【ネット時評 : 藤元健太郎(D4DR)】
通信・放送問題、融合ではなく「ブロードバンドIPネットワーク化」の議論を

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 通信・放送融合について「通信・放送の在り方に関する懇談会(竹中懇談会)」以降さまざまな議論が起きている。実際には竹中懇の内部でも多くの視点で議論が行われたようだが、最終的な報告書を見るとNHK改革など個別の各論がクローズアップされすぎた感があり、全体ビジョンとしての柱が見えにくくなってしまっている。再度、その視点を自分なりに整理してみたい。

 まず前提が2つあると思う。一つ目は以下のようなレイヤー構造を持った「ブロードバンドIPネットワークを活用した社会システムが2011年に構築され、その上で国際競争力のある産業を多数花開かせる」ということへのコンセンサスの形成だ。筆者はもちろんYESであり、通信サイドの人々もおおかたYESだろう。しかし、放送業界からの、この部分に関するコンセンサスのあいまいさが全体のもつれを生んでいる。竹中懇では通信・放送の法体系の抜本見直し、という表現でレイヤー論も出てくるが、ここは「日本のエネルギー政策を石炭から石油へ」と同レベルの国家コンセンサスであり、ここに関しては全産業の統一的なコンセンサスがとても重要になる。その上で議論するべきは「通信・放送の融合」ではなく「通信・放送のブロードバンドIPネットワーク化」であり、放送という垂直統合の業態をこのレイヤー構造の中でどう定義するかを真剣に考えなくてはならない。それは地上波放送のハード・ソフトの分離という概念よりも踏み込むべきであろう。

<21世紀の全ての産業基盤になるブロードバンドIPネットワークのレイヤー構造>
・コンテンツレイヤー
・サービスレイヤー
・プラットフォームレイヤー(認証、決済など)
・IP接続レイヤー
・物理インフラレイヤー(光、無線、電波)

 二つ目はこのブロードバンドIPネットワークに適した著作権法改正と著作物管理の新体系の構築であるが、この話はそれだけで大きい問題なので、別の機会に述べることにする。

 これら前提の上での大きな論点は以下の4つである。

(1)21世紀の最重要社会インフラであるブロードバンドIPネットワークをどう最適に整備していくか

・インフラ整備を行うプレーヤーは誰か(通信事業者、放送事業者、行政、NPO、個人など)
・そのインセンティブは
・そのコスト負担は

 筆者の考えはこうだ。物理的なインフラについては地域特性(都市部、山間部、想定される災害など)に合わせ、多様な組み合わせを認める体系が望ましい。コスト負担も市場原理、税金、受益者負担など、状況に応じた多様性の存在を認めるべきと考える。上位のレイヤーであるIP接続レイヤーの事業者は、物理インフラは「借りる」形を標準にするべきであろう。通信事業者はすでに接続ルールやMVNO(仮想移動体通信事業者)の登場で、貸す部分と借りる部分が見えてきているが、各レイヤーごとのプレーヤーを標準にしながらも、今のNTTのような垂直統合プレーヤーの存在も認めるべきだ。放送については電波の帯域利用の議論である。

(2)新産業を創造するのはサービスとコンテンツの新プレーヤー

 国民生活を豊かにし、雇用を創出し、国際競争力のある新産業を育てるのはサービスレイヤーとコンテンツレイヤーのプレーヤーであり、NTTでもNHKでも民放でもない。むしろ彼らはこれからの日本の産業を「支える」存在なのだという認識が重要である。
 NTTにはすでにその意識がある(自分もプレーヤーの一部になる気合いもある)と思うが、問題はNHKや民放、総務省の放送行政局には放送事業者が新産業の創造基盤だという意識が無いところにある。
 放送業態も今後は自分たちの価値を他の事業者に活用してもらうビジネスを行うことを積極的に考えることが大事である。「日本のGoogle」のようなベンチャーや、製造業が情報家電などを通じて提供するハードと知識情報を融合させたビジネスなど、多数の知識流通産業が通信・放送を取り込んだブロードバンドIPネットワークの上に新しい価値を多数花開くことこそが、何よりも21世紀の日本においては大事であることを再度確認してもらいたい。

(3)既存事業者の既得権益保護と新規事業機会をどのように設定するか

 何よりも最大の論点はここであろう。本来(2)の方が大事な観点なのに、この論点がある限り既存事業者の守りの議論が中心になってしまう。

 A 通信事業者……すでに投資したインフラ整備コストを上位事業で回収させるのか、インフラ事業で回収させるのか。NGN(次世代ネットワーク)の議論も含めて、インフラコストを上位レイヤーからも回収できるスキームの構築が必ず必要になる。逆にそれがあることで、インフラレイヤーに徹するプレーヤーを多数登場させることができる。

 B 放送事業者……既存の既得権益を一定期間保護した上で、新規事業機会を与える。地方の放送局をはじめ,現在のビジネスモデルを維持できなくなれば立ちゆかなくなることを恐れる人は多い。2016年ごろまでのセーフティーネットの設定と同時に、新規のビジネスチャンスにチャレンジしやすい環境(税制優遇等)を用意する、などが有効か。かつて米国ダウ・ジョーンズ社のCEOは「新技術は驚異ではなく成長機会である」と述べた。この言葉の意味をかみしめてもらいたい。新規参入事業者(外資含む)を認めるのも刺激として有効だ。

(4)公的役割の確保と明確化

 A ライフライン・シビルミニマム……ブロードバンドIPネットワークにおける生活者としての最低権利(緊急連絡、災害連絡などを伝達する)の確保は前提になる。地上のIP網と無線・放送のIP網の連携はまさに重要になる部分である。

 B ジャーナリズム……放送の議論で出てくるジャーナリズムは、IPネットワーク上でも放送という垂直統合の業態の維持や記者クラブなどがあることで十部機能すると考える。むしろ新しいメディア形態の中でのジャーナリズムを構築していくことも重要であろう。

 C NHK……NHKの公共放送としての役割の再定義は必要であろう。中でもこれまで蓄積されたNHKのアーカイブコンテンツはまさに社会の公共資産だ。こうした公共資産を広くネットワーク上に開放し,新しい価値を付加した2次コンテンツ、3次コンテンツを生み出す(例えば学校の先生や教育産業が教育テレビのコンテンツから新しい教育コンテンツを作成して使う、ビジネスをするなど)ことを積極的に支援するのも新しい公共放送の役割ではないだろうか。

 政府与党合意が発表され、現在の認識はブロードバンドの普及と放送のデジタル化が完了する2011年以降に色々な実行プランがスタートする、という雰囲気であるが、筆者としてはそれでは遅いと考える。通信・放送業界の人達のことを考えるよりも先に、その上位レイヤーで次の日本を担ってくれる人達のことを考えるべきであろう。日本全体の産業構造からの優先度は間違いなくそちらのプレーヤーであり、彼らは今すぐにでもチャレンジするインフラとプラットフォームを欲しがっているのだから。

<筆者紹介>藤元 健太郎(ふじもと けんたろう) D4DR社長
1993年からサイバービジネスの調査研究、コンサルティングに従事、日本初のビジネス実験モール「サイバービジネスパーク」のトータルプロデュースを行う。99年5月、8年間在籍した野村総合研究所を離れSIPSを手がけるフロントライン・ドット・ジェーピーの代表に就任。2002年にD4DRを設立し,広くITによる社会システムや,ライフスタイル,企業戦略の変革のコンサルティングや調査研究,プロデュースを行っている。デジタルコンテンツグランプリなど各種審査委員も兼ねる。

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