【ネット時評 : 大木登志枝(日本総合研究所)】
利用者の視点からコンテンツ活性化を考える

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 通信・放送融合の実現が確実になりつつある中で、コンテンツの活性化に向けた官民の積極的な取り組みが始まっている。だが政策は、コンテンツの供給に関わる環境整備について、主として供給者側からの視点で考えられているように思う。

 情報社会とは利用者が力を持つようになる社会である。現在生じている社会変化や経済効果は、インターネットという手段によって利用者(一般市民)が情報を入手し、共有・交換することで、主体的、能動的に活動できるようになった結果である。そこで、ここでは「利用者が主体的に行動する」点に着目し、コンテンツが影響を与える分野を広くとらえながらコンテンツの活性化について考えてみたい。(なお、ここでいうデジタル・コンテンツはデジタルデータで表現された文章、音楽、画像、映像などでウェブサイトも含むこととする)

リアルな活動につながるデジタル・コンテンツ

 デジタル・コンテンツは、自宅にこもって、端末を通して楽しむだけにとどまるものではない。人を主体的行動に掻き立てること、すなわち、購買や観光などのリアルな活動を起こさせるツールでもある。
 たとえば、「冬のソナタ(以下「冬ソナ」)」を観て韓国に関心を持ったAさんのケースを取り上げてみよう。

・ Aさんは、NHKで冬ソナをみてペ・ヨンジュン(以下「ヨン様」)のファンになり彼の出演するドラマをもっとみたいと思うようになった。
・ 思い立ってから1週間、インターネットで検索し、企業が運営する韓流情報サイトやファンの個人サイト、コミュニティサイトのURLを得てアクセスし、ヨン様に関するあらゆる情報を収集した。そのなかから「韓国のKBSやSBS、または系列のVOD提供サイトで過去の番組の視聴が可能である」という情報を見つけた。 
・ Aさんは、韓国テレビ局サイトにアクセスしてヨン様が出演する過去の番組をナローバンド版(約10センチ四方の大きさ)で無料で視聴した。VOD視聴に必要な登録方法についての情報も韓流ファンサイトから入手した。
・ ブロードバンドも視聴したくなったが、利用料の決済(小額決済)が日本からはできなかったので、日本にある韓流グッズ仲介サイトを通してKBS系列企業からその番組のビデオを購入した。
・ そのほか、新しい出演映画を見に行ったり、ファン同士で情報や映像を交換し合ったり、ファンミーティングにも参加した。また、関心が韓国全般に広がり、インターネットで韓国の文化や歴史、日韓関係についても調べた。韓国語を話したいと思いテレビの韓国語講座を見たり、韓国レストランにも頻繁に行くようになった。
・ ヨン様や冬ソナに関係のある場所への訪問やイベント参加のため韓国に旅行した。旅行関連の情報収集は、韓国の政府・ポータル企業の日本語サイトや韓流ファンなどの個人サイトから十分得ることができた。
・ 韓流情報サイトを通して韓国人俳優らによって冬ソナのミュージカルが札幌で上演されることを知り、観光を兼ねて札幌を訪問し観劇した。ミュージカルというものが予想以上に楽しかったので、東京では他の演目も観劇しようと思った。

 テレビ番組視聴からVOD視聴、ビデオ購入、韓国旅行、観劇と、Aさんの活動が拡大する際、利用したデジタル・コンテンツを分類すると次のようになる。

(1)好きになるきっかけとなったコンテンツ:NHK番組
(2)熱心さを高めた(“オタク度”を上昇させた)コンテンツ:検索サイト、韓国のテレビ局サイト、VODサイト、韓流グッズ販売サイト(韓流番組の情報提供あり)、韓流ファンの個人サイト、コミュニティサイト
(3)韓国旅行を充実させたコンテンツ:韓国政府・企業の観光情報提供サイト、日本の旅行関連サイト、韓流・旅行関連個人サイト、コミュニティサイト

熱心さを高めるコンテンツ「共有・交換サイト」

 Aさんの一連の行動のなかで大きな役割を果たしたのは、冬ソナという好きになるきっかけを与えたコンテンツだけではなく、主体的行動に駆り立てるような「熱心さを高める(オタク度を上昇させる)コンテンツ」であった。そうしたコンテンツのひとつに動画(映像)提供サイトがあり、韓国においては、VOD提供サイトを通して動画(映像)の提供が可能であったことが韓流ファンを急増させることに貢献したと推察される。
 もうひとつは、個人・コミュニティサイトなどのウェブサイトである。従来、企業から提供される情報は、当然のことながら個々の利用者の好みではなく、利用者の各セグメントの最大公約数的なもの、あるいは企業から売りたいものといった観点から発信されていた。一方、コミュニティや個人のサイトでは、関心や目的を同じくする者が集合し、様々な情報や音楽、動画(映像)などを共有し交換したり、ソフトウエアの無償公開などが行われている。一部のコンテンツについては著作権上問題があることも否めないが、こうした共有・交換サイトによって、個人が自分の欲しい情報を、国境を意識することなく、短時間で深く収集できるようになり、主体的に活動の範囲を広げることができるようになっているのもまた事実だ。
 
デジタル・コンテンツとライブ・コンテンツの相乗効果

 Aさんのケースにみられるように、TV番組や映画などのデジタル・コンテンツがきっかけとなって主体的に行動して行きつくのは、デジタルとは異なる感動を与える生(ライブ)の体験で、例えば海外の関連施設の訪問やイベント参加、観劇などである。これらのうち、オペラやミュージカル、演劇、コンサートなどをライブ・コンテンツと呼ぶこととする(広くはスポーツなども含まれる)。お気に入りのコンテンツをデジタルとライブで堪能したいという欲求をもつ利用者が多いのである。
 同時に、旅先でオペラを見てCDやDVDを購入するなど、ライブ・コンテンツからデジタル・コンテンツに広がる例も多い。この場合でも、共有・交換サイトを通して熱心さが高まるのは同じである。ライブ・コンテンツについての情報共有・交換サイトも多く存在し活発に利用されている。やはり著作権上の問題を指摘されているものの、「YouTube」は国を超えて人気がある。また、チケット販売や交換サービスを提供するサイトも数多く存在し、国内外の利用者の活動を支援している。デジタル・コンテンツを戦略的に活用することでライブ・コンテンツの活性化にもつながるのである。
 フジテレビとライブドアによる最初で最後の提携プロジェクト、すなわち、ミュージカル「グランドホテル」(2006年1月上演)の共催はこのコンセプトに近い。通信と放送の融合プロジェクトとして注目されていたものの、実際は、フジテレビが演劇の製作を、ライブドアがウェブ上でのPRを担当することで、ライブ・コンテンツとデジタル・コンテンツの相乗効果を目指したのではないか。
 
デジタル・コンテンツとライブ・コンテンツの活用で観光振興を

 2003年以降、冬ソナなどの韓流ブームをきっかけとしてAさんと同じように韓国へ旅行する人々が増加し、2004年の訪韓日本人数は前年比35.3%の大幅増となった。デジタル・コンテンツは、きっかけを提供し、熱心さを高め、そして、観光関連の情報も提供した。観光振興に観光情報サイトが重要な役割を果たすことは明らかであり、日本のIT新改革戦略にも「ITを活用した観光情報の発信強化」が含まれている。
 また、Aさんが札幌を訪問したように、ライブ・コンテンツを見るために人は移動する。すなわち、ライブ・コンテンツは観光資源になりうる。ライブ・コンテンツを楽しむ代表的な観光スポットとしてアメリカにはブロードウェー(ニューヨーク)があり、ヨーロッパにはウエストエンド(ロンドン)がある。とりわけ、ブロードウェーでは観客のほとんどは観光客と言われている。経済成長著しく、1人当たり所得が上昇し、観光客が増加しつつある東アジアにおいて、将来、ブロードウェーのような観光スポットが構築される可能性は高い。その最たるスポットは、文化・芸能の集積、観光客を含む観客動員数などを現時点で判断すると、北京でもソウルでもなく東京であろう。
 このことは、現在「ビジットジャパン」キャンペーンを展開している日本に示唆を与える。日本にはもともとライブ・コンテンツが豊富である。伝統芸能をみれば、歌舞伎や狂言、文楽、能がある。古典演目と同時に海外の人にも理解できる演目、たとえば、有名な海外演目の歌舞伎バージョンなどを提供すれば、観光客が日本の劇場に足を運ぶ契機となる。2005年7月に上演された歌舞伎「十二夜」(原作シェイクスピア)は、外国人にも十分受け入れられるだろう。ミュージカルの「オペラ座の怪人」など、歌舞伎化できる演目は多いと思われる。また、宝塚のような女性だけの劇団は世界でも珍しく、外国人も関心を寄せている。さらに、ミュージカルや演劇というジャンルについて言えば、その質が年々向上してきている。日本人の役者だけでなく、韓国人、中国人の役者を多く参加させた公演は、これらの国々の観光客を呼び込むことにもつながるのではないだろうか。
 観光振興とのシナジーを鑑み、「アジアのブロードウェー」の実現を目指すことも日本のコンテンツ活性化の一案と思われる。その第一歩として、現在のライブ・コンテンツの情報を、外国語の観光サイトや共有・交換サイトを通して海外に発信し、観光客がチケットをとりやすいサイトを構築するなどデジタル・コンテンツを活用することを提案したい。
 

<筆者紹介>大木 登志枝(おおき としえ)
日本総合研究所 研究事業本部 主任研究員
静岡県生まれ。津田塾大学学芸学部英文学科および米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)経営大学院修了。さくら総合研究所などを経て、日本総合研究所に入社。主として国内外のICT関連の受託調査・研究に従事。専門はアジアのICT政策・ICT産業。関心のある分野は、医療、環境、エンターテイメント分野におけるICTの活用。主要著書に「アジアインターネット白書」(2001年12月、アスキー)、共著に「情報サービス産業白書2005」(2005年、情報サービス産業協会)、「アジア FTAの時代」(2004年、日本経済新聞社)、「アジアネットワー
ク」(1997年、日本経済評論社)がある。

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