効率よくこなせるスタッフを管理」することができれば、ビジネスチャンスは確実に発生する。

ネットで働くための「教育」「管理」「仕事」

 専門学校という教育機関がある。この仕事をしたい、という目的のもと入学し、スキルを身につけ、そのジャンルの会社に就職する。これと同様に、「在宅で仕事をするための教育機関」が存在してもいいのではないか。

 大学という研究機関がある。経営学という学問が研究され、起業を目指して学ぶ学生たちがいる。これと同様に、「ネット上で会社を経営する学問」が存在してもいいのではないか。

 企業内のIT化が進んでいる。企業内では処理しきれない、大量のIT業務を、安心・確実にアウトソーシングできる発注先がもっと増えてもいいのではないだろうか。

 そして、「ネットで働く教育を受けた」学生が、学問として「ネットで人を管理するノウハウを身につけた」人の会社に属し、「企業からのIT業務を確実に受注する」というスパイラルが起これば、「ネットで働く社会」はそんなに遠いものではなくなるだろう。しかし現実には、最初の「教育」にも至っていない。悪徳業者とおぼしき「在宅ワークビジネス」が先行し、「在宅ワークの講座を受けるためにお金を払う」ことに対する社会的信用がなくなってしまっている。そのせいで、良質な企業までもが風評被害を受けていると言っても過言ではない。
 
 
 「ネットで働ける」社会が実現すれば、「少子化」「2007年問題」「地域の過疎化」など、日本のさまざまな問題に対して、1つのソリューションを出すことができる。国も大学も企業も、「ネットで働く」環境作りに、もっともっと注目し、注力して欲しいと心から願っている。

<筆者紹介>田澤 由利(たざわ ゆり)
ワイズスタッフ代表取締役
奈良県生まれ。上智大学外国語学部イスパニア語学科卒業。シャープ(株)にてコンピュータ関連の技術、企画、販売促進等の業務に従事した後、フリーライターとして独立。以来、3人の娘の出産、夫の5度の転勤による引越しを経つつ、SOHOとして、パソコン関連の書籍や雑誌のライティングをする。98年、SOHOがチームを組んで仕事をする「ネットオフィス」実現に向け、ワイズスタッフを設立。現在では、自社で開発し、2003年1月に発表した『ネット上のプロジェクト運営ツール「Pro.メール」』を活用して、海外を含む全国各地のSOHOスタッフ約100名が50ものプロジェクトを同時に運営している。2005年4月、株式会社ワイズスタッフに組織変更。主な業務内容は、ホームページ制作・メールマガジン編集・マーケティングなど。会社の拠点は、北海道北見市。

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