【ネット時評 : 築地達郎(報道ネットワーク/龍谷大学)】
労働力不足とロボット社会

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 サッカーのワールドカップ大会開催中のドイツで、もう一つのワールドカップが開かれた。今年10回目を迎えたロボットのサッカー大会「RoboCup」(ロボカップ)だ。世界36カ国から、440チーム、2500人が参加。6月14日から18日までの大会期間中に、20,000人を超える来場者が押し寄せたという。

 人間のサッカー大会は日本代表チームの闘いぶりに切歯扼腕(せっしやくわん)せざるを得ない場面ばかりだったが、ロボット大会の方は各部門で日本チームの奮闘ぶりが目立った。とくに注目の「ヒューマノイド(人間型ロボット)2対2部門」では、大阪から参加した「Team OSAKA」の『VisiON TRYZ』(ヴィジオン・トライズ)が優勝決定戦で劇的な逆転勝利を収め、ヒューマノイド・リーグ優勝を果たした。

 そのほかにも、ジュニアレスキュー(救援ロボット)部門で京都の高校生のチームが準優勝に輝いた。

「2050年に人間に勝つ」

 ロボカップは、「2050年にロボットのサッカーチームが人間のワールドカップ優勝チームに勝つ」という途方もない大目標を掲げている。提唱者自身も数年前には「実現できるかどうかではなく、目標を目指す過程で生まれる新技術に期待するプロジェクト」(ロボット研究者の北野宏明氏)と話していた。

 だが、毎年の技術進化ぶりを見ていると、この大目標もあながちブラフではないような気がしてくる。機械技術はもちろんのこと、ソフトウエアの進歩が著しい。従来の充電池に代わるエネルギー源の開発も進む。

 また、機械ではなく生化学的な反応で伸縮する人工筋肉や、神経に当たるセンサーを細かく埋め込んだ人工皮膚などの技術開発も着実だ。

 かなりの確率で、ロボットサッカーチームが計画通り、人間チームと互角に戦えるようになるのではないかと思えてならない。

 つまり、40-50年後には人間と同じ程度の俊敏さと判断力を持つロボットが登場する可能性が高いということだ。

日本社会は労働力不足に

 さて、その頃の日本社会はどんな様子か。

 国立社会保障・人口問題研究所の推計(2002年)では、2050年の人口は中位推計で1億60万人。2005年比約20%減だ。低位推計では9,203万人(2005年比約28%減)とも見ている。

 生産年齢人口(15~64歳)の減り方はもっと激しい。2050年には中位推計5,389万人(同約37%減)にまで減って、さらに減少を続けると見られる。当然、全人口の変化率との差は高齢人口比率増という形で表れてくる。

 医療・介護はもちろんのこと、警備やメンテナンス、飲食といった軽作業を伴うサービス産業の多くで労働力不足が深刻になるのは必至だ。

 2050年の日本で、労働力不足をロボットで補おうという動きが浸透しているのは間違いないように思える。

 とくに古い店舗で、狭い通路の拡幅すら難しいような中小企業の現場では、人間と同じ背格好のヒューマノイドが重宝されているのではないか。現に本田技研工業の「アシモ」は既存の店舗や家庭内の什器設備を変えなくても活動できることを前提に、サイズ設計をしている。

 また、独立行政法人産業技術総合研究所はこの4-5年、工事現場などで人間と共同作業できるロボットの開発を加速して、いい成果を上げている。

周辺制度整備も始動

 この5月、経済産業省のロボット政策研究会(委員長・三浦宏文工学院大学学長)がまとめた最終報告書は、レストランやビル清掃などサービス業界への具体的なヒアリングを踏まえて潜在的な「サービスロボット」需要を浮き彫りにした。

 ヒアリング内容は「店の規模の大小を問わず、金属製食器の拭き仕上げ作業は人間の手でしかできず最大のネック。これが自動化できれば画期的」(レストラン業界)などと、非常に具体的だ。

 その上で、ロボットメーカーのみによるシーズ主導の開発から脱却して、サービス事業者(サービスプロバイダー)との間で密接に連携を取りながらニーズ主導の開発をすべき段階に来たと指摘。「ロボット普及第二元年」と名付けて、ロボット導入に適したローンやリース制度の開発、安全性に関する法律整備や損害保険制度の充実などを求めている。

 いよいよ、周辺制度の整備が始動したわけだ。

労働力の選択に「心の余裕」を

 このようにロボットを巡るシーズ側とニーズ側の動き、そして周辺環境整備の動きを見るとき、今後の日本社会には大きく分けて2つの選択肢があることが分かる。

 一つは従来のように労働力不足を外国人労働力によって補うという選択。もう一つはロボットによって補うという選択だ。

 外国人労働力の導入は初期投資が少なくて済むし、労働力不足の解消に即効性がある。その代わり、ドイツなどが経験してきたように、安易に補完労働力として導入した移民との社会的和合にものすごいエネルギーを費やすことにもなりかねない。

 一方、ロボットの導入にはどうしてもある程度の先行投資が避けられないし、本当に非製造業の現場で使えるロボットの開発にはあと10年程度はかかるだろう。それまで待てるか。しかし、機械にも名前を付けたがる日本の場合、社会的な親和性は案外高いかもしれない。

 この選択をするのは、行政ではない。一つ一つの中小企業の現場だ。中小企業が心の余裕を持って労働力選択をしていけるよう、社会全体の戦略的サポートが必要になってくるように思う。
 
【参考URL】
RoboCup 2006 Bremen / Germany (http://www.robocup2006.org/)
RoboCup日本委員会 公式ホームページ (http://www.robocup.or.jp/)
 

<筆者紹介>築地 達郎(つきじ たつお)
報道ネットワーク社長/京都経済新聞社社長兼編集長/龍谷大学社会学部助教授
 1960年生まれ。日本経済新聞記者を経て95年独立。97年に報道ネットワークと京都経済新聞社を設立し、小規模報道機関のネットワーク構築に注力。2005年から龍谷大学助教授を兼ね、後進の指導にも当たる。
 著書は『ジャーナリズムの条件(第3巻「メディアの権力性」)』(共著、岩波書店)、『ロボットだって恋をする』(中公新書ラクレ)、『ビル・ゲイツが大統領になる日』(ウェッジ)、『CALSからECへ』(日本経済新聞社)など。

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